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ノレアとソフィ(機動戦士ガンダム・水星の魔女)の名前の由来を考察する。

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えー、以下、

水星の魔女ファンか、

もしくは初期キリスト教ファン(そんな人がいるのか)

しか、面白くないだろう記事です。

 

十数年ぶりに グノーシス主義ブームが自分の中でやってまいりまして

でグノーシス関連本を読み漁っていたのですが、

 

(注:グノーシスに関しては一言で説明するのは難しいので

ググっていただくのが一番良いと思いますが……それでもざっと説明しますと、

カトリック教会がキリスト教を、教義とか組織とかを統一する以前は、

色んな派閥があったわけです。

グノーシスはその一派で、今でいうと「アナーキスト」的な、

一切の地上の権威を認めません、的な過激なセクトでした。

かの聖アウグスティヌスもグノーシスの一派のマニ教の信者だったりしたらしいです)

 

で、クルト・ルドルフ先生の「グノーシス」を読んでいたところ――

 

 

まずアルコーンたちは人間に洪水を送る。ノアは「もろもろの権力の頭領(アルコーン)」からそのことの警告を受ける。そこへアダムとエバの娘であり、「人間の世代から世代への助け手」でもあるノーレアが現れて、一緒に方舟に乗せてほしいと求めるが、拒否されてしまう。そこで彼女は自分の息吹でそれを焼き尽くし、ノアにそれをもう一度建造することを強いる。

(岩波書店、クルト・ルドルフ著、大貫隆・入江良平・筒井賢治訳「グノーシス」145ページより)

 

ようはノアの方舟の物語のグノーシス版パロディなのですが……

ノーレアってもろにノレアじゃん……

と、水星の魔女をご覧になったあなたはお気づきでしょう。

 

アスティカシア高等専門学園を「焼き尽くし」た、ノレア・デュノクと

このノーレアはそっくりなんです。

名前だけでなく、行動も。

 

「ノレア」という奇妙な名前の由来はたぶんグノーシスなんじゃあるまいか?

 

(↓↓注:右 百恵ちゃんみたいな髪型のノレア・デュノクさん

左 聖子ちゃんカットのソフィ・プロネさん)

 

 

岩波書店の「ナグ・ハマディ文書」全四冊の注が

ノーレアに関して詳しく書いているので以下、引用します。

 

ノーレア

「アルコーンの本質」§12では、アダムとエバがセツを産んだ後にもうけた娘で、理屈ではセツの妹であると同時に妻ということになる。しかし、同§14(オーレアと表記)と§15ではむしろノアの妻であることが前提されていると思われる。(中略)

(トマス注:ニコライ派とマンダ教の)表象系統では、ノーレアは夫のノアがこの世の支配者であるアルコーンに仕えたのに対して、超越的な神バルベーローに仕える存在であり、ノアが造った方舟に立入りを拒まれると、三度までもそれを焼き払ったという。ヘレニズム期のユダヤ教のハガダー(物語)伝承にも、ナアマという女性が一方ではセツの妹かつ妻として、他方ではノアの妻として言及される。ノーレアという名前は基本的にはそのナアマがギリシア語化したものとする説が有力である。

(岩波書店「ナグ・ハマディ文書Ⅰ」補注・用語解説14ページより)

 

難しいことが書かれているんですが、

水星の魔女のノレアと似ている点としては――

・方舟を焼き払う=アスティカシアを焼き払う

・アルコーンへの憎悪=スペーシアンの憎悪

これがとても似ていて、いよいよモデルなんだろうな、という気がします。

 

アルコーン、スペーシアンそれぞれ解説しとくと、

アルコーン→宇宙の天球を支配している闇の天使みたいな存在

スペーシアン→人類社会を支配している宇宙に住んでいる人たち、アーシアン(地球人)を蔑視している。

というわけで

「グノーシス」と「水星の魔女」

物語の構造もとても良く似ているんです。

 

となると……姓の「デュノク」は何なのか??

