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「カウボーイビバップ」の構造 その2

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しつこく続けまする。その2、です。


その1で、みたのは…

・「カウボーイビバップ」の世界にはセック○が存在しないということ。

・スパイク・スピーゲルという人物は流浪の王子である、ということ。

この2点でございました。

さてその続き。


③これはユング的世界なんである。


「カウボーイビバップ」世界にはセック○が存在しないと同様、

社会学的な視線もまた存在しない。

換言するならば「パンの問題」が存在しないわけです。


などと書くと…たちまち以下のような反論がでてくることは

容易に予想がつきます。

「あのねー、ビバップ号のメンバーは常に腹を空かせているではないか」

「Session#17マッシュルーム・サンバをみなかったのかね、きみは?空腹に始まり空腹に終わるあの抱腹絶倒のエピソードを?」

などと…


ですが…彼らの空腹のいったいどこに社会学的問題が照射されているでしょうか?

彼らの空腹のいったいどこに深刻さがあるでしょうか?

本当に飢餓に苦しんでいるのであれば

「賞金稼ぎ」などという博打打ちめいたヤクザな商売からさっさと足を洗い、

カタギの商売をはじめればいいのです。

大の大人が…健康極まりない大人が三人そろって、

しかも子供のエドは天才ハッカー…

金儲けの種なんかいくらでもありそうです。

だがそれをやらない、ということは

この「空腹」はただのファッションにすぎん、ということになります。


「パンの問題」もそうですが、社会的な地位、権力をめぐる闘争も

「カウボーイビバップ」の世界には存在しないようです。

(とりあえずビシャスという厄介な人物の例は除外します)

ビバップ号の四人が権力には興味がないことはもちろん、

全26話、さまざまな不幸な人物が登場するわけですが…

どの人物にしたところで「社会の矛盾」におしつぶされたわけではなく、

いずれもおのれの愚かさが原因で

不幸な境遇に追いつめられるという点、共通しています。

(Session#20に登場する殺人マシーン・東風はある警察組織の犠牲となった人物ではありますが…それはいわゆる社会的な矛盾というものではないでしょう)


ここらで何が言いたいのか、まとめてみましょうか。

現実の…キリスト教暦2013年2月の世界に生きるわれわれは、

「ああ、あの女とセック○してえ」とか

「金欲しいカネ欲しいカネ欲しいっす」とか

「どうせオレは東大出じゃないよぉー」とか

「なんでぇ、あの野郎、偉そうにしやがってこのゴマすり野郎」とか

「ほんと日本は政治家・官僚が腐ってるどうしょうもなく腐ってる」とかいうことを…

つまりはセック○の問題やら社会学的な問題やらを

グジグジ考えて毎日を生きているわけなんですが…

(ですよね??)


「カウボーイビバップ」の世界はそうではない、ということです。

彼らにはセック○の問題、および社会学的な問題は存在しない。


そこで…僕は思い出したくなるのが

カール・グスタフ・ユングというけったいなスイス人のオッサンなわけです。


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④魔法の数、「4」


ユングというと「心理学者」ということになってはいますが、あれはウソです。

あんなのは心理学じゃないです。科学ではないです。

たぶんあのスイス人医師は

ルドルフ・シュタイナーとかマダム・ブラバツキーとか

いうのと同系列のオカルティストというのが正しいところなんでしょう。

宗教家ってやつですね。


じゃあ、科学の申し子トマス・ピンコ先生が

なんでそんなインチキ臭いのをもってきたかというと…

彼…カール・グスタフ・ユングが探求した世界が

まさしくビバップ号の世界…

セック○と社会学的問題が存在しない、そんな非現実の世界だったからです。


はっきりいうと、この世に存在しないおとぎ話の世界でしか

ユング理論というのは役には立たんわけ。

(じっさい童話などの分析にはけっこう役に立つ)

