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小津安二郎「東京暮色」のすべて その1

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今回より――


「早春」につづく おめめキラキラ映画

「東京暮色」を見てまいります。


主演はネコちゃん、こと有馬稲子。


ですけど、ほんとのヒロインは原節子、でしょうな。

「東京暮色」=原節子の映画です。


「早春」=淡島千景の映画、だったように。


その深い意味はおいおい書いていきます。


今回「その1」は、

「東京暮色」を支配する2つのシステムについて書いていきます。


それは……

①「2」という数字

②反「晩春」


ということになります。

まずは、


①「2」という数字


からみていきます。


「戸田家」「父ありき」「晩春」を「3」「△」のシステムで作り、

「麦秋」を「○」

「東京物語」「早春」を「うずまき」

で作った小津安二郎。


今回は数字の「2」です。

「2」で映画を撮ってみた、わけです。



↑S3 小料理屋「小松」での笠智衆。


楊枝入れ?(なんですか?) が「2」


S16 うなぎ屋さんでの杉村春子。やはり「2」


何度かあらわれる高架のショットも……

なんか謎めいていますが、「2」をあらわしている、とみたい。


漢数字の「二」……



で、有馬稲子のコートのボタンの数も「2」


「東京暮色」

この作品がなぜこうも陰気くさく、かつ動きがないか?


――それはこの「2」に由来しています。


白川静先生の「字通」をみてみますと……


「二」

訓義 ①ふたつ、数字の二。②ふたたび。③二倍にする、わかつ。④ならぶ、たぐう。⑤うたがう、そむく。⑥地の数、陰の数。


はっきりいってよい意味はない。

小津安っさんの時代に「字通」はなかったですけど、

これらの意味があることは良く知っていたはず。


そもそも季節が「冬」に設定されていることも「2」に由来しているとおもわれます。

つまり「陰」がもっとも盛んな季節として「冬」が選ばれたわけです。




そしてシナリオの内容も――

⑤うたがう、そむく。

というわけで、

(笠智衆の妻の)山田五十鈴の不倫。

(有馬稲子の恋人の)田浦正巳の裏切り。

等々が描かれるわけですし……


画面上の動きが少ないのも「2」のせいだとおもえてきます。

「3」「4」ならば、三角形、四角形と図形が描けますが、


点が2個では図形は描けません。

2角形というものはないわけです。


「陰」「静止」「死」「裏切り」の映画が出現するわけです。



この不気味な「2」個の目玉が

有馬稲子の「死」をあらわしている、というのも、深いです。



山田五十鈴の都落ちのシーン。

ホームには「2」だらけです。



「12」――


「ジュウニ」ではなく 「イチ・ニ」と読みたいところです、ここは。



あとですねー……

喜久子(山田五十鈴)のキャラクター設定なんですが、


S65 で杉村春子のセリフ


重子「山崎さんね、アムールに抑留されてる間に亡くなったんですって、その事喜久子さん、どこだっけ、腰越じゃない、ブラゴエ……そう、ブラゴエチェンスクよ、そこで風の便りに聞いて、それからナホトカへ連れて来られたんですって」


この、不倫相手と一緒にソ連で抑留、というエピソードはどうしたって

岡田嘉子を思い出させますし……


(ついでにいうと、おめめキラキラのルーツは、「東京の女」の岡田嘉子のこのショット↓↓のような気がする。サイレント時代にはフィルム、照明機材の問題もあって、こういう風にしか撮れなかったのではあるまいか)



スキャンダラスな生き方というと、もう一人、

水久保澄子たんも思い出したいところ。


岡田嘉子の場合はどうかわかりませんが、

水久保澄子の場合、あきらかに若き日の小津安っさんと

「何事か」があった相手なわけです。


1933年9月20日水曜日、兵営の寝台で……


昨夜 さむざむとした藁ぶとんの寝台で夢をみた

服部の大時計の見える銀座の二階で 僕がビールをのんで

グリーンのアフタヌンの下であの子はすんなりと脚を重ねてゐた夢だ


この「あの子」=水久保澄子 というのは……

いつだったか、当ブログで書きました。

(グーグルで「水久保澄子」と検索すると、どうしたわけだか上位の方にその記事が登場いたします)


