なんかこう…どんどん現代から目をそむけている気がする。
なにもかも小津安二郎先生、あなたのせいだとおもいます。
ともかく神保町三省堂書店の一階の片隅で、
「昭和七年東京全図 定価二六二五円」
というのを買っちまったのがいけなかった。
これが隅から隅までおもしろい。
↓こんなの。
といっても小さくてわかりませんね。
帝都東京。
軍事施設がいかに多いか、がわかります。
北杜夫の「楡家の人々」の舞台…青山脳病院…
その東側は青山墓地…歩兵第一連隊…麻布連隊区司令部…
…第一師団司令部…と続きます。
すぐ北側には陸軍大学、なんてものもあります。
海軍大学は目黒、すぐ西隣、三田には海軍技術研究所。
あちこちに張り巡らされている黒い太線は「市電」
東京中に「チンチン電車」が走っていたわけですな。
ただ…小津安二郎がサイレントを撮っていた頃には
もう「時代遅れ」扱いだったような気が、なんとなくします。
現に小津映画にはクルマはよく出てくるが…
「市電」はあんまり記憶にない。
唯一おぼえてるのは「東京の合唱」(1931)で、
八雲恵美子&高峰秀子(子役時代です)が
父親役の岡田時彦がビラまきをしているのを見つけてしまう…
というおもしろいような悲しいようなあのシーンだけ。
母親と子ども二人が市電にのっているわけです。
他になにかありますかね?
戦後の「お茶漬けの味」「東京物語」あたりには
ちらっと画面の隅あたりにでてくるかもしれませんが…
えー…病膏肓に入る、というやつで、
古地図道…どんどん深みにはまり…
人文社「古地図ライブラリー別冊 戦前昭和東京散歩」
なる本を買ってしまう…これは新刊本が手に入らないらしく、
古本で8000円くらいした…
これは現代の東京の地図が右側のページに
昭和16年の大東京三十五区詳細図が左側のページに
…つまり見開きで現代と戦前の比較ができるという
大したものです。
はい。こんな…
相当に細かいです。
ただ…地図のそこここにコメントがついているのだが…
なんか陰気くさい。
地図の中に小学校が出てくると必ず「疎開」に関する情報がでてくる。
「戦中、270名が埼玉県北足立郡片柳村へ学童疎開した」
「戦中は3年生以上の児童230名が埼玉県熊谷市へ学童疎開した」
このコメントつけた奴は
どうも疎開やった世代なんじゃあるまいか?
それでコメントの全体のトーンはどうしても
「暗黒の戦前」「軍靴の響きがうんぬん」
「マッカーサー様万歳!」という雰囲気になっている…気がする。
はい。そこで登場するのが、
草思社「東京の戦前 昔恋しい散歩地図」①&②
それぞれ定価1600円、1800円なので、人文社の8000円からすると
かなりお得。
ただ…この本も、左、戦前の地図。右、現代の地図という体裁なのだが、
戦前の地図がちょっとだけ雑な感じがある。
というのも、昭和六年版「ポケット大東京案内」という
ガイドブックがネタ本になっているかららしい。
まあ、価格もそれ相応になっているか、と。
んでも、
文章は、例の「暗黒の昭和初期」「軍国日本」みたいな紋切り型でなく
明るいので、とてもよい。
あと小津安二郎情報がちょこちょこ入っているのがかなりうれしい。
まるで僕のために作られたかのようである。
1巻の58ページには「小津安二郎生誕の地」(深川一丁目)
おなじく1巻33ページ…
「天竹 小津安二郎も贔屓にしていたふぐ料理店。手頃な料金で、気軽におなかいっぱい美味しいふぐが楽しめると評判の人気店。…中央区築地6-16-6」
あったかくなったら、この本片手に出かけてみようか、などとおもっております。