Quantcast
Channel: トトやんのすべて
Viewing all articles
Browse latest Browse all 593

小津安二郎「東京物語」のすべて その1

$
0
0

はい。


今回の記事から

「東京物語」に秘められた暗号をみていこうとおもいます。


毎度毎度長い記事になります。

よろしければおつきあいくださいませ。


「東京物語」――

最大の暗号はなにかというと、


それは……


・「うずまき」+「振り子」=「回転運動」


ということになろうかと……

言い換えますと、


・「東京物語」=「振り子時計映画」


ということになります。

つまり、ですね。


「えー? 東京物語?

たしか……

蚊取り線香が出てきて、みんなうちわをバタバタやっていた、ような……」

というアナタ、大正解!!


も一度、最初の公式を振り返りましょう。


・「うずまき」+「振り子」=「回転運動」


・「うずまき」(蚊取り線香)

・「振り子」(うちわ)


「ぐるぐる」と、「バタバタ」

がたくさんでてきて……


で。


ラスト。


香川京子たん そして 原節ちゃんが

・「回転運動」(時計)をみつめ、老若男女、涙を流す……という……


イギリスのなんとかいう雑誌が 映画史最高の傑作に選ぶ、という……



スマホ、じゃないからね。

懐中時計、ですからね。↓↓


はい。はやくも結論。

・「東京物語」=「振り子時計映画」


ようするにですね……

われわれは映画界の時計職人、

小津安二郎のつくりあげた振り子時計に感動してしまうわけです。


振り子時計の構成要素はもちろん

ゼンマイ(うずまき) そして 振り子、です。

「ぐるぐる」と「バタバタ」が生み出す回転運動、です。


□□□□□□□□


んー……


ただ。


「東京物語は振り子時計だ、って――

そりゃ、トマスさん、

アンタがさいきん振り子時計買ったからじゃないの?」


といわれると、なんか自分でもそんな気がする。

自分だけの妄想のような気がしてくる。


ただ……

ただ、ですね。


「東京物語」の次回作

「早春」の名高いキスシーンに


ゼンマイと振り子が出てくるのを目にすると――

……やっぱし、妄想じゃない。


これは小津安っさんの仕込んだ「暗号」だ、と確信が生まれてきます。


以下、4枚 「早春」です。


池部良と岸恵子たんの、腰を痛めそうなキスシーン。

ぐるぐる。

「うずまき」です。


現場にて

二人の姿勢を事細かに指示している

小津安っさんの写真が残ってますな。


ヒッチコックの「汚名」になんか似てるけど……

ケイリー・グラントとイングリッド・バーグマン。

映画史上最長のキスシーン。


でもこれは「ぐるぐる」「うずまき」です。


チューしてる二人のそばで

扇風機が首振ってます。

「振り子」


で、


人の気配を感じたらしい岸恵子たんが

ビヨーーーン

と池部良から離れます。


ここはもろにゼンマイ!!


で、何事もなかったかのようなふりをする岸恵子。


□□□□□□□□


はい。

じゃ、いかに「東京物語」が「振り子時計」しているか?

