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タルコフスキー「惑星ソラリス」と タロットの「節制」(Temperance)

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だいぶ前にちょろっと書きましたが、

「易経」関連の本はひきつづき読んでまして

自分なりに勉強しているのですが……

(注:占い、というより哲学として興味がある)

 

「西洋のタロットというのは あれは何でしょうね?」

という興味も湧いてきまして。

「ウエイト=スミス版」というデッキと 入門書をいくつか

アマゾンで購入して見始めたのですが……

 

正直言いますね。

易経に比べて

思想が薄っぺらく

またシステムがあまりに単純すぎて

 

んーつまらん。金の無駄だった。

と入門書を読み始めて早々に後悔し始めました。

 

どういう風に「薄っぺら」で「単純」かというと、

易経だと ひとつの卦(英語でいうとヘキサグラム)が、

他の卦と有機的に繋がっているんですわ。

「乾」の卦を陰陽反対にすれば「坤」

「既済」の卦を陰陽反対にすれば「未済」

 

あるいはAの卦を上下180度引っくり返すとBになりますので……

なんて読み方はよくあるし。

 

あるいはあるいは

天沢履

が、女性の身体をあらわし、

地山謙

が、男性の身体をあらわす。

などというとんでもない深読みが可能だったりもする。

 

タロットにこの深みはない。

うむ。やはり西洋文明は根っこが単純でつまらんな。

などと早々に飽き始めたのですが――

 

ですが――

以下に書きますように、

 

14番 節制 Temperance のカードで

「惑星ソラリス」の1シーンの謎が解けたりしたので

これはおもしろいかも?

などと思いなおしております。

 

14番「節制」は こんなです↑↑

天使が描いてあるカード。

 

13番「死神」

15番「悪魔」

16番「塔」

というインパクトの強い連中の間にあって なんか地味なやつなのですが……

 

天使が水をなんか移し替えていますでしょ。

あのイメージにわたくしはハッとしてしまったわけです。

 

 天使は左手の杯から右手の杯へと絶えず水を移し、杯の水をこぼさずに保っています。節度を守るためには、絶えずバランスを保つための活動が必要であることを表しています。

(ナツメ社、手賀敬介著「いちばんやさしいタロットリーディングの教科書」48ページより)

 

 

 ユングの著書『心理学と錬金術』――(中略)――その中にタロットの『節制』を思わせるような夢が登場する。

〈母親が一つの盥から別の盥へと水を移し替えている……この行為はたいへん厳粛に行なわれる。というのもこの行為は周囲にとっても極めて重要な意味をもっているからである〉

 ユングは、ここで移し替えられる水は、錬金術師たちが「生けるメルクリウス(水銀)」と呼んだ、心のエネルギーの象徴であり、古い場所にあった心的エネルギーが新たな場所へと移動して、心の変容を促していくプロセスを象徴するものだと考えた。

(朝日新聞出版、鏡リュウジ著「鏡リュウジの実践タロット・リーディング」132~133ページより)

 

 

この「水の移し替え」が、ですね……

タルコフスキー「惑星ソラリス」 ラスト近くの謎めいた母親の夢を解くヒントになるのではあるまいか?

 

「惑星ソラリス」とはなんなのか語り始めると キリがないのですが……

 

どうも主人公は 子供のうちにお母さんを亡くしているっぽいです。

それで若くて美しい母親が夢に出て来る。

 

その母親は 中年の……肉体的には自分より年をとっているかもしれない息子を

少年みたいに扱う。

 

まあ はっきりいや近親相姦的なシーンですわ。はい。

SF版泉鏡花かしら?

 

まー タルコフスキー

デビュー作から一貫して マザコンであることを隠しもしないわけですけど……

 

この母親役の女優さんの

なんか着物でも着せれば似合いそうな(笑)

ほっそりした……豊満なロシア女のイメージとは真逆なイメージもあいまって

このシーンはなんか記憶に残っていたわけです。はい。

 

母親は主人公をなじります。

 

まあ、ソラリスって惑星はですね。

人間の脳内のイメージを物質化する力(?)があって、ですね。

 

で、主人公は ソラリスが物質化した「自殺してしまった妻」に出会うわけです。

で、この「自殺してしまった妻」とのぐじぐじした退廃的な生活が 映画「惑星ソラリス」の主要部分なので――

 

お母さんに「生活が乱れてる」と批判されて当然なわけです。はい。

 

年下の母親になじられる主人公。

「生活が乱れてるのね」

「だらしなくて不潔よ」

 

……ぜったい喜んでます、主人公。

……マゾです。はい。

 

「腕も汚れてる」

 

で、肝心のシーンですわ。

 

「水の移し替え」

「節制(Temperance)」

 

この夢から醒めると 宇宙ステーションの同僚から

「ハリー(自殺した妻)は消えた」

と主人公は教えられます。

 

古い場所にあった心的エネルギーが新たな場所へと移動して、心の変容を促していくプロセスを象徴するもの

というわけでしょう。

 

あるいは、母親が息子に、

節度を守るためには、絶えずバランスを保つための活動が必要であること

を、教えたのだ、とみることも可能でしょう。

 

長年 ずっと記憶の奥にひっかかっていたシーンの謎がようやく解けたような気がしています。

 

――というか、ですね。

この夢シーンのはじめに……

 

「旅はどうだった?」

というセリフがあって、主人公は長い旅から母親の待つ家に帰宅した、そんなイメージがあったもので……

 

このシーンは

ホメロスの「オデュッセイア」のパロディなのだろう、

とずっと思いこんでいた

……わけです。

まあ、いちいち説明はしませんが、

長い旅から帰還したオデュッセウスが 乳母のエウリュクレイアに足を洗ってもらう。

エウリュクレイアは腿の傷から 旅人がオデュッセウスであることに気づく、

という感動的なシーンがあるのですよ。

 

「乳母」といや、まあ「母」みたいなもんだから――

とかおもってたのですが……

ちがいますね。

 

「水の移し替え」

「節制(Temperance)」

これが正解なのでしょう。

 

ただ、ですね。

タルコフスキーがどうやってこのシーンを考えたか、ですが……

 

①完全に無意識で作った。

②タロットの「節制」のイメージから組み立てた。

③西洋美術のシンボルに「節制」イメージ同様のイメージがあった。

そこからこのシーンを組み立てた。

 

この3つが考えられるとおもいます。

4番目として……

④レムの原作にこのシーンがあった。

 

というのもあるんですが……あったっけ?

この濃厚なマザコンシーンはタルコフスキーのオリジナルだとおもうのだが……

このためにもう一度原作を読み返すのも……なあ……


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