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小津安二郎「東京物語」のすべて その5

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その5、です。

シナリオ順に「東京物語」を解剖しております。


今まで、

・「東京物語」は、ぐるぐるとバタバタだ!

・「東京物語」は、神話・おとぎ話・宗教説話だ!

・「東京物語」は、コカコーラの瓶だ!


といろいろいってきましたが、

・「東京物語」は

小津安二郎 Greatest Hits だ!


という見方もできる気がする……

なんというか「小津安二郎傑作選」のような。


前回「その4」の最後、厚田雄春キャメラマンの証言――

「小津さんのモノクロ最後の作品になるかもしれないからがんばったのにオリジナルネガ燃えちゃった……」

というのを引用しましたが、


あるいは小津安っさん自身も

「これでモノクロ最後」みたいな意識があったのかもしれません。

(じっさいは、ご存知のように「早春」「東京暮色」とモノクロ作品が2作品つづきます。で「彼岸花」からカラー作品へ)


もとい、


S3

京子「お母さん、魔法壜にお茶ゃ入れときましたから」

とみ「あそう。ありがとう」


なんて会話の背景は……


↓「麦秋」の間宮家の引用(?)といっていいでしょう。


それから

S4

「玄関」「京子、出かけていく」


ここでははっきり写されませんが――


物語最終盤 S163でははっきり写ります。


家紋入りの提灯箱↓↓


もちろん、「戸田家の兄妹」「麦秋」の引用。

ただ、「東京物語」の平山家には電話は装備されていないようです。



んー……といいますか、わたくし。

今まで「この家紋はいったい何なんだ???」


とずっと謎におもっておったのですが、

それが「東京物語」の副音声解説であっさり解決しました。


「提灯箱」というものなのですね。

中に提灯が入っている。


あ~知らないことだらけだ。恥ずかしーー


だからこのショットは、

前時代の遺物「提灯箱」と……


最新の機械「電話」の組み合わせだったというわけ。



んで、
S6


の空気枕談義も――


「うずまき」(予定外のことが起こる)


であると同時に、毎度おなじみ「パッキングシーン」なわけです。


つまり、「戸田家の兄妹」「父ありき」「晩春」「麦秋」「お茶漬けの味」

の引用。


さすが、小津安二郎グレイテストヒッツ。

で、美しい尾道から



S7

「東京」「町工場などの見える江東風景――」



われわれは一瞬で

「出来ごころ」「一人息子」等々の薄汚いトーキョーへ。


あくまで小津安二郎グレイテストヒッツ。


千住のお化け煙突というものらしいです。↓↓



S9

「平山医院の診察室」

「見たところあまり豊かそうにも思われない」


はい。これです。これ。


で、ファーストショットに続いての

コカコーラの瓶。砂時計形が出現。


三宅邦子は失礼ながら……コカコーラの瓶じゃありません。




S15

「診察室」


当時の助監督今村昌平の証言。


山村聰さんが耳鼻科の医者の設定なんですが、僕の実家も耳鼻科医だったので、医療機器の並べ方がおかしいのに気づいた。それを言ったら、「君が直してくれ」ということになり、並べかえました。

(講談社、松竹編「小津安二郎新発見」176ページより)


だそうです。


ただ……

看板は耳鼻科じゃなくて……


「内科小児科」ですな。

テキトーなこといってます。今村昌平。


正確には「君んちお医者なんだから、君がやってくれ」

みたいな感じだったか??


S26

「玄関」

「紀子(28 戦死した次男昌二の未亡人)が靴をぬいでいる」


文子「いらしったの? 東京駅――」

紀子「ええ、間に合わなくて……。皆さんお帰りンなったあと」


原節ちゃん、コカコーラ瓶の登場です。


「コカコーラ瓶、コカコーラ瓶というが、おまえ、若い女優さんがこんな格好したら誰だってコカコーラ瓶になるだろ」

というあなた。


あなたはこの頃の日本の女優さんのプロポーションをご存知ない。


田中絹代はどうだったろう?

高峰秀子は?

どっちもこうはならなかったでしょう。


次作「早春」の岸恵子ならOKでしょうが、

戦争未亡人という役ができたかどうか??(ムリ)


あるいは、桑野通子ならコカコーラ瓶になれたでしょうが……

彼女はもう故人でした。


とにかく、原節子じゃなきゃムリ、なのです。



S28

紀子「いいえ、なんですか、ゴタゴタしておりまして、気が付いたらもう時間が一ぱいで……」


という彼女の胸元にはマジックナンバー「3」


というか、平山紀子には終始「3」がつきまといます。


紀子(とみが帯をたたむのを見て)「お母さま、致しましょう」

というのは……

「一人息子」S60

杉子(坪内美子)の「あたし致しましょう」

の引用。


たぶん、「東京物語」執筆中の

小津&野田コンビのかたわらには

「一人息子」のシナリオがあったんじゃなかろうか、と推測されます。




あと……


この作品では絶えず

「節ちゃんを細く撮ろう、細く撮ろう」

という意識がうかがえます。


あくまで「平山紀子=コカコーラ瓶」なのです。

たとえば背中からのショット↓↓


細いんです。

(ま。もちろん今日日のモデル・女優さんからすればアレでしょうが)



「晩春」の曾宮紀子↓↓


「麦秋」の間宮紀子↓↓

これは……けっこうドシン! と写ってます……

(小さな子供と一緒のせいか??)