シナリオ順に見てまいりましょう。


S2

尾道の街の光景です。

一見なんということもないんですが……

やや、うずまき↓↓


はじめにいっておきますと……

S1~S6 尾道のシーンというのは


「晩春」と「麦秋」のパロディみたいで、


S3

平山家のシーンなどは

「晩春」のあの美しい「3」を思い出させます。


わざわざ説明するまでもないですが、

左から、香川京子、東山千栄子、笠智衆。

香川京子は笠智衆夫妻の末娘、という設定。


美しい構図。

しかも……安っさんお得意のパッキングシーン。


「戸田家」「父ありき」「晩春」「麦秋」

旅の荷物を準備している時、かならず何かが起こります。


シナリオはまたまたお得意の「時間」テーマが語られ……

やっぱり「東京物語」も「○」の映画なんじゃないか、と一瞬勘違いしそうになります。


周吉「これじゃと大阪六時じゃなあ」

とみ「そうですか。じゃ敬三も恰度ひけたころですなあ」


周吉「ああ、お前、学校が忙しけりゃ、わざわざ来てくれんでもええよ」

京子「いいえ、ええンです。五時間目はどうせ体操ですから」

周吉「そうか」

京子「じゃ駅で……」


尾道ではなにもかもが時間通りに進んでいきます。


国鉄マンの敬三の退勤時間ちょうどに、汽車は大阪駅に着く。

学校教師の京子は五時間目暇なので、ちょうど両親を送ることができる。


「○」です。

「麦秋」の前半がこんなペースだったことを思い出しましょう。


大和のおじいさま(高堂国典)を東京駅に迎えに行くので、

小料理屋「多喜川」で家族が落ち合う。

大和のおじいさまの歌舞伎見物が終ったのを

原節ちゃんが迎えに行く。

時間、時間、時間、で、

すべてが予定通りに進行していました。


S5


香川京子に子供たちが礼儀正しくお辞儀をします。


不人情な「東京」との対比に注目。


学校の先生だから、あたりまえといやあたりまえなんですが。


S6


京子たんが出勤し、高橋とよが登場するあたりから……


実は雲行きがあやしくなってきます。

「○」が壊れて、「うずまき」になってくる……


というか、高橋とよはなんか小津作品において

作品の結節点にかならず登場するような気が、するなーー


「晩春」の高橋とよは、例の能楽堂のシーンの直前に登場。

「麦秋」の高橋とよは、笠智衆に「専務さんの縁談」がとてもいいものだ、とおしゃべりします。


「東京物語」の場合は「空気枕」です。

高橋とよは「空気枕」の直前に登場するのです。



とみ「空気枕、そっちへ這いりやんしたか」

周吉「空気枕、お前に頼んだじゃないか」

とみ「ありやんしぇんよ、こっちにゃ」

周吉「そっちによう、渡したじゃないか」

とみ「そうですか」


この空気枕問答のあとに、高橋とよとのおしゃべりがありまして……

で、


とみ「空気枕、ありやンしぇんよ、こっちにゃ」

周吉「ないこたないわ。よう探してみい――(と云いながら自分の荷物の中に発見して)ああ、あったあった」

とみ「ありやんしたか」

周吉「ああ、あった」


えー先回りしていってしまいますと、

これが「うずまき」です。


ん――

……なんのことかわからない??


小津世界において、「○」は予定通りに物事が進行する世界、なのです。

ところが、「うずまき」は予定通りに物事が進行しない世界。です。


ここらで前作「お茶漬けの味」をふりかえってみましょう。

「お茶漬け」は「○」の映画、でした。


津島恵子が「ぐるーーー」とまわした指先は、元通りの頂点に戻ります。

それが円運動というものです。



ところが↓↓「うずまき」は

元通りの頂点に戻らない。


指でなぞってみてください。元の点にはぜったいにもどりません。


予定通りにはいかない。


だから……

エンジントラブルで予定外に帰宅した佐分利信の動きは「うずまき」


そして「空気枕」も――

笠智衆は東山千栄子に預けたとおもったのですが、

じつは自分の荷物の中にあった。


これは「うずまき」に他ならない……


ま。「空気枕」問答。

これは、もちろん、笠智衆、東山千栄子夫婦の

とぼけた味わい、それぞれの性格、等々がよく描かれた会話なわけですが、


それ以上にこれは「うずまき」です。


で、このうずまき運動を伏線としまして――


笠智衆、東山千栄子にとっては

「東京」という土地はなにもかも予定通りに物事が進行しない世界、

として出現するわけです。


血のつながった子供は薄情で、

孫は完全に「他者」で、

血のつながらない原節ちゃんだけが親切、という。


ま、このあたりは映画、ご覧になった方ならおわかりでしょう。

戦前の名作「一人息子」同様……

「東京」は予定をかならず裏切る土地なのです。


S7

老夫婦は東京にやってきたのですが、

駅にたたずむ女性はもんぺをはいている。


「麦秋」S130を思い出しましょう。

原節子と淡島千景の会話。


アヤ「秋田ってオバコでしょ」

紀子「うん」

アヤ「モンペ穿くのよ、あんた」

紀子「穿くわよ」


むしろ尾道の京子ちゃんの方がずっとモダン、という皮肉……


S11

三宅邦子登場。

平山幸一(山村聰)の奥さん、文子役。


まっさきに感じるのは……

「キタナイ」


どうしても「晩春」の曾宮家、「麦秋」の間宮家と比べてしまいます。



そして「うずまき」(提灯の紋)

「振り子」(ほうき)


の登場。という……



S16


なにもかも予定外のことが発生する「東京物語」において、

まず最初の悲劇を味わうのは実くん。


実くん役は「麦秋」に続き、村瀬禅くん。


実「お母さん! お母さん!」

文子「何?」

実「何だい! 僕の机廊下に出しちゃって!」

文子「だってお祖父さんお祖母さんいらっしゃるんじゃないの」


もちろん、予定外の出来事ですので、「うずまき」


ただ……

「東京物語」の実くんは、

「麦秋」の実くんほどの重要人物ではない。


笠智衆、東山千栄子にとって、理解不能の「他者」として存在します。


「ああラクチンだ。アラのんきだね」

と歌いながら首を振る、実くん。


振り子運動……↓↓


たぶん……位置的に、彼の頭のうしろには振り子時計があるはずです。


S20

笠智衆、東山千栄子夫妻が、平山家に到着します。


ね。↓↓振り子時計が(小さくてわかりにくいか……)


