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小津安二郎「東京暮色」のすべて その2

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前回、その1で、

「東京暮色」を支配する二つのシステム――


・「2」という数字

・反「晩春」



をみました。

今回からシナリオ順に「東京暮色」を解剖していきたいとおもいます。


まずタイトルから……


BGMとして流れるのは、かの有名な(?)「サセレシア」

斎藤高順作曲。


劇中でも

有馬稲子が山田五十鈴に「お母さん嫌いッ!」と叫ぶあたりで流れます。

(S97)


特に小津安二郎が自分の好きな「サ・セ・パリ」と「バレンシア」の両曲を組み合わせたような調子の作曲をと、特別注文して作った曲

(ビクター名盤コレクション「小津安二郎の世界」の解説より)


とのこと。

後期小津のシンボル、みたいな曲です。



S1

「暮色の東京 池袋あたり。ビルの上に暮れのこる冬空――。」

とあります。


前回書いたように、このあたりは反「晩春」のシンボルと、

僕はみているのですが、

(ちなみに「晩春」のS1は「晩春の昼さがり―― 空も澄んで明かるく、葉桜の影もようやく濃い」といった感じ。どっちも電車がからんでいるショット)


陰鬱な冬の映画、ということで

「東京の女」の後継者、という意味もあるような気がします。


山田五十鈴の人物設定は

ソ連に亡命した岡田嘉子の影響があるんじゃないか、

とは前回書きました。


2ショット目はこれ↓↓


大好きな電車・汽車のショット。


「東京画」で、ヴェンダースは

「電車・汽車が登場しない小津作品は存在しない」

と断言してましたが、そうでしょうかね?


「淑女と髯」に、電車出てきたかな?

あと……揚げ足取りみたいですが、

処女作の「懺悔の刃」は時代劇だったそうですから、

きっと出てこなかったでしょう。


↓「大弓場」というのは、なんか山中貞雄の「丹下左膳」を思い出します。



S3

小料理屋「小松」


「早春」に引き続き、浦辺粂子、田中春男の登場。

しっかし、すさまじい構図のショットです。(バランスが悪い↓↓)


スクーターが停めてあるのがチラッとみえますが、

革ジャンの田中春男はこれに乗ってきたのか?


というか、小津映画で革ジャンをみるとは!!

わかっているのに毎回驚くポイントです。



革ジャンもそうなんですけど――


なんかすごく個人的な感想になっちまいますが、

「東京暮色」

何回みても、「ものすごく精密に作りこんだ小津のコピー作品」

そんな印象がつきまといます。


なんといいますか、

ポーランド、ロシアあたりの、熱狂的な小津マニアの映画監督が、

松竹のスタッフ・キャストを使って作った小津のコピー作品、みたいな??


単に寒々しい画面だから、そうおもうのか??

でもこの違和感は一体なんなのか??

自分でもよくわかりません。


↓↓そうそう、前回ご紹介した「2」


田中春男が笠智衆のマネをしたがるのですが――


「おばはん、おれにもおくれエな」

「おばはん、おれにもおくれエな、牡蠣……おれは酢がええわ」


これも「2」というテーマにからんできそうです。


笠智衆と浦辺粂子の会話に「2」人の女の子が登場してくる

・明美ちゃん(浦辺粂子の娘か?)

・お宅のお嬢様(有馬稲子)


それから

お常「ねえ旦那、こないだの晩、もう十二時ちょっと廻った時分だったかしら、沼田先生いらっしゃいましたよ」

周吉「そう、一人でかい?」

お常「いいえ……学生さん二人おつれンなって」


「2人」――



客(徳利を出して)「旦那、ひとつ行きまひょか」

周吉「やァ、どうもこら……」


drinkします。


「晩春」の曾宮周吉は

原節子とeat

月丘夢路とdrink

と美女に囲まれてうらやましいかぎりでしたが、


「東京暮色」の杉山周吉は

田中春男とdrink

杉村春子とeat

信欣三(沼田)とdrink

とおっさんおばさんばかりでまったくうらやましくない……


やはり反「晩春」か??


S4

「雑司ヶ谷の小路」


S5

「杉山家 玄関」

「玄関の表」


なにげなく見過ごしてしまいますが、じつは異常なショット。


玄関を「表」からとらえるのって、すごく珍しい。


↓「晩春」


↓「麦秋」


↓「東京物語」


と、全部内側から撮られています。

「早春」も内側から、でした。


「東京暮色」だけが外側から玄関を撮っている。


そして内側からの視線が、障子で遮られている、という徹底ぶり↓↓

僕が先ほど書きました「違和感」というのはこのあたりのことなのか?