「東京物語」の頃の原節子が

以前に比べて痩せたのかもしれないですけど――??


どうも、構図とか、角度とかで、工夫してるんだとおもいます。


はい。

こうやって、東山千栄子、杉村春子と並べて、

コカコーラ瓶を強調する、と。↓↓


しかも話題が……


志げ「アラお母さん、また少し大きくなったんじゃないかしら」

という具合。



S29

「実が勉強している」


このシーンで spring (ぜんまい)というキーワードが出てくることは

「その1」でご紹介しました。


しかし、「戸田家の兄妹」「父ありき」……と、

男の子はきまって英語を勉強します。


引用。

S30

紀子「お姉さま、これ蠅帳へ入れときます」

文子「どうも……」


このあたりはどうしても「麦秋」の世界に連れ戻されます。

たとえば……

「麦秋」S133

紀子「お姉さん、いいの。あたしします」

史子「アノ、蠅帳に這入ってます、コロッケ……」

という具合。


引用です。


このあたりまでいろいろと予定外のことばかりが起る(=うずまき)

というのは「その1」でご紹介しました。


「空気枕」にはじまり、

実くんの机が廊下に出されてしまったこと。

紀子(原節子)が東京駅に着くのが遅れたこと。

お孝さん(謎の人物)の結婚がうまくいっていないこと。等々。


で、

S35


とみ「へえ――ここあ東京のどの辺りでしゃあ」

周吉「端の方よ……」

とみ「そうでしょうなあ。だいぶん自動車で遠いかったですけの……」


と、笠智衆と東山千栄子の老夫婦ががっかりしていることがそれとなく明かされます。


というか「がっかり」とか「意外だった」とかいうコトバを使わずに

「遠い」――

という空間論に持っていくあたりがやはり小津安っさんのうまさだなぁ~……




もちろんこれは「一人息子」のおつね(飯田蝶子)と同じ「がっかり」です。

そこそこ成功しているとおもっていた息子が

場末の……しかもうるさい工場のとなりに住んでいる。

しかも、知らぬ間に結婚して、で、赤ちゃんまでいる、と。


引用です。小津安二郎Greatest Hits


で、うろこ雲。

これまた「麦秋」のS128で

周吉(菅井一郎)が見上げるうろこ雲の引用。


S39

杉村春子がやっている「うらら美容院」です。


ひとつ気になるのは、

平山家は「先生」と呼ばれる職業の人がけっこう多いことです。


・平山幸一→医師

・平山志げ→美容師

・平山京子→教師


という具合。

でも考えてみると――

これまた、

「一人息子」の大久保先生(笠智衆)からの伝統のような気がする。


大久保先生は東京へも一度勉強しにいったのだが、

けっきょくとんかつ屋さんになっている。

「宗方姉妹」の山村聰は無職なのに「先生」と呼ばれているし……

小津作品はすこぶる頼りない「先生」の映画なのだ。


もちろん、小津安二郎その人も「先生」呼ばわりされていたわけですけど……


小津作品の「先生」はきまってうだつがあがらない人たちで……

小津作品内での成功者は、

「先生」呼ばわりされていない人の方が多い。

(のちのち佐分利信、中村伸郎あたりが演じる会社重役は「先生」ではない。二人からちょっと小馬鹿にされる北竜二は大学教授、つまり「先生」……)


そうそう。
中村伸郎が小津作品に初登場。

もう、絵に描いたような頼りない「髪結いの亭主」キャラ。


庫造「そしたら金車亭へでも案内するかな」

志げ「いいことよ、余計な心配しなくたって」

庫造「うまいね、この豆――」

志げ「今日どうするんだい、お父さんお母さん」

庫造「およしなさいよ、そんなに豆ばっかり」


杉村春子が否定するのが

「金車亭」「豆」と……○ばっかりというのは、

どうなんでしょう?

深読みのしすぎなのか??


それとも暗号なのか??

