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山川彌千枝「薔薇は生きてる」感想

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以下、

創英社「薔薇は生きてる」のとりとめもない感想です。

 

十六歳で結核で亡くなった 山川彌千枝(やまかわ・やちえ)さんの遺稿集。

戦前のベストセラーであるらしい。

 

川端康成の少女小説「乙女の港」に――

 

「そうよ、薔薇は生きてるわ。」

 と、洋子が頭の上の花を見上げたので、三千子はクスッと笑うと、いきなり本を洋子の鼻の先きに突きつけて、

「ううん、これよ。」

「これ? あら。(薔薇は生きている)って本の名前なの?」

「お姉さまに上げようと思って、折角赤屋敷のポオチへ置いといたのに、拾って下さらないんですもの。」

(実業之日本社文庫、川端康成著「乙女の港」88ページより)

 

などと、ヒロイン三千子ちゃんと、「お姉さま」洋子さんのイチャイチャシーンに この本が登場しますので

(川端は「薔薇は生きている」とタイトルを間違っているが)

どうも 1930年代お嬢様の「おしゃれアイテム」として 存在したのではなかろうか?

 

16歳で病死した

作者の山川彌千枝さんはまったくそんなことを考えているはずはないのですが……

 

そもそも……わたくし、

1930年代松竹映画のヒロインたち

水久保澄子、逢初夢子、高杉早苗、桑野通子、などなどの面々が、

いったいどのような青春時代を送ったものか 知りたく、

 

で、吉屋信子先生の少女小説 という魔の領域に沈み込んでしまいまして……

 

病膏肓に入る というやつで

実業之日本社「『少女の友』創刊100周年記念号 明治・大正・昭和ベストセレクション」

とかいう 「少女の友」の復刻版みたいのに手を出してしまいまして――

 

で、↓↓

こんな広告を目にしてしまいまして……

 

「十六歳で亡くなつた天才少女の 薔薇は生きてる」

「誰もが読んでゐます 皆さんお読みになりました?」

あと吉屋先生の推薦文までついてるし……

 

んー、まさか、手に入らないよな?

とアマゾンで調べてみると、

2008年刊行のこの本がありやがるのさ。

 

古本で、ちょっと高かったが、買っちまったさ。

とても良かったさ。

 

えー 以下、感想を箇条書きに書いていきます。

まとまった感想は書けそうにないので……

 

・やっぱり短歌が白眉でしょう。

お母さん(山川柳子)が歌人だったということも大きいでしょう。

 

美しいばらさわって見る、つやつやとつめたかった。ばらは生きてる

 

目をつぶっていろいろなことを思い出す嬉しいかなしい通って来た道

 

落ちるよにすばやく鳥の大空を斜めに飛んでゆくすばらしさ

 

あたまがいたい。まゆがよってくるようだあつくてじんじんいっている世界

 

ベッドを窓ぎわに寄せて空を見た、私は空の大きいのを忘れていた

 

ほそいしんの鉛筆で書くきもちよさ細いきれいな線が出てくる

 

・十代の彌千枝ちゃんよりも お母さんの柳子さんと年齢が近いせいか……

「このお母さんすごいな」とつくづく感心してしまう。

 

春ちゃんが、母様、馬みたいに子供生むってゲラゲラ笑って喜んでるのよ。何しろ九人とは大変ね。

(創英社、山川彌千枝著「薔薇は生きてる」244ページより)

 

などと彌千枝ちゃんが姉にむけて手紙で書いているのだが、(「春ちゃん」もお姉さん)

このお母さん

彌千枝ちゃんを含めて3人の子供を病気で若いうちに亡くしているようだ。

それにひとり、社会主義運動にかかわった、とかで刑務所に入った子もいたりする。

 

けっこうお金持ちらしいのだが(それは彌千枝ちゃんの文章のはしばしに匂っているので)

経済的な苦労はなかったにしても ものすごい苦労をされている。

スーパーお母さんである。

 

・今だと抗生物質で治る病気なので、なんとも痛ましい気持ちになってしまう。

あと、

 

十二月二十八日

今夜はとても良い気持、今まで母さまとお話をしていたの。毎晩母さまに、お休みを言って別れるのがいやでならない。もっともっと長くいて、冬の夜中話をしていたいよう。でもそんな事したら、一ぺんで母様風邪ひいちゃうわ。この室は開けっぱなしで寒いんですもの。

(同書、197ページより)

 

十二月二十八日……真冬でも窓を開けっぱなしという とんでもない治療法なのである。

どれだけ根拠があったかわからんですが、

これはこれで理にかなっているのかもしれんですが、

なんとも痛ましい。

 

・1930年代 戦前のブルジョア家庭の豊かな生活がよくみえます。

あーこのころは 連合艦隊はまだ海の上に浮かんでいたのだな~とかおもいます。

 

三月十二日

今日、東京に来た。うれしいわ。お座敷でねるの。金びょうぶなんかたてておかしくってわらわせるわ。

(同書149ページより)

金屏風!!

