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小津安二郎「東京物語」のすべて その8

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「東京物語」 ブルーレイ 買いました!!


アマゾンの評価とかみると、賛否両論で

「この程度のリマスターでこの値段 ぼったくり」

というような評価もあったりして悩んだのですが……


信頼できるお人のおすすめがあり、

(瑞希さん。ありがとうございます!!)

買いました。


いや、よかった、よかった。

これは買い、ですねー


↑初回限定の「シナリオ写真集」とかいうのが入ってました。


個人的にはそんなにたいしたものではない、とおもいますが、

いままで

「東京物語」のシナリオを読むには、

「小津安二郎作品集」なり

田中眞澄の「小津安二郎「東京物語」ほか」なりを

買わないといけなかったわけですから、


それがタダでついてくるのなら、お得かもしれません。


肝心の画質ですが……


1ショット目の「灯籠」は、ま。そんなものか、と思ってみてたのですが、


2ショット目で

「うわ!!」と感動しました。


↓このショットですが、

ビンがビンらしく

木の板が板らしく

白壁が白壁らしく

写っていたのに感動してしまった――……


このショットに限らず、

モノの質感、

テクスチャーがはっきり表現されていて感動しました。


あと、音質も、ノイズが減っていて、よかった。

以下、どのショットもどのショットも美しく、

音も聞き取りやすく、感動しっぱなし。

今までいったい何をみてきたのか??


「東京物語」に関しては

もうDVDはみれませんねーー



(えー↑↓ ブルーレイではなく、DVDの画像です。念のため)


平山医院の この 「砂時計形」「コカコーラ瓶」も

ブルーレイではすごくはっきり写っていて、↓↓


やっぱり

・コカコーラ瓶=平山紀子(原節子)

は、間違っていなかった、とかおもいました。



じゃ、なぜ、否定的な意見があるのか?

というと、なるほど。否定したがる頑固オヤジの意見もわかる気がする。


正直、ブルーレイが100点満点で何点かというと――

わたくしの評価は80点くらいかと思います。

少なくとも100点ではない。


毎ショット毎ショット、どこか硬質な印象を受けました。

ツァイスレンズのまろやかな やわらかな表現とはほど遠い気がします。

(「東京物語」の使用機材の正確な資料が手許にないのですが、「小津安二郎物語」p85「レンズはツァイスのものが好きだったんですが」 と厚田雄春がいってるので、ツァイスということにしときます……どこかに資料があるのだろうか?)


でもでも……

デジタル修復技術に、アナログの繊細な表現を求めるのは酷……

ない物ねだり。

そんな職人技。

「小津安二郎監修」あるいは「厚田雄春監修」でもないとムリでしょう。


お二人がいない今、

松竹とイマジカはいい仕事をしたとおもいます。


個人的には40年代の「父ありき」「戸田家の兄妹」を

こんな風にリマスターしてほしいのですが……


商売にならないだろうなーー

ムリだろうなーー


□□□□□□□□

もとい、その8です。


熱海でさんざんな目にあった

笠智衆&東山千栄子が、うらら美容院に帰ってくるところから。


S92

志げ「とてもネープラインがお綺麗ですもの。レフト・サイドをグッと詰めて、ライト・サイドにふんわりウェーブでアクセントつけて……」



副音声解説でもいってたけど、

小津安っさん、わけのわからんテクニカルタームがけっこうお好き。


このあと、東山千栄子が危篤になってから

S139「アーデルラッスして、ブルートドルックは下ったんですが…」

とか、

他の作品だと――たとえば、

「淑女は何を忘れたか」S5 斎藤達雄の……

「ゲルトネル氏菌は一八八八年、フランケンハウゼンに於ける中毒騒ぎの際、ゲルトネル氏によって発見されたが……」

なんてのがあったりする。


ちなみに小津組の撮影現場は

わけのわからない「軍隊用語」「鉄道用語」が飛び交っていた由。



志げ「もっとゆっくりしてらっしゃりゃいいのに……どうなすったの?」

両親が早く帰ってきちゃった。

がっかり→うずまき。


志げ「ちょいとキヨちゃん、あんた、ここピンカールして――」


ピンカールというのがよくわからんのですが、

カールでしょ? とうぜん、うずまき。


とあいかわらず「うずまき」だらけ。


うらら美容院の壁に映画のポスター、


これも好きね、小津安っさん。

ちなみにタイトルは

「シミ抜き人生」と「キンピラ先生とお嬢さん」


――いくらなんでもそんな映画、うそだろ?