つまりですね、同じ構造を持つ「カウボーイビバップ」の分析にはけっこう役に立つのではあるまいか――ということでまず気になるのが「4」という数字。


ユングというおっさんによれば、「4」は完全な数であるという。

彼の「タイプ論」というけっこうおもしろい本があるんだが

(鶴見俊輔先生がたしか褒めていた)

これによると人間の性格は大きく「4」パターンに分けられることになっている。

それと…

マンダラをみよ。聖書の福音書の数をみよ。

とユングはいう。

マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ…「4」ではないか。

その他いろいろな例を挙げて「4」というのが、文化史的に完璧な数であることをユングのオッサンは主張するんだが、こまかいことは私わすれてしまいました。


ともかくその「4」…

スパイク・スピーゲル

ジェット・ブラック

フェイ・バレンタイン

エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世


この4人。…さらに「4世」…


ユングのオッサンによると人間の内面というのもやっぱり「4」に分割されるそうで…これまたうろおぼえなんですが…

健康な成人男性の場合…


・自我

・アニマ

・老人

・子ども


この4要素に分けられるらしい(たしか)

アニマってのはなんつーか…その人の無意識に隠された女性的な側面…

とでもいうようなものですかね。

なので健康な成人女性の場合、アニマではなくアニムス…

隠された男性的な側面というのを内面に持っているんだそうな。

(このあたりでユングのいかにもイナカモノらしい素朴なセック○観念が暴露される。ホモだのレズだのオカマだのなんだのに囲まれて育った都会人であればこんな暴説は唱えなかったに違いない。ちなみにユングはスイスの田舎育ちである)


はい。

ここらでおわかりですね。

ビバップ号のメンバーの4人ってのは…

マンダラの「4」

自我・アニマ・老人・子ども…この「4」だったわけです。


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⑤なぜエドはビバップ号を降りてしまったのか?


はい。んでとうとうこの大問題に関する結論です。


完全な数「4」――この構造をもった「カウボーイビバップ」は

おそらく永遠に続けることのできる安定したフォーマットであったはずなのです。

じっさい、「この4人」「この世界」が与えられれば

いくらでもエピソードは書けるだろうとおもう。

新しい賞金首を考えて、

4人の間に巻き起こるいざこざを考えて、

魅力的なSFモチーフを放り込んで、

ハイ、いっちょあがり、といったところでしょう。

ある程度の腕のある脚本家チームがいさえすれば、

いつまでも続けられることでしょう。


ちょうど「ルパン3世」の基本構造がこの「4」であったのを

思い出す方も多いことでしょう。


ところが現実の「カウボーイビバップ」は

全26話+あんまし出来の良くない劇場版。

これで完結してしまった。

(いや、ハリウッド版とかいう噂があるらしいので、「今のところ完結してしまっている」…と書くべきか)


だいたいここまで読んでいただけたならば

なぜエドがビバップ号を降りてしまった理由、推測がつくんではないでしょうか。


その理由…

それは「家族」をめぐるエドの葛藤とか、なんとか

そういうかっこつけた心理学的理由ではない。

それは「カウボーイビバップ」の構造がもともと持っていた亀裂、に由来する。


その亀裂とはなんなのか?

それは…

「いつまでも終わらないはずの安定した物語を大人の事情によってムリヤリ終わらせなければならない」

この葛藤、亀裂です。


エドはビバップ号を降りなければならなかった。

「4」を「3」にして…つまり不安定な構造にして、

それで完璧な物語を崩して、

んで、Session#25,#26「ザ・リアル・フォーク・ブルース」

で、この無限につづくはずだった物語を終わらせなければならなかったのです。

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「身の上話なんかしたことないくせに、いまそんな話しないでよ!」


死ににいくスパイクに対してフェイ・バレンタインがこう叫びます。

なぜこの叫びがこれほどまでに感動的なのかというと…


彼女が…

「ストーリー」…「物語」に関することを叫んでいるからです。

それはちょうど最終話「ザ・リアル・フォーク・ブルース」の

中心テーマ、「物語は終わらせるべきなのか続けるべきなのか」

を、実に感動的なやり方で暴露しているからなのです。


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