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気学で読み解く「晩春」(小津安二郎監督)その1

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はぁ……また、気学……

一白水星とかなんとかいってる、アレ……

 

トマス・ピンコの野郎、へんなオカルトにはまっちゃって……

そのうち「ぼく、占い師になる!」とか言い出すんじゃないの??

 

――とかお思いの方もいらっしゃるのではないか

と思うのですが、

本人は大まじめだったりする……

(すみません)

 

小津安二郎×野田高梧は、最高傑作「晩春」(1949)のシナリオを創造するにあたって

気学を応用したんじゃないのか――

以下、そんな推測です。

 

□□□□□□□□

九星というのは、それぞれの年を支配している星がある、という

東洋流の占星術みたいなヤツなんですが……

この星、「年」だけじゃなくて 

「月」「日」「時間」もそれぞれ支配、というか、影響をおよぼしていたりする、らしい。

 

早い話。本日 西暦2017年12月8日 というのは、

2017年(平成29年)→一白水星

12月→七赤金星

8日→五黄土星

という風になっているのです。

(これは暦をみてもいいし、インターネットで計算してくれるサイトもあります)

つまり、今日は「五黄土星」の日。です。

 

で、わたくしが最近読んでいる

波里光徳編「気学問答集」というのをみると、

それぞれの星の日に何が起こる、どういう人が訪ねてくるとかいうはなしが書いてあるわけです。

(ちなみに、「五黄の日は、どんよりとした曇り空か、天候が変化して大荒れとなる事がある」とか書いてあって、

関東地方ではけっこうあたっていたりします)

 

まあ理屈はこのへんでいいや。

具体的に「晩春」を気学で読み解いてみましょう。

 

□□□□□□□□

気学的に見ますと、

どうやら「晩春」の最初の日は

a,三碧木星の日

であったらしいのです。

 

三碧木星の日には、どんな人が訪ねて来たり、どんな話が出たり、又どんな事が起こったりするか?

1、若者が訪ねて来る。

2、電気屋が来る。

3、行商人や勧誘員がやって来る。

4、珍しい話が持ち込まれる。

5、新しい考えの話題が出る。

6、快晴の日が多い。

(東洋書院、波里光徳編「気学問答集・第一巻」32ページより)

 

と、波里光徳先生の本に書いてあります。

で、「晩春」をみますと……

 

S4

紀子「でもブーちゃん、縞のズボン穿いたらおかしかない?」

まさ「なんだっていいのよ、膝から下切っちゃって、どう?」

 

叔母のまさ(杉村春子)が、 紀子(原節子)にむかって

叔父さんのズボンを 半ズボンに仕立ててくれ、と頼んでいます。

 

けっこう奇抜なことをいってます。

「珍しい話」「新しい考え」……三碧木星……

 

((*´Д`)ハァハァ……原節ちゃん………………………)

 

同じころ、

曾宮家では……

S9

助手の服部さん(宇佐美淳)が、

東大教授の周吉(笠智衆)の原稿の手伝いをしています。

 

若者が訪ねて来る……三碧木星……

 

そして、これが決定的です。

声「電灯会社です、メートル拝見します」

周吉(書きつづけながら)「ああどうぞ」

声「踏台貸して下さい」

 

あとになってこの電気屋さんがゲーリー・クーパーに似てるとかいう話題の伏線になるのですが、

いやそんなことよりも……

 

「電気屋が来る」……

 

もう、決定的です。

「晩春」で描かれる最初の日は、まさしく三碧木星の日なのです。

 

では次の日は……

b,四緑木星の日

四緑木星の日には、どんな人が訪ねて来たり、どんな話が出たり、又どんな事が起こったりするか?

1、縁談が持ち込まれる。

2、遠方から人が来る。

3、建具屋が来る。

4、道に迷ったりする。

5、風が吹く。

(同書33ページより)

 

S21

紀子(通りすがりに気がついて)「小父さま――」

小野寺「あ、紀ちゃんか――」

紀子「いつ出ていらしったの?」

 

周吉(笠智衆)の親友の小野寺(三島雅夫)が京都からやってきます。

遠方から人が来る……まさしく四緑木星の日です。

 

(↑↑……というか、ものすごい構図のショットだな……)

 

S26

その夜。

小野寺が曾宮家を訪問。

その会話。

 

小野寺「ここ、海近いのかい」

周吉「歩いて十四、五分かな」

小野寺「割りに遠いんだね、こっちかい海」

周吉「イヤこっちだ」

小野寺「ふウん――八幡様はこっちだね?」

周吉「イヤこっちだ」

小野寺「東京はどっちだい」

周吉「東京はこっちだよ」

 

完全に迷子……

「道に迷ったりする」……まさしく四緑木星……

こわいくらい気学の教え通りになっています……

 

次は

c,五黄土星の日

五黄土星の日には、どんな事が起るか?