笑わせるわ、って反応もいい。

 

三月二十七日

今日晩、飛行機が電気をつけてとんできれいだった。まるで星がとんでくようにきれい。

(同書150ページより)

たぶん新鮮な光景だったのでしょう。

 

二月十七日

ああなんか食べたいな。こんがりときつね色にやけたパンにバタ塗ったの、赤いジャム、レモンティ。

鏡を見ながら、歌をうたったり、喋ったりする。随分おかしい。「あーあ」なんておどろいた顔をしたり、玄関のお取り次ぎの顔したり。

(同書162~163ページより)

うーん、上流階級の匂いがします。

 

二月二十三日

お部屋に今とても奇麗なバラがある。真赤なバラと、クリームのバラ、開いて、開いて、開らこうとしてる。

(同書165ページより)

 

八月五日

オリンピック、日本優勝、三段飛びに南部。この頃私の日記ったらまるで、新聞のよう。でもオリンピックがいいと皆も晴れやかよ。オリンピックが悪いと、なんだい、しようがないなんてとても怒ってるわ。

私この頃具合が悪いのよ。胸の奥で、息をするたびに、ゴトゴト言う。そして口きくと息苦しい。でも、ちょっと胸の病いなんて詩的ね、胸を病む少女なんてステキだわ。ステキだけど、本当の事言うと、ステキどころじゃありゃしない。悲しい苦しい事だわ。けれど、幸福はどこにだって、そうあるもんじゃないわ。

(同書185ページより)

ラジオの話題 多いです。

クラシックを聴いたり、歌舞伎を聴いたり……

そしてロサンゼルスオリンピック。

 

・佐々木文枝さんへの手紙……当時の女学生のリアルな会話が垣間見れます。

佐々木文枝さんは彌千枝ちゃんの親友で のちのち俳優の千秋実の奥さんになった人らしい。

 

この子はよく彌千枝ちゃんの病室に遊びに来る、とんでもなくよい子です。

伝染性の……不治の病の患者の元に、です。

 

 皆、学校じゃどうしてて? 私会ってみたいわ。それから小田さんにゴム消し返したいわ。

 もう少し疲れて来た。私あんたにもっと長い手紙書きたいと思うんだけど、熱が出るとこわいから止めるわ。どうぞ悪しからず。

(同書222ページより)

 

 あんたは毎日何してるの? 相変らず元気なんじゃなくて? 実際あんたは病気なんてものに縁がなくて羨しいわ。

 私なんて切っても切れぬ縁があると見えて、なかなかうるさいのよ。病気なんてものはいやなもんさ。だからあんたは病気にならないように気をつけるべしだわ。

(同書225ページより)

 

 私が貸した本、どれか読んで? あんたが読んで悪口を書いて来るのを楽しみにしてるわよ。

 あら、ラジオが始まった。もう、これ書くのいやになっちゃった。汗がこんなに出てもうやめるわ。

 また来て、下界の話をして頂だいね、井尻さんに、何とぞ何とぞよろしく。

(同書232ページより)

「下界の話」ってのがいい。

何度かこのワードが出てきます。

 

 今度お正月遊びに来ない? あんたに大分会わないから会いたいわ。それにクリスマスに色んなもの貰ったからあんたに見せたいし、それからあんたにけちな物が買ってあるからあげたいし、もしお正月に来られなかったら一月中にきっといらっしゃい。

(同書235~236ページより)

けちな物って……

 

えー以上。

「感想」じゃなくて、 ほぼ「引用」に終わりましたね。

まあ、わたくしのどうでもいい感想などよりそっちの方が何倍もよいでしょう。

 

さいご スーパーお母さん、山川柳子さんの日記。

彌千枝ちゃんがなくなった日の日記の引用。

 

三月三十一日

 ああ、や子、や子、

 朝五時に容態が変ったと言って起される。やつれた顔で「もういやっ」という。それでも注射で落ちつくと人形を見、ゼリーを二つ食べる。注射で苦しみを止め止め、十二時頃から楽な眠りに入る。その前矢熊さん来る。とにかく逢わせる。「矢熊さんよ」というと大きな目を開けてぐると見廻し、矢熊さんの顔を見て「また、なおったら来て頂戴」とゼイゼイ言いながらいう。それからは氷とお茶を少し飲んだきり。

 二時五十分安らかに永眠す。松島先生、黒川先生に心臓の鼓動を聞かれながら、幸世をのぞく外は来られるだけの人々あつまり懇ろにお棺にいれる。

 生れて初めて化粧したる顔、花嫁の如し。

(同書270~271ページより)

矢熊さんはどういう人なんだかわからない。看護婦さんか??

幸世は、刑務所に入っているお兄さん。

 

さいごの 「生れて初めて化粧したる顔、花嫁の如し」

は、川端康成が「禽獣」とかいう小説に引用しているらしいです。

 


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