さらに……


↓↓両側、赤丸で囲んだところに

笠智衆がぼんやり映り込む、という凝りようです。



うちに帰ると原節子が。


周吉「ただいま」

孝子「お帰んなさい」

周吉「アア、来てたのかい」

孝子「ええ、お寒かったでしょう」

周吉「ウム」


役名は「孝子」


われわれは「紀子」ではない原節ちゃんに

はじめてお目にかかるわけです。


構図・セリフともに「晩春」のS33に似ていますが、

向きは逆です。


このあたりも反「晩春」


孝子「お父さん、ご飯は」

周吉「食って来た」



で、お着替えシーン。

沼田孝子は父親の足袋の場所がわからない、というのは

前回触れました。



で、大好きな「靴下を脱ぐ」ショット。


外の世界(勤め先)では「靴下」で、

ウチでは「足袋」あるいは「裸足」ということのようです。


あと、外の世界では「帽子」をかぶりますな。

帽子をかぶらなくなった現代からみると、

なんかよくわからない感覚です。


なんかかっこいいけど、マネはできないなーー

絶対なくしそうな気がする……



そしてこれまた大好きな横顔のショット。


たいへん失礼ながら……

原節ちゃん、アゴの下あたり、ふくよかになってきたな、などと……



有馬稲子がちょろっと登場。


孝子「明ちゃんお茶飲まない」

明子「いらない」


「いらない」という時、ネコちゃんはきちんと襖の陰から顔を出します。

このあたり、小津映画、という感じ。


別に有馬稲子の姿はみえずに有馬稲子の声だけすればそれでいいのです。

それがトーキーというもの。


ですが、

あくまでサイレントのテクニックに忠実な小津安っさん、

セリフがあるときはかならず話者が画面に写ります。

どんな時も、です。



周吉「どうしたんだい、一体」

孝子「いいの、すこし放っといて」

周吉「然し」

孝子「いいのよ、そんな人なのよ」


どうも原節ちゃんの結婚生活は破綻している模様です。


「2」という数字がここにもあらわれてきます。

原節子の結婚生活は破綻している。

笠智衆の結婚生活もやはり破綻している。

(この段階ではまだわかりませんが)



S8

笠智衆の勤め先の銀行です。


例によって、建物の全体像、

あるいはわかりやすいファサードは出てきません。




S11

監査室。


ちょい役の女の子がかわいい、というのも

小津作品あるある、でしょうかね。


「秋日和」の岩下志麻が有名ですが。


杉村春子、登場。

杉山周吉の妹、重子です。


周吉「小林さん、ちょいと出かけるがね、二時頃迄に帰ってくるから、電話でもあったら聞いといて下さい」

女給仕「はい」

重子(その女給仕に)「ちょいと、二階のトイレ、何処」


「2」ばっかりでてくる。


そういえば、「女給仕」もこの子を含めて二人います。



S13

「うなぎ屋の看板」


あとあとわかるのだが、

停まっている車は、杉村春子のクルマらしい。


自家用車なのか、経営する会社の車なのかわからんが、

とにかく車をもっている登場人物が出てくるというのは……

「淑女は何を忘れたか」の坂本武以来ではあるまいか?

桑野ミッチーもクルマの運転が出来るという話をするし。

(「戸田家」の登場人物は持ってそうだが、画面には出てこない)


逆にいうと、ようやく経済状況が

戦前並みに回復してきた、ということなんでしょうな。

休憩時間にうなぎ食べてるし。

「もはや戦後ではない」という経済白書、

あれは1956年のことだそうで。


「東京暮色」は1957年作品。


ここはものすごい構図のショットの連続。


S16

重子「ねえ兄さん、お父さんの十三回忌どうします?」

周吉「ウム、どうするかな」

重子「わざわざいく事ないわね。あたしからお寺に何か送っときましょうか」

周吉「アア、そうしてもらおうか」

重子「じゃ送っとくわ。千円もやっときゃいいわね」

周吉「ああ、沢山だろう」


「東京物語」の山村聰、杉村春子の会話を思い出します。



明ちゃん――有馬稲子が杉村春子にお金を貸してくれ、といってきたこと。


それから……


重子「だからねえ兄さん、あの子も早くどッかしッかりしたとこへ片付けた方がいいわよ」


お得意の「娘の縁談」が登場。


しっかし……

「娘の縁談」が登場するんですが、

けっきょく結婚することなく自殺、という結末なわけですから……


その点でも珍しい。

というか、結婚しないのはこの作品だけ? だよね。

つくづくヘンな作品です。


その3につづく。


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