暗号ですよね。


S40

文子「今日はお利口にしてなきゃだめよ。お祖父ちゃまお祖母ちゃまご一緒だから――いいわね、わかった?」

勇「わかった」


――と、

トマス・ピンコは背後で山村聰が靴下をはいているところに注目してしまうのであった。

考えてみると、終盤のS133 尾道のシーンで

香川京子たんが靴下をはくし……


思い出すのは「お茶漬けの味」で佐分利信が靴下をはくところ。

あと「晩春」は――

S78「紀子答えず、椅子のところへ行って腰かけ、靴下をぬぐ」

「紀子、それにも答えず、ぬいだ靴下を持ってまた立ってゆく」


と、妙に靴下、ストッキングにはこだわる小津安っさん。




S42

個人的に……


三宅邦子の

「勇、お子様ランチがとても好きなの」


このセリフが好きなのだが……


そういや「麦秋」の

S25「やわらかいおいしいご飯……」

といい、この人の名台詞(?)は、食べ物関係が多いな。



S43

患者さんが来る直前――


勇ちゃんは円運動を描こうとしますが……(○)


ぐるり、と完全な円は描けません↓↓


中村伸郎が「金車亭」「豆」を否定されるように

「東京物語」では「○」は否定されてしまうわけです。


で、患者(の父親)の登場。

で、山村聰は出かけなくてはならなくなり、

で、お出かけは中止になる。


これまた「一人息子」の引用。

というか、「東京物語」は「一人息子」の翻案のようなところがあります。


「一人息子」の場合――

近所に住む富坊(突貫小僧)が馬に蹴られて大ケガをし、

で、良助(日守新一)たちのお出かけが中止になります。


で、「一人息子」の場合、この大ケガが……


おつね「ううん、それどこか――(つくづく嬉しそうに)かあやんはなあ、お前のような倅をもって、今日はふんとに鼻が高かっただよ」


とおつねが息子を見直す機会になるのですが、

「東京物語」は一切プラスには働きません。




S44

幸一「ひょっとすると、すぐ帰れないかも知れないんですが……」

周吉「ああええよ」

幸一「じゃ、ちょいと行って来ます。じゃお母さん――」

とみ「ご苦労さん」


このあたり、「麦秋」の康一(笠智衆)も日曜出勤しなければならなかったことを思い出したい。


志げ「ご苦労ねえ、日曜なのに……」

康一「いやア――。帰りに何か買ってきましょうか、おじいさんのご馳走……」

志げ「でも、固いもんだと召し上がれないから……」

康一「そうですね。――じゃ行ってきます」

志げ「ご苦労さま」


S48

ぶんむくれて枕を放り投げる実くん。


もちろん「麦秋」のパン投げ事件のパロディ。


パンには深い意味がありましたが……

(撮影方法のパン、そしてのちのち登場するアンパン)


枕には??……


ただ、熱海の旅館のシーンといい、

原節子&東山千栄子の「晩春」ごっこといい、

寝入りばなを叩き起こされてしまう、杉村春子夫婦のシーンといい、

東山千栄子の危篤のシーンといい……


「枕」の登場回数は多いですね、「東京物語」――


枕??

――うーん、なんかの暗号なのか??


わかりません。





で、実くん、回転。


回転は小津安っさんにとって「○」ではなく、「うずまき」であるようです。


実くん。

机を廊下に移動させられてしまうし、

日曜日にお出かけできないし……


予定外のことばかりが起きます。


で、東山千栄子主役のとんでもなく美しいシーンが続きます。


この「美」は――

彼女が死んでしまう、とわかっているからこそなんでしょうか?



S50
「向うの空地」

「勇が、何かをして遊んでいるのを、とみが傍にしゃがんで見守っている」


S51

とみ「勇ちゃん、あんた、大きうなったら何になるん?」

勇、答えず、遊んでいる。

とみ「あんたもお父さんみたいにお医者さんか? ――あんたがのうお医者さんになるこらあ、お祖母ちゃんおるかのう……」


えー……ここはすなおに東山千栄子の名演を楽しみたいところですが……

これも引用。


「一人息子」S86

おつねが赤ン坊のお守りをしている。

子守唄まじりにあやしながら、

おつね「坊や、でかくなったらなにになるだ。坊やも東京で暮らすんかね」

そしてまた、あやす。



一方、笠智衆……


S52

「周吉、ひとり退屈そうにボンヤリしている」


というのですが、これはどうみてもラストシーンの前触れ……


S174「海」「遠く島々通いのポンポン蒸気が行く」

S175「縁先」「それをボンヤリ眺めている周吉――」

S176「海」「ポンポン蒸気の音が夢のように遠くなってゆく。瀬戸内海の七月の午後である」


これもまた「引用」といっていいのか??


「伏線」などという安易な用語は使いたくないところです。


ともかく

ありとあらゆる小津作品の「引用」がちりばめられ――

数々の「引用」同士が共鳴しあい、あるいは反発しあい、

ある時は「うずまき」をつくり、ある時は「振り子」運動をし、

ある時は「神話」を作り、

ある時は「宗教説話」を作る。


そんな万華鏡のきらめきが

ある時は「コカコーラ瓶」のように見え、

また、ある時は聖なる数字「3」を形作る。


そんな「東京物語」――

小津安二郎 Greatest Hits というわけです。


うーむ……

この感想書くまで、

小津の最高傑作はやっぱり麦秋だろう、とかおもっておったんですが……


やっぱりスゲエ、「東京物語」……


その6につづく。


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