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「学生ロマンス 若き日」(1929)感想 その3

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久方ぶりの小津ネタです。

前回「東京暮色」(小津のモノクロ作品ラスト)
の感想を終えて
いったん途切れましたので、

順番からいえば とうぜん「彼岸花」(小津の初カラー作品)
なのですが……

なんか9か月かそこら「小津ワールド」から遠ざかってたもので
「小津勘」(?)が鈍ってる気がするので……
もう一回初期作品から出直してみようとおもいます。
で、現存最古の「若き日」

□□□□□□□□

①「若き日」はぐるぐる映画である。

はい。
なんと現存最古の小津作品も
「東京物語」同様の
ぐるぐる映画だったことを発見しました。
(くわしくは「東京物語のすべて」を参照のこと)

まずはご存知。反時計回りのパンです。


カメラの向きが反時計回りに回転します。

ぐるぐるしてます。


つづいて主人公(結城一郎)が下宿しているうちのガキ。

けん玉がぐるぐるです。回転です。


主人公は「二階貸間」という紙を 自分の借りている部屋に貼って
かわいい女の子と接触しようという作戦です。

でも、なかなかうまくいきませんで、
「二階貸間」の紙を書いては捨て、書いては捨て、です。

この無意味な回転運動。
――はい。ぐるぐるです。

そして、「二階貸間」のそばには 小津安っさんお気に入りのぐるぐるグッズ。
時計。


いっぽう。
斎藤達雄がヒロイン(ブス)とおデート。

ヒロインが毛糸をぐるぐるしてます。


手をぐるぐる・ごにょごにょする。というのは
後年「恋」「激しい感情」をあらわすことになるのですが、

(↓↓例、「晩春」の原節ちゃん)

「若き日」の場合はそうではないです。
ただ、たぶらかしているだけなので。


ヒロインが結城一郎の下宿に引っ越してきます。
大八車がぐるぐるです。

――しかし。
1929年。物資輸送用の道具だからというのもあるだろうけど……
「ゴムタイヤ」は使ってないんですね。
全部木製の車輪。

人を運ぶ「人力車」はゴムのタイヤを使ってたはず。

んー。「生まれてはみたけれど」(1932)の引っ越しはトラックですが。
(もちろんゴムのタイヤ)


「引っ越し」-「大八車」というので
急に思い出してしまったので脱線。

松竹大船作品。
佐々木康監督 「新女性問答」(1939)
で、女学生の桑野ミッチーが引っ越しするのはやっぱし
木の車輪の大八車だったりする……

1939年も江戸時代の道具使ってる。


よくまあ、こんな国がアメリカ合衆国にケンカを売ったものだ……
(最近読んだ 兵頭二十八&別宮暖朗の「帝国海軍のウォープラン暴走説」には納得させられましたが……)

にしても……
桑野ミッチーかわええ……
制服姿やばい……

あ。そうそう佐々木康は 小津安っさんの弟子といっていいでしょう。


脱線終り。
「若き日」に戻ります。

結城一郎。ヒロインに部屋を譲ってしまったので
斎藤達雄の部屋にもぐりこみます。

で、時計。ぐるぐる。


斎藤達雄がいやがるので
「情は人の為ならず」
なんてコトバを持ち出します。

このコトバも
「情けをかけるのは回り回って自分のためにもなるのだ」
という意味ですから、

回転運動。ぐるぐるしてます。

――喜八もののなにかで
飯田蝶子がこの「情は人の為ならず」を口にするような記憶があるのですが……
(たしか)
忘れちゃいました。

どなたか教えてくださるとありがたい。


赤倉へスキーへ行くという話題。

斎藤達雄が結城一郎に
オレはスキー道具も揃えたし。
カネもあるんだ。
と自慢します。

で、財布をぐるぐるします。


念のいったことに……
アングルも変えてぐるぐる。

ただ、後年の「ドンデンを返す」
というあのアングルの変え方ではないですね~


しかし。この「財布ぐるぐる」は――
斎藤達雄が財布をなくしてしまうことを考えると……
すごく深い気がする。

小津作品全体を通して追求していったテーマのような気が。

「その夜の妻」(1930)
「東京の合唱」(1931)
と「おカネがない」テーマの作品をこの後作っていくことになるし。

ちょっと思い出しただけでも……
「東京暮色」(1957)の有馬稲子は堕胎の費用がなくて困っているし。
「秋刀魚の味」(1962)の佐田啓二はゴルフクラブのおカネを欲しがる。

しかし。
1929年当時の小津安っさんはまだお父さんが存命で
お小遣いには困らないうらやましい身分。

んーそのせいか。
あとあと見ていくように
(質屋=第七天国といういまいちピリッとしないギャグ)
「若き日」の「おカネがない」テーマはいまいち切実感がないわけですが……
(カネの苦労などしたことがないので)

もとい、小津マニアにとっては
この財布ぐるぐるはひじょうに興味深いものなのです。

なんか長くなりそうなので、今日はここまで。
「若き日」の分析。まだまだ続きます。
 


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