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塔の作家・小津安二郎 その4 「非常線の女」の教会は横浜山手聖公会である。

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えー、順番通りにいくと

「青春の夢いまいづこ」→「東京の女」→「非常線の女」

なのですが、

 

ちと先回りして はじめに「非常線の女」のことを書きます。

というのも……

 

名高き

田中絹代×水久保澄子

の、キスシーンの背後に写っているのは……

 

あれはカトリック山手教会だ、

などと たわごとを書いている人をウェブ上で発見したからで――

 

ちなみに

カトリック山手教会

はこんな↓↓

まったく違いますよね。

 

コロナ騒ぎ以前でしたら、

休日にひとっ走り

横浜に行って

写真撮ってこれただろうに、

それもできないので

グーグル様のストリートビューの画像を拝借しました。

 

撮影したのは2016年7月だそうです。

 

設計者はヤン・ヨセフ・スワガーなる人。

聖路加国際病院もこの人の作品らしい。

(聖路加は「彼岸花」に出てきますね)

アントニン・レーモンド先生の事務所の一員だったとか。

 

この建物は1933年竣工。

何月竣工なのだろう?

「非常線の女」の撮影は1933年の3月です。

 

撮影の頃、完成していたのか、どうなのか?

 

正解はこっち↓↓

横浜山手聖公会

 

これもストリートビューの画像を拝借。

撮影したのは2019年6月だそうです。

 

設計者のJ・H・モーガンというのは

根岸競馬場のあの人だ。

1931年竣工なので

とうぜん1933年3月よりも前です。

 

根岸競馬場もそうだが、デザイン的にはちょっと、単調かな……

 

もちろん立派な「塔」がありますね。しかし……

 

教会の真ん前で

レズ・キスシーンを撮るなんて

なんて不謹慎な‼

 

――と、生真面目なトマス・ピンコは 常々憤慨していたのですが(笑)

 

考えてみると、あれでしょ、英国聖公会って、

なんとかいう王様が カミさんと離婚したいがために作った宗派でしょ??

 

その意味で、このシーンの背後に

山手聖公会が登場するのはふさわしいのかも。

 

あと小津安っさんの英国趣味も考えたいところです。

 

↑↑何度みてもかわいい

水久保澄子たん……

 

□□□□□□□□

もとい、順番通りにみてまいります。

 

8、「青春の夢いまいづこ」(1932)

 

はっきりいって失敗作。

――というか、「生れてはみたけれど」の子役がケガをして

(骨折かなにかか?)

その間 ぽっかり空いた時間に撮られたという……

 

あまり気合が入っていない一作。

 

そのせいか、「塔」のショットも気合が入っていない気がする。

 

しょっぱな、例の

主人公たち、上を見上げる……

→視線の先には巨大構造物(塔)……

という黄金パターン。

 

ですが、

 

だから、何が起きるわけでもない。

しいていえば……

 

上を見上げる斎木(斎藤達雄)の将来の伴侶

お繁(田中絹代)が登場するというくらいかな。

 

↑↑こんなモダンな看板の「ベーカリー・ブルーハワイ」ですが、

 

そこの看板娘の田中絹代たんは

しっかりお着物を着ている。

 

しかし、こうもセクシャルなショットって……↓↓

これより前にあったかな??

 

これも「塔」のショットといえなくもないですね。

 

これは「全集」のシナリオにないシーンですが↓↓

大学の教授たちが上を見上げる。

 

そして「塔」――

 

ですが、これまた何が起こるわけでもなく、

強いていうと、

主人公の江川宇礼雄が、

求婚者・伊達里子のクルマを発見するシーンに繋がるぐらいのことか。

 

「朗らかに歩め」「淑女と髭」では

なんかもっさりした洋装をしていた伊達里子ですが、

 

ちょっと垢抜けた感じ↓↓

 

えー 「青春の夢いまいづこ」というと、

 

S71 空き地

友情の鉄拳だ!

骨身にしみて覚えて置け!

 

という誰しもうんざりしてしまう暴力シーンですが、

 

江川宇礼雄が斎藤達雄をぶん殴るシーンの背後に

 

 

ざわざわと揺れる木。

これは「塔」とみたいところ。

 

だがしかし

転んでもただでは起きない小津安二郎。

失敗作でも なにか見所はあります。

 

S74 ビルディングの屋上

哲夫と熊田と島崎が、屋上の末端に並んで、

遥か向うの高架線を見おろしている。

哲夫が明かるく指さして言う。

「いた! いた!