 

デュナミス/ホロス

ギリシア語「デュナミス」は通常「諸力」の意味で否定的に用いられるが、ヴァレンティノス派についてのエイレナイオス「異端反駁」第1巻1章1節の報告では例外的に、プレーローマ内のアイオーンの一つで、ソフィアの過失を最小限にくい止める境界(=ホロス、カーテン)の役割を果たす。

(同書、補注・用語解説12ページより)

 

この「デュナミス」から来ているような気がする……

「プレーローマ内のアイオーン」は説明が難しいんですが、

プレーローマは「充満」で……グノーシスの理論では 宇宙の外に光の充満(プレーローマ)があって、

真の神はその光の充満であるらしいんです。

だから、この「デュナミス」もグノーシスが崇拝する、光の存在である、らしい。

 

□□□□□□□□

ノレア・デュノクさんの名前の由来がなんとなくグノーシス由来なんじゃないか?

ということがわかりました。

となると、ソフィ・プロネさんの由来も知りたくなるわけですが――

 

これも当然(?)グノーシス由来のように推察されるわけです。

始めに答えを言ってしまえば、

ソフィ→ソフィア

プロネ→プロノイア

なのではあるまいか?

 

また岩波書店のナグ・ハマディ文書を引用。

ソフィア/ピスティス・ソフィア

ギリシア語で「知恵」の意。「シリア・エジプト型」のグノーシス主義救済神話においては擬人化されて、プレーローマの最下位に位置する女性的アイオーン。男性的「対」の同意なしに「認識」の欲求に捕らわれ、それを実現しようとしたことが「過失」となって、プレーローマの「安息」が失われ、その内部に「欠乏」が生じ、それがやがて中間界以下の領域の生成につながってゆく。グノーシス主義は「認識」が救済にとって決定的に重要であることを強調する一方で、同時に認識欲の危険性を知っているのである。

(同書、補注・用語解説10ページより)

 

プロノイア

ギリシア語で「摂理」の意。ストア哲学では宿命(ヘイマルメネー)と同一で、神的原理であるロゴスが宇宙万物の中に偏在しながら、あらゆる事象を究極的には全体の益になるように予定し、実現してゆくことを言う。あるいは中期プラトン主義においては、恒星天ではプロノイアが宿命に勝り、惑星天では均衡し、月下界では宿命がプロノイアに勝るという関係で考えられる。グノーシス主義はストアにおけるプロノイアと宿命の同一性を破棄して、基本的に宿命を悪の原理、プロノイアを至高神に次ぐ位置にある救済の原理へ二分割するが、文書ごとに微妙な差が認められる。

(同書、補注・用語解説17ページより)

 

どちらも、グノーシスご存知ない方には なにやらチンプンカンプンかとおもうのですが、

ざざっと説明しとくと、

ソフィア(知恵)は、宇宙を股にかける、グノーシス神話のヒロイン的存在

プロノイアは、グノーシス主義者がプラスに考える、至高神の摂理

というような感じ。

 

(注:右 銀髪のネコっぽい方 ミオリネ・レンブランさん

左 赤毛のタヌキっぽい方 スレッタ・マーキュリーさん)↓↓

 

 

では、さて、「知恵」「摂理」こと、ソフィ・プロネさんが

なぜ水星の魔女の主人公、スレッタ・マーキュリーさんを「お姉ちゃん!」と呼び、

妙にまとわりつくのか?