とおもってたら、ホントの映画らしい。どちらも1953年の松竹映画、とのこと。


S93


志げ「ウウン、ゆっくりしてらっしゃりゃいいのよ。今晩はちょいと七時から家で寄合いがあるけど……いえね、講習会なのよ」


ここは、

「戸田家の兄妹」の引用。

三宅邦子が高峰三枝子と葛城文子を追い出すあたり……

S99

和子「だから節ちゃん、お母さまとどこかへ行っててほしいのよ……家にいて頂くとごたごたして却ってお母さまに御迷惑だったりなんだしするから……そう遅くはならないでしょうけど、七時か八時頃まで……どう?」


「七時」というコトバが共通してるのが、マニアごのみで良い。

とにかく数字には何かありますな~


小津安っさん、将来の小津オタクの出現を予測していたか??


――つづいて、


周吉(微笑して)「――とうとう宿無しんなってしもうた……」

とみも笑って頷く。


このセリフの凄みはなんでしょうね?


しかし……考えてみると、小津安っさん。


現存最古の作品「若き日」からして、

ころころと住む場所を変える男の話であった。わけです。


トマス・ピンコ風にいうと「空間論」というやつです。はい。


初期学生ものの主人公が住む下宿は、仮の宿。

サラリーマンものを撮り始めても、

「東京の合唱」はさいご、栃木への転居が語られ、

「生まれてはみたけれど」は逆に引越しからはじまる。


喜八ものの喜八さんは、放浪者のおもかげがあり、

「東京の宿」となると、文字通りの「宿無し」


「戸田家の兄妹」「父ありき」はころころ居場所が変わる人たちで――


「晩春」「麦秋」は、「原節ちゃんがいかに実家を離れるか?」

というこれまた「空間論」とみてよい。


「――とうとう宿無しんなってしもうた……」

このセリフはなんだか、小津安二郎の「空間論」の集大成のようなおもかげがあります。

 

余計なことを書きくわえれば、

「東京暮色」の有馬稲子は、東京中をうろうろ歩き回り、さいご、自殺。

という、これまた「宿無し」のはなし、だったりするし……

そうなるとアジア中を放浪する彼女の母親の山田五十鈴も「宿無し」

タイトルに「東京」がつく映画はどうも「宿無し」と関係があるのでは??


(そういや、小津安二郎の定住の地は、東京ではなく鎌倉であったなー)


S94

「上野公園の一隅」「そこのベンチに周吉ととみが腰をおろして、ボソボソ南京豆か何かを噛っている」


ここは「麦秋」のS75

「東京 国立博物館の庭」「周吉と志げがそこの芝生に腰をおろし、膝にサンドイッチを開いて、休んでいる」

の引用。


ちょうど真逆を向いていますが、

・上野

・二人でなにかを「食べる」

・紀子(原節子)のことが話題の中心


というのが共通しています。



で――「宿無し」になってしまった

笠智衆は知り合いの服部さん(十朱久雄)の家をたずねます。

S96


よね「尾道もだいぶ変わりましたでしょうなァ」

周吉「いやァ、ええあんばいにあそこは戦災を逃れましてなァ、アノ、お宅がおられた西御所の辺も昔のままでさあ」


変化なし、昔のまま、といいますので、

「尾道」というパラダイスは「うずまき」ではなく「○」なのです。



服部「アア、花時がすむと、うまい鯛が安うなって……東京へ来てからは鯛もサッパリ食えましぇんわ」


「鯛」――これは……



「戸田家の兄妹」S31

昌二郎「そうか。いや済みません。急に行きたくなっちゃって、鯛釣りに行って来た」

千鶴「困った人ね、なにも殺生しなくたっていいじゃないの、こんな時に……」



「麦秋」S30

茂吉「ウーム……嫁にゆこじゃなし婿取ろうじゃなし、鯛の浜焼食おじゃなし……ハハハハハ」


「戸田家」では葬式に結びつき、

「麦秋」では結婚に結びつく。

そしてこのシーンでは、ふるさとのイメージを醸し出す、という。



――なんか疲れ切ったので、今回はここで終わりにしときます。

中途半端ですが。


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