S26

平山紀子。原節ちゃん登場。


平山家の次男、昌二の未亡人という役。


なにかの本で、「原節子がもったいぶって遅れて登場する」

というようなことが書いてありましたが……


ま、そりゃそうでしょうが……


ここはもちろん「うずまき運動」なわけです。


文子「いらっしゃい」

紀子「おくれちゃって……」

文子「いらしったの? 東京駅――」

紀子「ええ、間に合わなくて……。皆さんお帰りンなったあと」


原節ちゃんも予定外のことが起きて、

時間に間に合わなかったのです。

こんなことは「麦秋」の世界では一度も発生しませんでした……


S26

とにかくキタナイ「東京」なのだが……


原節子のまわりには「晩春」「麦秋」の至福のイメージが

ぷんぷん漂っています。


というか、なんでしょね? この人の存在感は。


とみ「まァ、しばらくでしたの紀さん」

紀子「ご機嫌よろしゅう」

周吉「忙しかったんじゃなかったんか」

紀子「いいえ、なんですか、ゴタゴタしてまして、気が付いたらもう時間が一ぱいで……」


「時間が一ぱい」ということですので

「○」ではなく「うずまき」です。しつこいようですが。


周吉「やっぱり前の会社にお勤めか?」

紀子「はあ」

とみ「あんたも一人で大変じゃのう」

紀子「いいえ……」


「前の会社にお勤め」というのは一見円運動を描いているようですが……

推測するに……


「前の会社」にいた頃は、紀子の独身時代じゃなかろうか?

そのあと、昌二と結婚。

昌二の戦死。

再就職、という物語をかんじます。


とうぜん、これは円運動ではなく、「うずまき」

元の地点には戻れないのです。


――ん――……


というか、たったの四行でこれほどのドラマを描いてしまう、

小津安二郎&野田高梧コンビのすさまじさよ……


「麦秋」もすさまじかったが、「東京物語」もすさまじいです。


で、杉村春子が登場して、またしても「うずまき」


志げ「いつか学芸会の時、椅子こわしちゃったのよ」

とみ「嘘よ、ありゃ椅子がめげとったんじゃン、こわれとった」


過去の出来事ですが、

予想外の出来事、です。


S29


この、なんというんですか?

視力をはかる、モノ。


これ、欠けた「○」……


○の映画じゃありません、というしるしでしょう。


平山医院。眼科じゃないですから。もちろんメガネ屋さんじゃないし。

視力検査の表は存在する必然性がない。です。


わざと置いたのです。小津安っさん。↓↓



あとおそろしいのは、ですね……

実くんが読んでいる英文。


The spring month are March,April and May.

The cold winter is over.

Spring has come.

It is April now.


どうやら春の到来、を描いているようですが……


ん?


春?――spring??

スプリング……


はぁぁぁーーー、こんなところに「スプリング=ばね、ぜんまい」を仕込む!!

もちろん「うずまき」……


というか、小津安っさん、子どものセリフには必ず何かを隠します。

暗号をつめこみます。


「晩春」のブーちゃんのいう、「ゴムノリ」

「麦秋」の実くんの「パンとレール」――


S31

シナリオは


志げ「お母さん、お孝ちゃんどうしてます?」

とみ「ああ、お孝さんのう。あの人も不幸な人でのう。旦那さんに死にわかれて、去年の春じゃだったかのう。子供をつれて倉敷の方へ片付いたんじゃけどなんやらそこもええぐあいにいっとらんらしいんよ」


はい。もう飽きてきた方もいらっしゃるでしょう。

予定外の出来事が。「うずまき」


ついでにいうと、「東京暮色」で原節ちゃんが演じる役名が

「沼田孝子」


このお孝さんも結婚生活がうまくいっていない。


で、画面上は バタバタ と ぐるぐる。

うちわ(振り子)

蚊取り線香(うずまき)




で、ドンデンを返しまして――


志げ「片付いたの?」

紀子「ええ」

志げ「ご苦労さん」


という会話ですが、

「片付いた」というのが、さっきのお孝さんの話題と通じ合っていて、


「倉敷の方へ片付いた」……


さらに原節子の平山紀子が、未亡人であることを考えると、

なんか深い。


S35

で、床につく老夫婦。

息子の家のうらぶれた雰囲気にがっかりしています。


とみ「へえ――ここあ東京のどの辺りでしゃあ」

周吉「端の方よ……」

とみ「そうでしょうなあ。だいぶん自動車で遠いかったですけの……」

周吉「アア……」

とみ「もっと賑やかなとこか思うとった……」


はい。予定外。うずまき。


で、とんでもなく美しいうろこ雲のショットにつなげる……



うろこ雲――以前、「麦秋」のすべて、で

はかなさのイメージと書きました。


空のうろこ雲

脂粉の女の美しさ

どちらも長くは持ちません

ジャン・コクトオ


なのですが、「麦秋」においては

原節ちゃんが結婚を決めたあと、終盤に登場するのに……


「東京物語」では

はじまったばかりで、もう「うろこ雲」なのです。


□□□□□□□□


で、ご覧になった方ならおわかりのように、


このあと、山村聰は急患の面倒をみなきゃいけなくなったり、

熱海旅行が、騒がしい団体客のせいで台無しになったり、


とにかく予想外、がっかりの出来事ばかりが起るわけです。


で、そのがっかりイベントを支えるのが

「うずまき」「振り子」の運動、というわけです。


ただ……


「東京物語」を支えているシステム、運動、は

これだけではなかったりする……


のですが、

その2につづく。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 593

Trending Articles