という問題が浮かび上がってくるのですが――

これもグノーシス主義的に読み解くならば……

 

答え:スレッタ・マーキュリーもまたグノーシス主義者であるから。

 

ということになりそうです。

これまた説明が難しいんですが……難しいなりに説明すると……

 

・スレッタ・マーキュリー(水星)は

第三天のアルコーン(支配者):プロスペラ・マーキュリーの娘である。

(プロスペラは皆さんご存知の通り シェイクスピア「テンペスト」由来)

・スレッタ・マーキュリーは自分の出生・ルーツに疑問を持ち、

邪悪なアルコーンに反抗、そして光の充満(プレーローマ)の中の双子の姉妹に出会う。

(データストームの中の姉エリクトに出会う)

 

自分の出生・ルーツに疑問を持ち、探求する……

この実存主義的な問いかけがグノーシスの神髄でして……

 

われわれが誰であり、何になったか、われわれはどこにいて、どこへ投げ込まれたか、われわれはどこに向かって急ぎ、どこから救済されるのか、誕生とは、再生とは何であるか――これらについての知識がわれわれを開放する。

(人文書院、ハンス・ヨナス著、秋山さと子/入江良平訳「グノーシスの宗教」70ページより)

 

つまり、ソフィ・プロネさんは スレッタがモビルスーツ操縦の天才であるとかなんとかではなく、

スレッタ・マーキュリー=グノーシス主義者

という匂いを……自分と同族の匂いを感じ取って

「お姉ちゃん」呼ばわりするのではあるまいか??

 

まとめましょう。

・ノレア・デュノク

ノレア→ノーレア(ノアの妻、ノアの方舟を焼き払う。至高神に仕える)

デュノク→デュナミス(諸力、神的存在)

 

・ソフィ・プロネ

ソフィ→ソフィア(知恵、グノーシス神話のヒロイン的存在)

プロネ→プロノイア(摂理、至高神の摂理)

 

・スレッタ・マーキュリー

→邪悪なアルコーン(支配者)プロスペラ・マーキュリーに反抗し、

己のルーツを探求するグノーシス主義者

 

ソフィとノレアは自分のことを「地球の魔女」と呼んでいますが――

そのあたりもグノーシスを感じます。

初期キリスト教の時代に存在したグノーシスは

正統派……つまりカトリックに徹底的に弾圧されて絶滅させられるわけですが

「魔法」「魔術」の形をとって細々と生き残るわけです。

 

「地球の魔女」「水星の魔女」

どちらも 魔女=グノーシス主義者

と言い替えてもよろしいでしょう。

 

さいごに……

スレッタ&ミオリネの「結婚」がはっきりと描写されなかったことに

賛否両論あるらしく、

とくにLGBTQ界隈の方が批判しているらしいんですが……

それはなるほどそのとおりなんですが、

「水星の魔女」をグノーシスの観点からみると、あれはあれで正解だったような気もするのです。

 

ソフィア神話において具象化されているように、世界と魂の転落はこの統一が攪乱されることによって生じたので、「対」をなす相手あるいは原像の腕の中へ魂が帰還することは、ソフィア自身の範型的な帰還と同じく、決定的な終末時の出来事なのである。これに対応して、新婦の部屋の秘蹟は分かれていたものの統一というプレーローマ理念の完全な表現である。霊的人間(プネウマティコイ)すなわちグノーシス主義者は天使の花嫁として、そして彼らが彼岸に入ることは婚礼の饗宴として解釈される。

(岩波書店、クルト・ルドルフ著「グノーシス」257ページより)

 

どうも……グノーシス主義によると、

死→魂が穢れた肉体を去って、天上の光の充満(プレーローマ)と合体する。つまり……

「死」=汚れなき婚礼

「臨終の儀式」=新婦の部屋の儀式

「死者」=天使の花嫁

と、結婚という用語、

死の匂いがぷんぷんしているんですよね。

 

と、それを考えますと――

ラストシーンは、あれは死後の世界の出来事、

スレッタもミオリネも……それからシャディクガールズの面々も

あれは死者のような気さえしてくるんですよね……

 

データストーム=光のプレーローマの中の出来事なんじゃないのか??

 

以上です。

不吉な感じで終っちゃいましたが、

 

水星の魔女一周年ですよ。一周年。


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