1930年代に「あたい」が作った、市川春代スクラップブックを眺めております。
30年代少女「あたい」は何者なのか?――というのをよく考えるのですが、
・字がやたらうまい
・独特の美的センスの持ち主
・80年後まで残る質のいいスクラップブック(舶来品?)
・大量の雜誌と暇な時間が必要なスクラップブック作成
というところから、ある程度裕福なお嬢さまだっただろうと推測できます。
「お前、そんな暇あるなら、うちの仕事手伝いな!」
などと言われる御身分ではなかっただろうと推測できます。
また、スクラップブックに、のりで貼られなかった切抜きが何枚もはさんであることから、
このスクラップブックは、中古車でいうところの「ワンオーナー」なのではないか?
と推測されます。
(ワンオーナーでなかったら、こんな小さな切抜は散逸して、残っていないと思う)
さらに……勝手な推測、というか妄想ですが、
「あたい」は幸せな結婚をして 空襲やら天災の被害を受けず
あたたかな家庭を築いて 長生きをして亡くなった、のではないか。
「あたい」のご子息・ご息女はあたたかい人たちだっただろう、とおもいます。
「あたい」を尊敬していただろうとおもいます。
冷たい人たちなら、即座にこんなスクラップブック、処分してしまったのではないか?
古本屋に持って行くより、ゴミ箱にポイ、のほうがはるかに楽です。
けれど……
「このスクラップブック、婆さんが大事にしてたものだけど」
「昔の女優さんかねえ?」
「私達には価値がよくわからないけど」
「古本屋さんなら価値がわかるかも」
と、某古本屋の手に渡り、そこから戦前日本大好きトマスの野郎の目にとまった……
んーー……というか、「あたい」は結構な有名人、著名人という可能性だってあるような気もする……
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もとい、
〇24ページ-25ページ
この見開きはロリータ趣味でまとめている印象です。
(もちろんナボコフの「ロリータ」(1955)が存在しないから、そういう概念は1930年代には存在しない)
(ただ菊池寛の小説などよむと「ベビーエロ」などという言葉が出てきたりはする)
んーなのだが、24ページはすごく謎な一枚↓↓
インダストリアルな雰囲気の……一体どこで撮ったのか?
なんとなく船のなかのような印象があるんですが、おわかりの方ご教授願いたい。
あと、気になるのは靴下で。
戦前アサヒグラフを読みふけっているわたくしからみると、
こういうくるぶし丈のソックスは子供が履くもの、という感じがする。
この頃の日本人がいう「靴下」は 今でいう「ストッキング」で、
太ももまで丈があってガーターで留めるもの。
この写真で、ハル坊がはいているような靴下は「半靴下」と言ったようです。
だが、まあ万年ロリータのハル坊はこういう恰好が許されるのでしょう。
にしても何に腰かけているんだ??
右の写真は
「藥用 モンココ洗粉」の廣告なのでしょう。
洗顔フォームみたいなものか?
左の写真は
キューピーさんが若干気味が悪い(笑)
ハイヒールのせいか、すごく脚が長く見える。
この見開きに挟まれていた切抜。
前回も同じことを書きましたが、
「あたい」は独特のこだわりがあって、適当な隙間に貼るということをしない。
〇26ページ-27ページ
この見開きは、右下の写真だけが異質な印象。
しかし、ハル坊の視線の向きが見事に揃っているんだよな。
どれも左ななめ上に向かっている。
やはり「あたい」には何か考えがあって、この構成なのだろう。
かわいいです。
モデルのハル坊としてはちと苦しそうな姿勢。
座らせて撮っているのか?
なにかの映画のスチールか?↓↓
カレッジ・ロマンスみたいなものか?
(同時代のハリウッドにはそういう作品がよくあった)
(日本では当時、共学の学校は文化学院だけだったとおもうが)
――にしても、高所恐怖症ぎみのわたくしにはちょっと恐ろしいような写真でもあります。
プールの飛込み台で撮っているのか?
二人はまったく怖くないのか?
男の俳優さんは誰なのか? 松竹の俳優さんならまあまあわかるのだが、この人はわからない。
しかし……おお、怖っ……合成じゃないよな??……
合成だとしたら、左手前の前ボケしている物体(はしご?)の説明がつかない。
〇28ページ―29ページ
左の写真。やはり「あたい」の切り方は独特です。
ふつう、左上をこうやって切りますかね?
