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田中真澄編「小津安二郎全発言1933~1945」感想 その2

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小津に関して語り始めると止まらないのだから仕方がない。

というわけで感想つづきます。


感想②やはりA日新聞はスゲエ。


A日新聞、あるいは朝H新聞(う~む…ヒワイだな)

というのは、皆さんご存知のことだろうから

簡単に説明しますが、


戦前、戦中は軍部礼賛記事をひたすら書きまくっておいて、

戦後は

「は?なんですか?誰のことですか?え?まさかオレ?」

という調子で、軍部礼賛の過去をなかったことにして

「スターリン万歳」「毛主席万歳」「キム将軍様マンセー」と…

今度は社会主義陣営礼賛記事を書きまくることになった

それはそれはすばらしい新聞なのです。はい。


そんなすんばらしい朝H新聞の記者先生が

「小津安二郎全発言」にもまた華々しく登場するので

そのあまりのかっこよさを紹介したいとおもうのです。

トトやんのすべて


その、かっこいいA日新聞の記者さまは

津村秀夫という人で「Q」なる名前で映画批評をしていたらしい。

この堂々と名前を名乗らないあたりもA日の伝統であろうか。


「新映畫」昭和16年4月号に「『戸田家の兄妹』検討」ということで

里見弴、溝口健二、内田吐夢、

そしてオヅ本人と脚本の池田忠雄をまねいて討論をしています。

そこへA日の津村秀夫先生が登場なさいます。


ところが…里見弴、ミゾグチといった大物をさしおいて…


津村 私は今日時間がないので先に感じた事を喋らして頂いてお先へ失礼したいと思います。

(泰流社「小津安二郎全発言」176ページより)


とかいって、自分だけ喋りたいだけ喋りたおし…この176ページから

え~と…177、178、179、180、181…えんえん一人で喋りまくり

182ページのはじめでようやく終わる。

そしてかっこいい朝H本社へとさっさとお帰りあそばす。

さすが朝Hの記者ともなるとこういうことも許されるのであろう。

さすがです。かっこいいです。


そして発言なさる内容もまた、A日、朝Hの名を辱しめぬ堂々たる内容です。


ただしかし、今度の写真は、そういう手法とか何んとかいう点では、先程申しましたように、非常に癖がなくすらすらと何気なくやっていらっしゃるのは寧ろそれは小津さんの為に結構なことだと私は思います。

(同書176-177ページより)


それからあの三人の女に対しては正直に申しますと、私は怒りを感じました。

(同書177ページより)

とにかく三人の女に対しては見ながら非常に怒りを感じた。…やはりあの男にも怒りを感じた。

(同書177ページより)

たといそういう女がいても批判的に描いてほしい。肯定してはいけない。

(同書179ページより)

坪内美子がおっかさんを迎えて話しているのを見ると、どうしてもひどい出鱈目な軽率なことをする薄情な女だと思われない。それが次の場面では亭主と飯を食っているので、どうも何んとも知れないイヤな気持になるという訳です。

(同書179ページより)

…あれは東京のあの位の中学生としては少し子供臭くやりすぎはしないか。

(同書181ページより)


え~、ようするに、ですね…

あの女ムカつく。

あの女嫌い。

ボクちゃん、

あの女をみるとイヤな気持ちになっちゃう…


これの繰り返しですね。さすがA日。

非理性的な論理展開には定評があります。

ま、映画批評じゃないですね、こんなの。


□□□□□□□□


「戸田家の兄妹」というのは、どういうあらすじかといいますと…


戸田進太郎という、大臣を経験したりしたこともある人物がなくなる。

戸田家の奥さん(葛城文子)と末娘(高峰三枝子)は

お屋敷で何不自由なく暮らしていたのだが、

進太郎の死後、膨大な借金があることがわかり

屋敷を手放さねばならなくなる。

そこで暮らす場所がなくなった母子は

長男の家、長女の家、と点々と移動して生活せねばならなくなる…


朝Hの津村大先生が

「キーーーー!あの三人の女ムカつくぅーーーー!!」

とおっしゃっているのは、

長男の嫁(三宅邦子)、長女(吉川満子)、二女(坪内美子)

母子をいじめるこの三人のことです。

名家の奥方とお嬢様を召使同然にこき使う三人のことです。

んーー、というか、

そういう設定なんですが??


このムカつく三人がいないと物語がはじまらない。

そういう設定なんですが??…

朝H…大丈夫なんでしょうか…


ディズニーのシンデレラをみて、

「あの継母ムカつく」「あの姉さんたちムカつく」

それと同レベルなんですが??……

さらにいうと

…というか、前回なんとなくそんなことを書きましたが、

戦争に行って帰ってきた小津安二郎は、

「日本の家族制度の崩壊」を中心テーマに映画を作っていきます。

(その萌芽は、「東京の合唱」だったり「生れてはみたけれど」だったりに

あらわれてはいるのですが)

つまり、

「戸田家の兄妹」はその「家庭崩壊」テーマの記念すべき最初の作品であるわけで……


ボクちゃん、こんな女いやだ!

ボクちゃん、こんな家族いやだ!

と泣きわめいている津村先生は、非常に模範的な観客であったのだ。

素直な客であったのだ。ということがいえます。


それはそれで素晴らしいことですが、

だったら

「批評家」とか「評論家」とか名乗ったりはしないでいただきたいとおもいます。


□□□□□□□□


えー、以上

かっこいい朝H新聞の宣伝でございました。

なんでも受験にも強いらしいですよ。


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