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易・五行思想で読む「南総里見八犬伝」 その2

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説明の順番を間違えていました……

 

「八犬士=八卦の化身」

……これを証明する前に、

「八卦」とはなんぞや?

これを説明しないといかんでしょう。

 

□□□□□□□□

以下、説明。

 

――「陰」「陽」この二元論で世界を表現しようという

ま、無謀な試みが「易」です。

(ただコンピュータの基本はON・OFFの二進法ですから……

古代版のコンピュータとおもえなくもない、が……

実際、かのゴットフリート・ライプニッツは易経の二進法システムにいたく感激していたとか、いないとか)

 

「―――」 →陽

「― ―」 →陰

穴、空白のないただの横線が「陽」

まんなかに穴、空白のある横線が「陰」です。

 

この「陰」「陽」を下から 3段重ねます。

そうするとできるのは……

 

☷☶☵☴☳☲☱☰

 

この8パターンです。単純に2×2×2パターンですので 答えは「8」なわけです。

これが「八卦」で、易の基本となります。

 

左から

☷(坤・こん)☶(艮・ごん)☵(坎・かん)☴(巽・そん)

☳(震・しん)☲(離・り)☱(兌・だ)☰(乾・けん)

と読みます。

それぞれ、

坤→地 艮→山 坎→水 巽→風 震→雷 離→火 兌→沢 乾→天

と象徴するものが決まっています。

 

といいますか……

上述のようにこれで世界を……宇宙を説明しようというのですから……

 

こんな表のように↓↓

 

たとえば、右端の

☰(乾)は、「天」「剛」「父」「南」(先天)「西北」(後天)「金気」を象徴することになります。

 

この八卦。さらには九星図という なんか東洋流の占星術みたいのとも絡み合うことになります。

 

「八卦」と「九星」の対照表がこれ↑↑

「一白水気」とか「二黒土気」とかいうのがこれです。

(じつは……気学、とかなんとかいうものとかかわってくるらしく、

あんまりよくわかっていません。勉強中です)

 

左上の「☰・乾」は 「6」ですので 六白金気

その下の「☱・兌」は 「7」ですので 七赤金気 となります。

 

おもしろいのは、左側の図が 数学でいう「魔方陣」になっていることです。

縦の項目を足した数字はどれも「15」

横の項目を足した数字……これまた「15」

ななめの数字は……これまた「15」

 

さらにいうと、1 2 3 4 5 これは易・五行では「生数」と呼ばれているのですが、

(6 7 8 9 10 は成数)

1+2+3+4+5=15

これまた「15」がでてくる、ということで、

 

この九星図というのはものすごく神聖視されているようです。

九星図に関して古代中国の神話があったりするんですが、それはパスします。

 

□□□□□□□□

はい、以上が「八卦」システムのおおよその概略です。

前回の八犬伝の話題に戻りますと……

 

 

この表により、八犬士のうち、四犬士は それぞれの卦がわかるわけです。

上から

震・☳→「仁」の玉を持つ、犬江親兵衛

離・☲→「礼」の玉を持つ、犬村大角

兌・☱→「義」の玉を持つ、犬川荘介

坎・☵→「智」の玉を持つ、犬阪毛野

これを敷衍しまして、
上の九星図と重ねますと……
 
震・☳=三碧木気=犬江親兵衛
離・☲=九紫火気=犬村大角
兌・☱=七赤金気=犬川荘介
坎・☵=一白金気=犬阪毛野
 
となります。
はたして、この仮説があっているのかどうか?
 
ここで吉野裕子先生がなにかというと引用してくる
田中胎東著「九気密意」という本を引っ張り出してきます。
(田中胎東というお方、
なんかよくわかりませんが「気学」の大家である由)
 
もし九星・九気の解釈と、「南総里見八犬伝」の人物像がうまい具合に一致していたとすれば、
曲亭馬琴は「易・五行」をもとに
「八犬伝」の構想を練っていた、ということが証明されることになります。
 
まず、
①震・☳=三碧木気=犬江親兵衛
これをみていきましょう。
 
三碧を長男となす。
三碧木性は、たとえ末子として出生すといえどもよくその兄姉を凌いで生家に顧尽し、
事実において後継たるの役をなすべし。
(香草社、田中胎東編「九気密意」81ページより)
→んーまさしく親兵衛です。
八犬士の中でひとり、ガキんちょのくせに最強というキャラ。
末子ですが、八犬士の筆頭です。
 