〇30ページー31ページ
モダンガアル特集、という感じの見開き。
30ページは折り目がついちゃってますが、元々こうなってました。
「あたい」は几帳面なのか、乱暴なのか、不思議なことをやります。
30ページ。
26ページの写真のハル坊を正面から撮るとこうなるのでしょう↓↓
26ページの写真の方が動きがあっていい写真だとおもう。
これもかわいいですが。
〇32ページー33ページ
27ページのプールの写真が再登場します。
切抜き方が凝りに凝っています。
プールの写真のとなりが和装・日本髪のハル坊。
その下が縦ロール……
1ページ目の写真もそういえば縦ロールだった。
縦ロールがやけに似合うハル坊であった。
というか、前回紹介したアサヒグラフの写真と似ている衣装。
同日に撮影されたものか??
なにかの映画のプロモーションか?
33ページはやけにシリアスな表情です。
〇34ページー35ページ
作品名はわかりませんが、なにかシリアスな作品に出演したのでしょう。
和服のおしとやかなハル坊が、一人の男を洋装のフラッパーと取り合う、みたいなお話か??
右下に30ページの朗らかなハル坊の写真が再登場するあたり、
「あたい」のセンスはすさまじい。
なんか青で揃えたくなってしまったのかな。
〇36ページー37ページ
楽しげな雰囲気の写真が並びます。
またまた夏川静江とのペア。
夏川静江は看護婦さんか。
「鬼滅の刃」の蝶屋敷の女の子たちがこんな格好をしてゐましたね。
ハル坊は和装です。しかし……
珍万軒
チンマンケン
とは……
純白・清楚な夏川静江との組み合わせがすさまじい。
〇38ページー39ページ
ここは個人的に一番好きです。この見開きは。
38ページの背景はフランク・ロイド・ライトの帝國ホテルなんじゃなかろうか?
建築好きにはたまらんです。
当時の日本人は、律儀だったので
フォーマルな洋装の時は、きちんと帽子&手袋を身につけておりました。
(まるで見てきたかのように書いている、この人は)
それだけにこれだけゴージャスなドレスを着て
帽子なし、というのは何だかセクシャルな印象すら感じてしまう。
何にしても大人びた表情のハル坊です。
手袋はきちんとしています。(たぶん)
おしゃれなバッグも持っている。
それだけに……帽子がない、というのがただ事ではない印象なのです。
背景は勝手に帝國ホテルと推測してしまっていますが、
当時は
一番イケてる建築=帝國ホテル=フランク・ロイド・ライト
だったので、
模造品みたいな建築も多かったので。
確定はできないようにおもいます。
でも帝國ホテルだと思いたい。
参考までに わたくしが明治村で撮ってきた帝國ホテルの写真をのせます。
ハル坊の写真はなんとなく南側で撮っているような印象がありますが、
明治村の帝國ホテルは
日比谷に存在した時と向きがまったく変ってしまっているので
あまり参考にはならなそうです。
で、
大人びた……どこかセクシャルな匂いのする写真と
子供みたいに微笑むこの写真を組みあわせる「あたい」はさすがです。
この衣装は 26ページ 30ページと同じものでしょうかね。
帽子はかぶっていませんが。
「帝國ホテル」&「自動車」とモダンの象徴の組み合わせがいいです。
〇40ページー41ページ
いかにも映画のスチール、という写真が並びます。
「あたい」は「作品」ごとに揃える、ということをあまり考えませんが、
40ページの写真と 41ページ上の写真は同じ作品なのでしょう。
銀座での撮影風景?
カメラがかなりローポジションです。
〇42ページー43ページ
43ページに34ページの写真が再登場するんですが……
すさまじいのは……
赤丸で囲んだ写真、
これは貼らずにはさんであるだけ。
おそるべし「あたい」……
〇44ページー45ページ
ここはおてんば……フラッパーなハル坊でまとめています。
この組み合わせは天才的だとおもう。
44ページは
21ページ同様、伏見信子(おそらく)と一緒のショット。
ハル坊が明るく、伏見信子はどこか影がある感じなので(偉大な姉のせいか)
いい組み合わせ。
45ページ。
楕円に切ったのは「あたい」のセンスか?
もともと楕円だったのか?
〇46ページー47ページ
手袋+帽子
そうそう、戦前の律儀な洋装とはこういうものです。
バッグを持っていませんがね。
背景は一体なに? 何の建築ですか?
〇48ページー49ページ
「夏」な印象の組み合わせ。
49ページのこのセクシーショットは――
14ページにも登場してゐました↓↓
インクの色が同じなので……「あたい」ってば 同じ雑誌を二冊持っていた……
買ってもらっていた、ということなのか??
んー切抜用と保存用と二冊買ってもらう、というのはありそうな話だ。
〇50ページー51ページ
この見開きは「緑」で揃えたのだろう、という気がする。
21ページのこのハル坊は
おそらくレビュウ・ガアル役なのだろう。
というと……
4ページのこの写真と同じ映画なのだろう。
いや、確定でしょう。作品名などさっぱりわからんが。
スクラップブック、まだ続きます……