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兵頭二十八著「たんたんたたた」感想

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歴史を描写するのにはいろんな方法があります。


司馬遼太郎先生のようにあくまで「人間」――

坂本竜馬なり秋元真之なり…それぞれの人が歴史を動かしたのだ、

と見る方法もあるだろうし、


経済中心の見方もあるでしょう。

それはマルクス主義の階級闘争の見方をとってみたり、

(「カムイ伝」がわかりやすい例だな)

ポール・ケネディ先生の「大国の興亡」みたいな

ブルジョワ経済学のやり方をつかってみたりするやり方もあるでしょう。


さて、

本書「たんたんたたた――機関銃と近代日本」

が、選んだやり方はそのどちらでもなくて、

これは「メディア中心の歴史学」とでもいうものです。

 

ずばり要約していうと

「銃」というメディア(媒体)

(そして精密機械工業)

をめぐって人がいかに戦い、死んでいったか、

その物語なのだ、ということができるでしょう。



トトやんのすべて


感想①日露戦争に関して


――な、わけなので、

本書「たんたんたたた」の描く日露戦争は「坂の上の雲」とは

まるで違います。

司馬先生によれば、

「陸軍の大山・児玉コンビ、海軍の東郷・秋山コンビ、

この四人でロシアに勝ったのだ!」ということになりますが…


兵頭二十八先生にいわせれば、

それはただ単に…

日本の機関砲製造能力がロシアの能力を上回ったからだ、

ということになってきます。


…奉天会戦までには、すでに味方の保式機関砲(トマス注:ホチキス機関砲)の射撃音は、日本軍の志気喚起の上で不可欠の存在となっていました。

 東京砲兵工廠は、戦役を通じて保式機関銃を増産し続け、奉天ではついにロシア軍の機関砲を量の上で5倍近く上回るまでに日本軍は補強されました。日本はまず小銃の質でもちこたえ、最後は機関砲の量でロシアを圧倒したといえるでしょう。

(四谷ラウンド「たんたんたたた」83ページより)


5倍の量の機関砲を持っていたから勝った。

誰にでもわかる単純なはなしです。



感想②雇用問題に関して


ただ…そうやってたくさん作った機関砲も、

戦争が終われば生産しつづける必要がなくなります。

そうなると砲兵工廠には仕事がなくなり、

工廠で働く熟練プロレタリアートをむだに遊ばせてしまう結果となります。


 当然、大勢いる職工の月収も急に落ち込みます。彼らは工廠で身につけた熟練技能を、他の民間工場に売り込もうと離職してしまいます。当時は年金も保険も退職金もない時代でしたから、それは当たり前のことでした。

 しかし工廠にとって、せっかく育てた熟練工に出て行かれることは痛手でした。というのは、戦前の工廠は、安い万能工作機械を使って精密な軍用銃を仕上げる関係から、職工の熟練に非常に頼っていたからです。

(同書94ページより)


そこで
がんばった(?)のが当時の工廠のボス南部麒次郎で

(南部14年式ピストルとかニューナンブとかの南部さんです)

自転車をつくってみたりなんだりして

この雇用問題に対処したらしいですが…


 新しい機械の減価償却はしなければならないし、増やした職工もなんとか確保したい――。

 南部はいよいよそこで、自分の考える解決法を開陳します。

「…欧州強国の有様はどうであるかというと、皆自国の兵器をドンドン売って、其れで益々強くなって居る」

(同書98ページより)


けっきょくピストルを作って輸出しよう、というはなしになってきます。


たぶん…このあたりの経済上の問題が

20世紀前半の大日本帝国の骨格に横たわっていたのではなかろうか、

と思わせます。

一度、戦争をやってしまうと、その勝利を知ってしまうと…

あとからあとから兵器を製造しつづけねばならない。

製造しつづけ、工場を、機械を動かし続け、予算を確保せねばならない。

さもないと深刻な雇用問題、失業問題、に直面せねばならない。

だが、そうなると絶えず他国にケンカをふっかけねばならず……

悪循環悪循環……


この不毛、かつ血なまぐさいスパイラルが発生したのは

単に我が日本国が後進工業国家だったから、というわけではないのは

第二次大戦直後のこのハリウッド映画をみれば明らかでしょう。


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もちろんラスト近く、主人公が
荒野に一面にほうり出された爆撃機の墓場を歩き回る

あのシーンのことです…

主人公自身、戦争の英雄でありながら、

帰国してみれば失業者というありさま。

そしてかつての栄光の職場は(爆撃機)誰にも顧みられず

荒野で錆びてスクラップになる日を待っている。


映画には描かれませんが

とうぜんその膨大な量の爆撃機を製造した工場、

そして無名のプロレタリアートが多数いたはず。

そして工場、熟練工を維持し続けるために

アメリカ合衆国は朝鮮、そしてベトナムを闘い続け、


そして20世紀おわりからこのかた中東でドンパチやり続けているわけです。


□□□□□□□□


あなたがもし、本気でこの地球上から戦争をなくしたいとおもっているのなら、

「戦争反対!」とか叫んでいるだけでは全然だめです。


戦争はイデオロギーの問題ではなく

雇用の問題だからです。

(トマス・ピンチョンいわく、「戦争はマーケットの祭典である」)


新しい産業を起こして、何億人かの雇用を生まないといけません。

はなしはそれからです。


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