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小津安二郎の初期作品とモダンガールの系譜 その1

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小津ネタです。

わたくしの書く小津安二郎関連の記事は

「小津安っさん やっぱしスゲー」「天才! 天才!」

と褒めちぎる内容が多いのですが、

 

――今回はそういう感じではないです。

こと、「モダンガアル」に関していうと、

小津の初期作品においては

ごく普通の……一般大衆向けのコンサバな描写をしていたのだなぁ というだけの記事です。

 

逆にいうと……

小津映画に出てくるモダンガールに注目すると、

当時の世間一般の「モダンガール」に対する視線がわかるのではないか??

ということにもなるかもしれません。

 

□□□□□□□□

そもそも「モダンガール」とはなにか??

 

――最近、1920年代、30年代の書物を読みふけっているのですが……

(平凡社・モダン都市文学全10巻、今和次郎「新版大東京案内」、安藤更生「銀座細見」、久生十蘭「魔都」など)

 

「モダンガール」「モダンガアル」「モガ」という存在は、

その出現当初には

世間一般には忌み嫌われた存在であったようなのです。

 

その例を平凡社・モダン都市文学から引っ張ってきますと……

 

――モダンガール

大正後期から昭和初期に独特の、流行の先端をゆく新しいタイプの女性を指す和製英語。略してモガともいう。

洋装・断髪にハイヒールで、映画、ダンス、スポーツを好むなど開放的・享楽的で、一般的には軽佻浮薄というイメージが強かった。

〈ある日、ついに宇野さんの洋装に見とれていた母が、礼子ちゃんのお母さんの反対を押しきって、今までの地味な着物を脱ぎ捨てて、はでな洋装をはじめる決心をした。〉

〈近所の人達は、急に洋装になった母を見ると、珍しそうにしげしげと眺め“あれ、モダンガールですね”とか、“あの足をごらんなさい”などと立ち止まって笑ったりした。教室でも、母が洋装で来ると、あっち、こっちで笑い声が起り、しまいには授業ができなくなるのだった。〉

(萩原葉子「幼いころの日々」、『父・萩原朔太郎』昭34)

(平凡社、モダン都市文学Ⅴ「観光と乗物」55~56ページより)

 

萩原朔太郎の長女、葉子の文章が紹介されているが……

宇野さん、ってのは宇野千代なのかな?

ともかく、洋服を着る、というだけで 相当にヘンテコなヒト やばい人扱いされる状況であったらしいのです。

 

あるいは小津安二郎(1903-1963)の 5歳年下の日影丈吉(1908-1991)の証言……

婦人はまだほとんど洋装していなかった。若い娘のお洒落は日本髪を結うことで、不断着には銘仙の袷を着た。私達のような年配の男性が、何故あんなに日本髪に愛着を感じたのか、いまではその理由がわからない。ルイズ・ブルックスのような断髪は、当時ではあっというような存在だった。

(平凡社、モダン都市文学Ⅳ「都会の幻想」の月報より)

 

つまり、一般男性が萌える対象は

あくまで「和装・日本髪」なのであって、

 

「洋装・断髪(今でいうとボブみたいな感じ?)」

は、まったく恋愛・憧れの対象ではなかったようなのです。

 

□□□□□□□□

えー、というような

当時の「モダンガール」観をふまえまして

ようやく「小津安二郎の初期作品とモダンガールの系譜」本論。

 

はじめに結論を書いてしまいますと、

①モダンガール=悪役時代(1929~1933)

②井上雪子(ハーフ美少女)時代(1931~1932)

③モダンガール追放時代(1933~1936)

④モダンガール受容時代(1937~)

というように、小津のモダンガール観は変化していったのではないか?

とわたくしはおもいます。

 

具体的に作品名をあげますと、

①モダンガール=悪役時代→→「若き日」(1929)~「非常線の女」(1933)

②井上雪子(ハーフ美少女)時代→→「美人哀愁」(1931)「春はご婦人から」(1932)

③モダンガール追放時代→→「出来ごころ」(1933)~「一人息子」(1936)

④モダンガール受容時代→→「淑女は何を忘れたか」(1937)~

ということになります。

 

□□□□□□□□

以下、4つの時代をそれぞれこまかく見ていきます。

 

①モダンガール=悪役時代(1929~1933)

この時代の女性キャラは

・和装・日本髪の良い子。

・洋装・西洋風髪型(モダンガール)の悪い子。

 

このシンプルな対立で描かれることが多いです。

 

「朗らかに歩め」(1930) それと 「淑女と髭」(1931) の……

川崎弘子&伊達里子

が、そうです。

↑↑「淑女と髭」のワンシーンですが……

主人公(岡田時彦)は、モダンガール・伊達里子を突き放して、川崎弘子と結ばれます。

 

「朗らかに歩め」もやっぱし同様で……主人公(高田稔)は、モダンガール・伊達里子と別れて、川崎弘子と結ばれるわけです。

 

「東京の女」(1933)の岡田嘉子は

一人二役、といいますか……

二重人格といいますか……

 

悪役・兼・ヒロイン

悪い子・兼・良い子

モダンガール・兼・和服の大和なでしこ

 

というおもしろい存在です。

↑↑酒場で働いている時の姿は

「洋装」ではありませんが、髪型はどうみても「日本髪」ではない。

バリバリのモダンガールです。

 

一方、うちにいるときのお姿は

ばりばりの和装、なわけです。

 

で、この時代の最後を飾る……

「非常線の女」(1933)

 

水久保澄子は、和装・日本髪の良い子で……

 

田中絹代は洋装・モダンガール・悪い子、なわけです。

 

だがしかし、

物語の中心・重点は モダンガール・悪い子の田中絹代の方に移ってきているというのがポイントでしょうか。

 

小津安っさんもだんだんと「モダンガール」の良さがわかってきたのかもしれないです。

 

そういう目で見ると……

名高い(?) 田中絹代と水久保澄子のキスシーンは

 

モダンガール・悪い子&日本髪・良い子の融和を描いているのかもしれないです。

 

②井上雪子(ハーフ美少女)時代(1931~1932)

お次。

井上の雪ちゃん時代なのですが、

これは「モダンガール=悪役時代」の中で 特異な2作品があるよ。

ということです。

それが、「美人哀愁」(1931) 「春はご婦人から」(1932) の2作品です。

 

ただ……

この2作品。現存しておらず、スチルしか残っていないのでなんともいえんのですが……

 

↑↑井上の雪ちゃんはどうみても洋装のようです。

つまり、モダンガールのヒロインを描いた作品だったわけです。

 

現存する小津作品では 動く雪ちゃんをみられません。

(「髭と淑女」にかすかに出てくるが)

 

動画の井上雪子を見るには、

清水宏の「港の日本娘」(1933)が一番良いようにおもうのですが、

(↓↓以下、2枚、「港の日本娘」より)

 

これを見て感じるのは……

 

井上雪子はバリバリのガイジン(白人)だということです。

ハリウッド映画の1シーンです、といったところで通用するルックスをしていたということです。

 

今のハーフモデル ハーフ女優さんたちの遠いご先祖。

ルーツにあたる人でしょう。

 

なぜ モダンガール=悪役時代に

洋装した人物をヒロインに描いていたのか??

 

えー、うがった見方をすると……

 

・日本人の女の子が洋装する(モダンガール)のは許せない→悪役

・ガイジンの女の子が洋装するのは許せる。というか、当たり前。→ヒロインとして合格

 

ということなのかもしれません。


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