三碧を顕現とす。
顕現とは、陰闇を去って陽明につくをさす。
(同書82ページより)
三碧を発育となす。
宇宙森羅万象のうち、育つ、暢びる、小さきものが大きくなるの作用は、みなこれを三碧となす。
(同書83ページより)
→はいはい。親兵衛してます。
神隠しからの「顕現」
それから異常な成長っぷり。
 
三碧を仁となす。
仁とは、進んで人の幸慶を祐くるをいう。
(同書92~93ページより)
→親兵衛=仁。
八犬士の中でただ一人殺人を犯さないのはこの人です。
 
本命三碧木性の人は、その父との縁薄くおおむねその四歳、七歳、十歳、十二歳にこれと生別死別を見るに至るべし。しかして三碧木性その人にとりてはこれを不運となすよりも、むしろこれによってその後天の運はかえってますます剛強を加うべし。
(同書98ページより)
→これまた親兵衛してます。
両親とのはやい死別。ですが、両親の死の場面において、
親兵衛は他の犬士たちに出会います。
そして、伏姫さまに一番かわいがられるのは、もちろん親兵衛・仁 なわけです。
まさしく「後天の運はかえってますます剛喬を加うべし」
 
つづいて
②離・☲=九紫火気=犬村大角
をみてみます。
 
人、九紫の剋気を用うるや、その心眼曇りて精神朦朧たるに至るべく、これを祐気として用い、あるいは南方吉相の家に永居する時は、その心眼明光を発して見ずして知察するの能をうくべし、これを暗示という。
(同書223~224ページより)
→大角なんですが、
最初の登場場面は、化け猫にだまされている……
化け猫が化けた父親に孝行を尽くしている……というそんな少々マヌケなところから始まります。
そこを現八に助けられるわけなんですけど……
 
「心眼曇りて精神朦朧」とはぴったりです。
 
九紫を高貴となす。
九は数の最高にして、紫は色の最貴となす。
志操の崇高、技芸の高雅、識見の高邁、挙措の高尚を九紫という。
(同書225ページより)
→これまた、大角にぴったり。
八犬士の中でも どこかこう近寄りがたい雰囲気のある、それが犬村大角です。
 
九紫を争いとなす。
一切の喧嘩争闘を、九紫となす。
(同書227ページより)
化け猫が父親になって以降のめちゃくちゃ
そして雛衣(ひなきぬ・大角の嫁です)が自殺したあとの
血まみれシーンとか、もう、めちゃくちゃです。
「喧嘩争闘」です。
 
本命九紫火性の人は、(中略)
その智、明敏に過ぎ、その行、果敢に過ぎて独り聳えてその根を張らず、一朝有事の際自己に献身尽忠の知己、部下を得ずして身位をささうるあたわざるのおそれあり。
(同書240~241ページより)
→ここなんすけど、
例の「対管領関東幻想大戦」(by高田衛)における
大角先生の微妙な立ち位置をうまく表現しているような気がする。
 
大角は毛野と比べて 知力は勝るとも劣らない的なことをいわれるのだが、
けっきょく 「幻想大戦」を指揮るのはあくまで軍師・毛野たんであって、
大角先生ではない。
 
むしろ安房にある司令部から遠ざけられてスパイ任務というか、
謀略任務みたいのをやらされるわけである。
 
たぶん里見候は大角の「明敏に過ぎ」「果敢に過ぎ」というあたりを
よく見抜いていたのかもしれない。
 
九紫を心臓となす。
(同書231ページより)
雛衣の自殺→胸から「礼」の字の玉が飛び出し、化け猫を撃つ。化け猫の正体がバレる。
という壮絶シーンなんですが……
 
馬琴先生の名文を引用しましょう。
 

(おく)れはせじ。」と(ひな)(きぬ)が、はや握持(にぎりも)つつかの間に、

(きらめか)したる刃の電光(いなづま)刃尖(きつさき)深く()の下へ、ぐさと(つき)()(ひき)(めぐ)らせば、

()(ほとばし)鮮血(ちしほ)と共に、(あらは)(いづ)一箇(ひとつ)の霊玉、

勢ひさながら鳥銃(てつほう)の、火蓋を切て放せし如く、

前面(むかひ)に坐したる一角が、鳩尾(むな)(ぼね)(はた)と打砕けば、

(あつ)」と一ト声(さけび)(はて)ず、手足を(はつ)てぞ(たふ)れける。

 

(岩波文庫「南総里見八犬伝(四)」72ページより)
(んー、というか うまくフォントが揃えられない……)
 
大角の嫁、雛衣が刺したのは 自分の心臓だったのではないでしょうか??
 
以上、まだ二人しか証明(??)できていないですが、
また長くなりそうなので今回はここまで。

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