いったい誰が読んでくださるのか 八犬伝ネタ。
まあ、どなたか 八犬伝フリークの目に触れるようなことがあればいいのですが。
え、さて、
前回までの考察で
八犬士それぞれの「卦」が明らかになりました。
ので、以下のような表をつくってみました。↓↓
ひょっとして、「八犬伝」のプロットを練る
馬琴先生の机の上にも こんな表があったのかも??
この表と「易経」を片手に 頭を抱えてウンウン唸っている馬琴先生……
天才型ではなくて努力型の人ですからね――この想像もありえなく、ない??
たとえば 「大角・離・☲」と「毛野・坎・☵」は
「火」と「水」なのでえらく相性が悪いわけですよ。
一緒にいたらバトル必至。
なので対管領戦において
「水」の毛野は安房の司令部にいて
「火」の大角は品川あたり(だっけ?)で
ゝ大と一緒にスパイ活動にいそしんでいるわけ。
さらにいうと、「離・☲」と「坎・☵」の組み合わせ、
これは「易経」の最後2つの卦だったりします。
つまり……
「䷾」既済(完成)→離・☲が下、坎・☵が上。
「䷿」未済(未完成)→坎・☵が下、離・☲が上。
「易経」知識がない方には「なんのこっちゃ?」というはなしですが……
・「水」毛野と「火」大角が大活躍する 対管領戦で、「南総里見八犬伝」はフィナーレを迎える。
・「水」と「火」の組み合わせの卦で、「易経」はフィナーレを迎える。
と、この2つの書物の構造が似通っていること……
これは偶然とはおもえません。
どう考えてみても、曲亭馬琴は「易経」片手にプロットを練った
としか思えんのですが……
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今回は
乾・☰=六白金気=犬山道節
巽・☴=四緑木気=犬塚信乃
この二人を、田中胎東編「気学密意」にしたがって見ていきたいと存じます。
まず、
⑤乾・☰=六白金気=犬山道節
御神体、御本尊として明鏡玉剣、黄金仏を安置崇仰し、これを荘重に祭祀するはすなわち六白金気の用を畏敬するにあるのみ。
(香草社、田中胎東編「気学密意」152ページより)
はい。
悪名高い道節の登場シーン。
うさんくさい「肩柳道人」のエピソードそのままではあるまいか?
(道節、焼身自殺のパフォーマンスをしてお金を集めていた。
火遁の術を心得ているので道節自身、ピンピンしている……)
道節くんのふてぶてしいセリフ……
「わが一身には、常に仏菩薩宿らせ給へり。左は是天行の順路、肩は肢体の無上所なり。よりて東方、天照皇太神、西方釈迦牟尼仏、ここに止宿しをはします」
(岩波文庫、「南総里見八犬伝(二)」121ページより)
こんなこといって愚民ども(失礼)からお金を巻き上げていました……
六白を幼児となす。
四歳以下の幼少子女をみな六白となす。
(同書、156ページより)
道節のな~んか抜けてるところ、思い出しましょう。
はっきりいって 精神年齢低そうですよね~
マヌケなことをいっては毛野にとっちめられる、お得意のパターン。
人、六白の祐気を用うるや、新業の創始、旧業の拡張を発心して遂に大成を見るに至るべしといえども、この際資金不足して中途挫折の恐れあれば、前もってこれが対策を講ずるを要す。
(「気学密意」157ページより)
けっきょく仇討ちには失敗する道節。
けっこういいところまで行くのだけれど……成功はしない道節……
まさしく「中途挫折」……
六白を統率とす。
統率とは、上の下を指揮下命するをさす。
将の兵を用い、官の民を治むるを六白という。
(同書160ページより)
指揮るの大好き道節君。
まあ、あってるんじゃないでしょうか。お坊ちゃまだし。
六白を剛毅となす。
剛とは心気の強大をいい、毅とは心気の乱怯せざるをいう。すなわち、度胸の良きを剛毅となし、自ら信ずること厚く軽挙妄動せざるをさす。
そもそも乾道すなわち男道は剛毅をもって一貫す。男子剛毅ならずんばまた何をか成さんや。
(同書165ページより)
「男道」……ときましたか。
「男子剛毅ならずんばまた何をか成さんや」