1、古い問題や古い友人の話が出たり、古い病気が再発したりする。

2、腐った物や毀れた物を持ち込まれたり、届けられたりする。

3、納豆・酒粕・味噌・甘い物を買いに行ったり、貰ったりする。

4、五黄の日は、どんよりとした曇り空か、天候が変化して大荒れとなる事がある。

(同書33ページより)

 

S31

杉村春子のうちで、

笠智衆、杉村春子の兄妹の会話。

まさ「だって、あたしなんか胸が一ぱいで、お色直しの時おムスビ一つ食べられなかったもんよ」

周吉「今なら食べるよお前だって」

 

まさ叔母さんの結婚当時のはなしなので

古い問題……

 

で、決定的な「五黄」要素は……

 

S34

曾宮家で……

 

周吉「叔母さんとこで奈良漬貰って来た、カバンにはいってる」

 

で、その奈良漬けをカバンから取り出す原節ちゃん。

ん、

奈良漬……

奈良漬??

酒粕使いますよね。もちろん。

 

まさしく、

「納豆・酒粕・味噌・甘い物を買いに行ったり、貰ったりする」

 

(原節ちゃん祭、開催中!!……)

 

「五黄土星」は腐敗とかの意味があり、

そこから発酵食品全般につながります。

(納豆、酒、味噌、チーズとかもそうだろうな)

 

今までずっと「奈良漬」は謎だったのですが……

まさか、五黄土星と関係があるとは……

 

しかし、「五黄」これだけで終わりません。

 

S37

笠智衆・原節子父娘の なんともうらやましい夕食風景ですが……

 

周吉「叔母さんがね、どうだろうっていうんだけど……」

紀子「何が?」

周吉「お前をさ、服部に」

 

 

紀子、途端に吹き出しそうになり、茶碗と箸を置いて、笑いを忍ぶ。

周吉「なんだい?」

紀子「お茶……お茶頂戴……」

周吉(お茶をついでやりながら)「どうしたんだ」

紀子「だって、服部さん、奥さんお貰いになるのよ、もうとうからきまってるのよ」

周吉「――そうか……」

 

笠智衆&杉村春子は

宇佐美淳と原節子を結婚させようとしますが……

(どうして今までこの縁談をおもいつかなかったのか??――灯台下暗しというやつか??)

 

服部さん(宇佐美淳)はもう別の人との結婚が決まっています。

はい。「五黄」してます。

腐った物や毀れた物を持ち込まれたり、届けられたりする。

というわけ。

 

ただ、そのあとのシークエンスは、なんとも切ない感じ。

 

紀子(原節子)&服部さん(宇佐美淳)は、

タイミングさえよければ結ばれていたはずのカップルだったようなのです。

 

S41

ヴァイオリンリサイタルの会場。

紀子を誘ったのですが、断られた服部さん。

 

 

S42

丸の内を歩く紀子のすんばらしいショット。

 

(これはロケ、だよね?? 丸の内??)

 

どれもこれも毀れたもの、毀れたはなし、というわけです。

 

「晩春」のこのあたりのシーンを構想している小津安二郎の頭の中に――

 

水久保澄子たんの姿があったかどうか??

(「非常線の女」より↓↓)

 

それはわかりません。

 

五黄おわりまして

d,六白金星の日

です。

 

六白金星の日には、どんな人が訪ねて来たり、どんな話が出たり、又どんな事が起ったりするか?

1、弁護士・計理士・僧侶の話が出たり、又それらの人々が訪ねてきたりする。

2、大きな話が持ち込まれる。

3、投資・特許・発明などに関する事が起こる。

4、政治の話が出る。

5、競輪・競馬の話が出たり、又それらに出掛けたりする。

6、快晴の事が多い。

(同書34ページより)

 

S47

親友のアヤちゃん(月丘夢路)が鎌倉に遊びに来ます。

 

アヤ「あ、クロちゃん来なかった。あの人今これなんだって、ラージーポンポン。七か月……」

紀子「ふウん、あの人いつお嫁にいったの?」

 

妊娠のことを「ラージポンポン」といいます。

おなかが大きい。

「大きな話」

 

バツイチのアヤちゃんと、未婚の紀子の会話です。

 

紀子「あんた、まだヒット打つつもり?」

アヤ「そうよ。第一回は選球の失敗だもの、今度はいい球打つわよ。行っちゃいなさい、あんたも早く!」

おわかりのとおり、結婚のことをいってます。

なんというか、結婚=ギャンブルみたいな口ぶりです。

「競輪・競馬の話が出たり、又それらに出掛けたりする」

 

もちろん、小津ファンならば誰でもご存知の通り、

「麦秋」のアヤちゃん(淡島千景)は、

「幸福なんて何さ! 単なる楽しい予想じゃないの! 競馬にいく前の晩みたいなもんよ」

と断言しております。

 

六白金星 まだ終わりません。

 

アヤ「ジャムない?」

紀子「ある」

アヤ「持って来て、少し」

紀子「どっさり、実は」

アヤ「そう」

 

どっさり……

また、「大きな話」です。

 

以上、なんか長くなりそうなので七赤金星以降は次回。

 

今日のところを要点だけまとめますと、

a,三碧木星の日→若者、電気屋さん

b,四緑木星の日→遠方から人が来る、迷子になる。

c,五黄土星の日→発酵食品(奈良漬け)、毀れた話。こわれたカップル。

d,六白金星の日→大きな話。ギャンブルの話。

 

というわけです。

で、これがことごとく「晩春」のシナリオにあてはまっているわけです。

 

どうでしょう?

どう考えても、野田高梧×小津安二郎は気学を応用したとしか思えんのですが……

 

その2につづく。


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