窓からこっちを見て

手を振っている!」

 

ビルの屋上から手を振る――

後年、「秋日和」で司葉子&岡田茉莉子がやるやつです。

 

左から↓↓

伊集院光……じゃなくて 大山健二

江川宇礼雄

笠智衆

 

主人公たち、上を見上げる……

→視線の先には巨大構造物(塔)……

という黄金パターン。

 

田中絹代が上を見上げれば……

 

「塔」がみえる。

 

1930年代の帝都。

仁壽生命(じんじゅせいめい)本店 内幸町にあったらしい。

 

キャメラマンの厚田雄春が

小津組では

鉄道の場面は実物を使う、といってたから、

 

この客車も実物なのでしょう。

セットではなく。

 

ということは、やっつけ仕事のようにみえて

案外そうでもないのか。

 

「鉄道」というのを大々的につかった初めての作品かもしれない。

まー失われた作品がたくさんあるから、

なんともいえませんがね。

 

「若き日」「東京の合唱」では市電がでてきましたが、

高架線を走る省線がでてきたのは……「その夜の妻」くらいかな??

 

おつぎ。

9、「東京の女」(1933)

 

この作品の制作過程は 「全日記 小津安二郎」で辿ることができます。

1933年お正月から 池田忠雄と「非常線の女」のシナリオを書いていたようなのですが、

1/24(火)次長から「いそぎもの」の撮影を頼まれる、という記事がでてきます。

 

1/24(火) 1/25(水) 湯河原の中西旅館にて

小津、野田高梧、池田忠雄の3人でシナリオ書き

1/26(木)

配役決定

1/27(金)~2/4(土)

撮影 (たった9日)

 

2/9(木)

「東京の女」封切り!!

 

サイレント映画時代のすさまじいスピードがよくわかります。

 

つまり小津安っさんにとってはあくまで

主→「非常線の女」

従→「東京の女」

という意識のようですが、

しかし この映画 よく作りこんであるし、

シナリオも無駄がなくて いい感じ。

 

S1 アパートの一室

 

岡田嘉子のお姉さんが働いて

大学生の弟、江川宇礼雄を養っているという設定。

だが、岡田嘉子は 昼間の会社勤めが終わると

夜はいかがわしい酒場に働きに出ていてーー

 

そのことを知ったウブな江川宇礼雄は自殺しちゃうというはなし。

 

「靴下」「足袋」↓↓

足フェチの小津安っさんには欠かせない小道具類。

 

あ。「塔」のはなしでしたね。

通風器がすぐとなりでカラカラ廻っています。

 

岡田嘉子、上方を見上げる。

 

と、ここにも塔(煙突)が。

 

オープニングにいくつか登場したきり

「塔」はまったく姿をみせなくなり……

われわれをやきもきさせるのですが(笑)

 

後半も後半になって、

突然、岡田嘉子が上を見上げます。

 

S49 家の前 格子先

時計屋の小僧が来て、格子外から言う。

「木下さん! 電話ですよ!」

 

S50 一室

ちか子と春江、その声で顔を見合う。

春江、涙の跡を拭いて、ちか子に会釈して立って行く。

ちか子、その姿をじっと見送る。

 

というこのあたり。

 

部屋に残されたちか子(岡田嘉子)が

ふと……

 

主人公たち、上を見上げる……

→視線の先には巨大構造物(塔)……

という黄金パターン。

 

なのですが、

その視線の先は

なんと

振り子時計!……

 

肩透かしを食らったわれわれはしかし……

絹代たんの背後に映し出される 無数の時計に呆気にとられます。

 

時計屋さんだから当然なのですが――

 

このシークエンスは見事。あざやか。

 

電話の主は 田中絹代のお兄さん役の奈良真養で、

 

S56 警察の電話

木下、ためらいながら決心して言う。

「自殺したんだ」

 

……で、たまらなくエロい 岡田嘉子の泣き姿とかに

つなげちゃうわけですが……

 

絹代たんもかわいいわけですが、

 

時計→時間。

そうか、時間ほど大きなものはない。

そしてあの振り子時計は 弟の「死」をもまた象徴していたわけだから……

 

主人公たち、上を見上げる……

→視線の先には巨大構造物(塔)……

という黄金パターン。

この公式はやっぱり間違っていなかったわけだ。

などと強引に確認するわけです。

 

ラストも「塔」で締めくくります。

 

次回は

「非常線の女」をみていこうとおもいます。


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