道節くんちの床の間には こんなモットーをかかげた掛け軸がかかっていそうです。
さいごに卦の「乾・☰」なのですが、
「陽」が三つ重なりなんとも良さげな感じがしますが、
じつはそうでもないんです。
「易」はバランスを重視します。
「陰」と「陽」のバランスです。
「乾・☰」より 「離・☲」や「坎・☵」のほうがバランスが良いと考えます。
「陽」だけ三つというのはどこかあやうい。バランスが悪い、のです。
剛毅だけど、なんか抜けてる。
実行力はあるけど、失敗ばっか……
いよいよ道節君にぴったりの卦といえるでしょう。
おつぎ
⑥巽・☴=四緑木気=犬塚信乃
四緑を風となす。
風とは、大気の流動すなわち気流をいう。
(同書106ページより)
巽=風、です。
ここで、信乃が「信濃」と縁が深いことを思い出したい、
両親の番作―手束のカップルは新婚当時 信濃の温泉にいました。
信乃が生まれた時の番作のセリフ……
わが子の命長かれ、と祝のこころもて、その名を信乃と喚べきか。昔われ美濃路にて、不思議におん身と名告あひ、信濃路にして夫婦となりぬ。しのとしなのとその声近し。
(岩波文庫「南総里見八犬伝(一)」291ページより)
「信濃路にして夫婦となりぬ」ってのがなんとも艶な感じ……
あと、このあと 「この子、将来は出世して信濃の守護になっちゃうかも!」
とかいうのがなんとも若い夫婦の会話らしくていいのですが、
とにかく信乃は信濃と縁が深いのです。
で、その信濃ですが……吉野裕子先生はこんなことを述べておられます。
(トマス注:諏訪大社の神紋は「梶」である)・・梶の葉は諏訪神社の神紋でもあるが、梶を解字すれば、木と尾である。蛇は頭と尾とで成り立っているようなもので、他の生物とこの点で非常に異なっており、蛇の蛇たる所以は正にその尾にある。陰陽五行思想において蛇はまた木気であって、その木と尾の取合せである「梶」の字は蛇の象徴であろう。
蛇はまた「風」と同気の四緑木気である。それ故に蛇神の支配する信濃は古来、風の名所とされ「風の祝」(かぜのはふり)がおかれていた。
(法政大学出版局、吉野裕子著「蛇」155ページより)
諏訪大社のある信濃は風の名所、とされていたらしいのです。
犬塚信乃=犬塚信濃=風・巽・☴
というわけ。
以上、これだけで証明は終わったような気もしますが、続けます。
人、四緑の祐気、巽方の祐気を用うるや、銀行、会社、官庁に通勤、就職するに至るべく、これを剋気として用うるや、書簡、電報、電話のまちがいをもって事の調談を破るに至るべし。
(「気学密意」111ページより)
信乃の就職活動が無残に失敗したことを思い出しましょう。
村雨丸がすり替えられていたことに面接寸前になって気づく、という信乃でした……
四緑を縁談となす。
(同書113ページより)
信乃―浜路のカップルのことです。
恋愛らしい恋愛が描かれる八犬士は信乃、ひとりだけです。
(小文吾―毛野もあるけど……毛野がたぶらかしただけ、なので)
大角―雛衣もあるけど、もう結婚しちゃってるからな。夫婦だからな。
四緑を長女となす。
(同書116ページより)
これもポイントだとおもいますよ。
信乃は女装した少年として登場するわけですけど……
信乃の女装って よくよく考えてみると、そんなに必然性はない。
アキレウスの女装とか、ヤマトタケルの女装とか、いろいろ考えたくなりますが、
信乃って女装を利用してなにかするわけじゃないし……
とにかく毛野の女装は意味があったけど、信乃の女装は、
一風変わった両親のヘンテコな趣味
以上のものではないような気が……
なんですけどね。「四緑を長女となす」
これを生真面目な馬琴先生はやりたかったんではないか。
あくまで真面目にこれを貫きたかったんじゃないか。
つまり、
一番最初に登場する巽・☴の犬士は
あくまで「長女」でなくてはならなかった。
わけです。
これが信乃の女装の真の意味です。
はい、以上 道節。信乃の証明終わり。
次回、小文吾、現八をみていきたいとおもいます。