この際だから小津作品のDVDをコンプリートしてみようということになった。
「この際」というのが一体なんなのだか、自分でもよくわからないのだが、
ともかく…
松竹からでているBOXセットは全部持っていたし、
それに大映からでている「浮草」は去年購入済みであったので、
残りは東宝から出ている「宗方姉妹」と「小早川家の秋」
この二作品だけとなった。
で、昨年暮にアマゾンにて購入。このお正月にこの二作品を見た。
今現在見ることの出来る小津作品はいちおう全部見た、
ということになる。
中学生の頃「東京物語」を
「なんだかよくわかんないなぁ~」と思いながらはじめて見た頃から考えると、
まあ、けっこう時間がかかったものである。
で、「宗方姉妹」の感想を書きます。
1950年作品。松竹の監督であった小津が
他社で撮ったはじめての作品。
ちなみに前作は「晩春」(1949)そして次作は「麦秋」(1951)
超絶傑作の合間、巨匠の手抜き作品と申しあげてよろしいでしょう。
感想①つまらない。
あんまし評判のよろしくない作品であることは知っていたんですが…
まさかこれほどつまらんとは思いもよりませんでした。
田中絹代、高峰秀子、上原謙…とくりゃ、ま、
そこそこ興行収入はあったんじゃなかろうかと推測されますが…
弘法も筆のあやまり、モンキーもツリーから落ちる、で
小津センセイだって数々の失敗作を撮っているわけですが…
「東京暮色」「風の中の牝雞」が終始暗かったのと比べると
この「宗方姉妹」は高峰秀子が妙に明るい点――…
痛々しさが増大する気がします。ほんと見るに堪えないです。
デコちゃんのコメディエンヌぶりが輝いているんですが…
いかんせん他のキャストと噛み合っていない。
ほんと痛々しい。
感想②田中絹代投げキス事件。
このつまらなさの主犯は田中絹代たんなのではあるまいかと
推測したくなってしまうその理由は、ですね、
この映画の前年にですね、大スター田中絹代はアメリカに訪問。
飛行機で帰ってくるなり、「ハローハロー」と報道陣に向って挨拶。
のみならず投げキスをしたりして、周囲を顰蹙させた…
そんな事件があったわけですね。
こんなつまらん事件が大スキャンダルになってしまう…
ここらへんの感覚は今じゃすっかりわからんのですが、
まだ戦後四五年しかたっていない。
アメリカへの旅行なんぞ夢の又夢。
憧れの国であると同時にかつて敵国。
わが国の国土を焼き払った敵国でもある…
ここらへんの敵意と嫉妬と羨望とがごちゃごちゃに混じった感情が
能天気に「ハローハロー」とやらかしてしまった
浮かれてしまった田中絹代に向って噴出した…そんなところでしょうね。
「このアメリカかぶれがっ!!」
と顰蹙買ってしまったわけですね。
で、翌年の「宗方姉妹」…これは
「このアメリカかぶれがっ!!」
に対する解答。はっきりいって言いわけ。
それ以上でも以下でもないんじゃなかろうか、と。
ま、セリフを書きだしてみますと…
宗方節子(田中絹代)
宗方満里子(高峰秀子)
節子:満里ちゃん…あたし、そんなに古い?
満里子:(見返したまま)…
節子:ねえ、あんたの新しいってこと、どういうこと?――どういうことなの?
満里子:お姉さん、自分では古くないと思ってらっしゃるの?
節子:だからあんたに聞いているのよ
満里子:お姉さん京都行ったって、お庭見て歩いたり、お寺廻ったり…
節子:それが古いことなの?それがそんなにいけないこと?――あたしは古くならないことが新しいことだと思うのよ。ほんとに新しいことは、いつまでたっても古くならないことだと思ってるのよ。そうじゃない?
…というように、モダン志向の妹と和風志向の姉との対比を通して、
「投げキス事件」に対する謝罪というのか、言い訳をしているわけですな。
ま、たしかに
「あたしは古くならないことが新しいことだと思うのよ。ほんとに新しいことは、いつまでたっても古くならないことだと思ってるのよ。そうじゃない?」
このあたりは小津美学の真髄に触れているといや、いえますが、
けっきょく出来上がった「宗方姉妹」は
しょせん、
「投げキスへの言い訳映画」にしかならなかった、そんな気がしてしまいます。