①「若き日」=ぐるぐる映画
という公式が確認できましたので、
つづきまして、
②小津映画おきまりのヴォキャブラリー
これをみていこうとおもいます。
現存最古の作品においても、小津は小津であった。
おっそろしいほど首尾一貫した男であった、ことがわかるとおもいます。
〇カフェの窓際
が、まず出てきます。
あと、鳥籠というのもおなじみのモチーフ。
カフェの窓際というと……
「麦秋」(1951)の原節ちゃんと二本柳寛 ですかねー
あとは……
「淑女は何を忘れたか」(1937)の
桑野通子&佐野周二も忘れちゃいけない。↓↓
「若き日」(1929)から10年も経っていないのですが、
トーキョーのカフェはここまで進化したわけです。
テーブルも椅子もクローム鋼管でおしゃれ。
(ただ、戦前のこの手の家具はすぐ壊れたらしい、ときく)
ヒロインも桑野ミッチーなので、
「若き日」のアレの数千倍美しい。
〇引っ越し
というのもよくでてくるモチーフ・テーマ。
いちいち例はあげませんが。
そして
〇「玄関」
あるいは
〇「日本建築の空間の特殊性」
と呼び換えてもいいか??
「若き日」では
ヒロインの部屋を訪ねていった結城一郎が、
ヒロインが留守だと分かった瞬間、
脱ぎかけていた靴を また履きなおすというシーンがそれ。↓↓
ハリウッド映画に学んだ小津安二郎がまずぶちあたったのが、
西洋の空間構成と 日本の空間構成の違いであったようです。
具体的にいや、「畳の上の生活をどう描くか?」
「靴の脱ぎ履きをどう処理するか? あるいは無視するか?」
といったもの。
ハリウッド作品をいくら目を凝らして見ても、
この問題の答えは得られない。
自分で考えるより他ない。
で。どうするか?
色々な方法があるかとおもいますが、
小津安っさんが得た結論というのは――
「玄関でなにかが起こる」
という方法のような気がします。
一番分かりやすいのは「東京暮色」(1957)
原節子&山田五十鈴の母子対決シーンですかね。↓↓
あと「早春」(1956)
淡島千景がダンナの浮気相手の岸恵子と対決(?)するところ、とか。
「晩春」(1949)
原節子が愛する父の再婚相手(と周囲が騒いでいる)三宅邦子と対決(?)するところ、とか。
とにかく小津作品は「玄関でなにかが起こる」のです。
つづいて
〇お着替えシーン
んー、というか、昔の靴下、
めんどうくさそうだ……
お着替えシーンは小津作品に山ほど出てきますが、
「戸田家の兄妹」(1941)
の佐分利信&高峰三枝子といい……
「晩春」(1949)
の笠智衆&原節子といい……
のちのちの小津作品では
近親相姦的な やばい二人を表現するのに用いられるシーンとなります。
〇電車・汽車
これは説明の必要はないでしょう。
ヴィム・ベンダースは「東京画」で
電車・汽車の登場しない小津映画は存在しない、と語っています。
〇パイプ
というのもよく出てくる小道具。
後年の「麦秋」(1951) 「秋日和」(1960)で話題に出てきます。
〇「ドンキホーテ」
というと……
「淑女は何を忘れたか」(1937)
ではセルバンテスというバーが登場します。↓↓
〇ビール瓶
というのも良く登場する小道具。
あまりに多く登場しますので……
とりあえず「麦秋」(1951)の画像をば。↓↓
ここではキリンビール。とくにメーカーのこだわりはないような気がする。
そういや「出来ごころ」(1933)の喜八さんは
ビール工場勤務でしたな。
〇「いいお天気」
これまた頻出するセリフ。
ヒロインが空を見上げると――「まあ、いいお天気」
というに決まっています。
この伝統は「若き日」からすでに始まっている。
〇お見合いの写真
というのも良く出てくる。
なんつっても「麦秋」(1951)の
「ナベ」さんですかね。40歳のイケメンビジネスマン。
一度も画面上に登場しませんが。ね。
えー、さいご……
これはおもしろいモチーフです。
〇ストーブ&やかん
↓↓まん中に写ってるのは 笠智衆ですが……
非常に興味深い……
というか、不思議なのは、
「やかん」&「ストーブ」とくると、
かならず悪女が登場する。
という点です。
まずは「東京の女」(1933)↓↓
江川宇礼雄&田中絹代のかたわらに
やかん&ストーブ
「東京暮色」(1957)
山田五十鈴&有馬稲子のかたわらに
やかん&ストーブ
はい。で、おわかりのように
「若き日」(1929)
→ブスいヒロインが結城一郎&斎藤達雄をたぶらかす。
「東京の女」(1933)
→岡田嘉子がアカの売春婦だとわかり、弟の江川宇礼雄が自殺する。
「東京暮色」(1957)
→山田五十鈴が家族(笠智衆、原節子、有馬稲子)を捨てて、失踪する。
というおはなしなわけです。
んーしかし、こうやって比較してみても……
山田五十鈴……岡田嘉子……
あのブスいヒロインはどうにかならなかったものか??
と悔やまれます。
小津安っさんは美女しか撮ってはならんのです。