その……水久保澄子は、満州で行方不明になっています。

没年不詳。

おそらく1945年。



「東京暮色」とは直接関係ないですけど……


「女医絹代先生」の野村浩将が、

水久保澄子主演で「玄関番とお嬢さん」という映画を撮っているのだが、


下着姿のエロ~い水久保澄子が

「バカ! バカ!」という……そのセリフ回しが……↓↓



「麦秋」の勇ちゃんが、大和のおじいさまに

「バカ! バカ!」という……


あの言い方にあまりに似ていて、最近ゾッとしました……


えー……


なにがいいたいかというと、小津安っさん、

水久保澄子への感情をずっと持ち続けていたっぽい、ということ。


数字の「2」は 岡田嘉子&水久保澄子である、ということ。


あと……「玄関番とお嬢さん」

僕はYouTubeからダウンロードした3分ちょっとしかみたことがないので、

完全版がみたい、ということ。

DVD出してほしいな……


えーまとまりがつかなくなったところで、

つづきまして、


②反「晩春」


これをみていきたい。


ファーストショットのこれなんですけど……↓↓



僕は 反「晩春」 アンチ「晩春」のシンボルとみたい。


ちなみに「晩春」のファーストショットはこれ↓↓


自然あふれる北鎌倉。

そして小津安二郎が終の棲家として選んだ北鎌倉。


で、トマス・ピンコは「晩春」というと、

原節子が白ソックスをはいて出てきたあの凄まじい

カットカットカットのシーンを思い出すのですが、↓↓


沼田孝子(原節子)の登場シーンは

明らかにあの白ソックスシーンのパロディです。

「晩春」(1949)の曾宮紀子と、

「東京暮色」(1957)の沼田孝子。

二人のファッションの相似にも目を向けていただきたい。



お着替えシーンで一瞬部屋が無人になる。

(無人に見える)

というのも一緒。


さらにいえば、小津にめずらしい長回しのショットというのも酷似。



きっとリハーサルしながら、

笠智衆と原節子、「『晩春』と同じですね」とか話してたかもしれない。



ただ、おもしろいのは、


S6

周吉「ウン。足袋なかったかな」

孝子(一寸探して)「どこかしら」

周吉「ないかい、じゃ富沢さん洗ってくれたんだな。そこの一番下の抽斗しにないかな」


沼田孝子は父親の足袋がどこにあるか知らないわけです。

曾宮紀子ならありえない話。

反「晩春」なわけです。


もちろん、「孝子はたまたま実家に帰っているらしい」と

観客に知らせるためのセリフなのですけどね。


あとですね……

反「晩春」ということでは、


なんか非常に残酷、というか

性格の悪い暗号をしこんでいまして、


S54 警察署のシーンなのですが、

有馬稲子が深夜喫茶で待ちぼうけを食わされて泣いていると、

宮口精二の刑事にみつかって、というあたり。


まず自転車が登場。


んーー自転車??


そしてこの男。


警官「いい年して、女の腰巻なんか盗んで何にするんだお前、おかみさんあんのか」

中老人「いいえ」


ようするに……下着ドロ、なわけですけど……


ん?

この人???



この本筋とまったく関係のないシークエンス。

反「晩春」としか説明ができない。


そう読み解くより他ない。

自転車といや、これしかなんですから。


「晩春」の自転車おデートのシーン。


この自転車は誰に借りたんでしたっけ??

というと、

「晩春」S36

紀子「まさか――借りたのよ、清さんとこのを」


という、詳しくは「『晩春』のすべて」で解説しましたが、

この謎の人物「清さん」の正体がわかるのは

「晩春」の最後のさいご。


この谷崎純、が清さん。


えー、で、

「東京暮色」に戻りますが、


「取調べを受ける中老の男 谷崎純」


谷崎純!!


「晩春」の謎の人物「清さん」

曾宮一家がお世話になっている清さん、


その役を演じた谷崎純が、下着ドロ役を演じる、という……


小津安二郎という男は、ここまで凝るんです。


□□□□□□□□

さいごに追加。


そうそう。

数字の「2」で書き忘れました。


小津安二郎→小津安「2」郎 ですね。

もちろん。


高橋貞二→高橋貞「2」もいるし、

須賀不二夫→須賀不「2」夫も出演している。


「東京暮色」には出演はしていませんが、息子同然にかわいがった

佐田啓二→佐田啓「2」も小津のお気に入りの役者でした……


はたして「東京暮色」は小津安「2」郎の自画像なのか?

次回以降みていきたいとおもいます。


その2につづく。


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