とうとう買ってしまったので報告いたします。
なにが「とうとう」なのか、
たぶん一部の小津マニアにしかわからないでしょうが。
↓こんな本です。
がっちりしたカバーにはいっとります。
蛮友社「小津安二郎 ―人と仕事―」
昭和47年8月25日 発行
蛮友社とは聞きなれない会社だが、
小津先生に助監督としてついていた井上和男さんが
この本の出版のために設立した会社だとか。
井上和男、通称「蛮さん」
デカい本です。↓
ふつうの文庫本と並べてみます。(ハスミ先生の「監督小津安二郎」)
デカいし分厚いです。712ページあります。
画像でどれほど伝わるかわかりませんが、
めちゃくちゃ贅沢な造りです。
当時の定価6000円。
これはネット上の情報なのでどこまで信用できるかどうかわかりませんが、
1000部~2000部しかこの世に存在しないという……
ま。小津安っさん関連文献の筆頭にあげられる本です。
ハスミ先生の「監督小津安二郎」をよんだって、
ドナルド・リチー先生の本をよんだって、
中野翠先生の本をよんだって、
ちとレベルは落ちるが田中真澄の本を読んだって、
かならず紹介・引用される本なのだが、
新刊本では手に入らず、
レア本なのでそこらへんの図書館でみられず、
古書店では、もしあったとしてもベラボーな値段がつけられている、という…
わたくしトマスも、
「読みてー」
「あー一体どんな本だぁーーー」
「きっとものすごいヤツに違いないぃぃーーー」
「うううーーーー読みてぇーーーー」
などと長年おもっていたのですが、
某通販サイトでどうにか手が届く価格帯で販売されているのをみつけ、
早速手に入れました次第。
当ブログをご覧になる方には
僕と同様、
「小津安二郎 人と仕事」……ありゃ一体どういう本なんだろう?
そうおもわれる方もひとりかふたり、いらっしゃるかもしれませんので
ここに紹介しておきます。
↑巻頭一枚目の写真はこれ。
写真の数がはんぱないです。
小津関連本にけっこう目を通しているつもりですが、
はじめてみた写真が山ほどありました。
カメラマン(カメラ番)の厚田雄春さんが集めたもののようです。
↑711ページ、最後の写真がこれ。
「じゃ、またな」
とでもいっているかのようです。
中身はめちゃくちゃ充実しております。
シナリオあり、座談会あり、年譜あり…
松竹の上司、同僚たち、俳優さん達の寄せた文章…
(原節子さんはなかった。残念)
↓こんな映画の舞台の平面図なんてはじめて見た。
本全体の印象としては
1972年…小津先生が亡くなってまだ9年ということで、
まだまだ周辺のひとには哀悼の気持ちが深い、ということ。
(涙なしには読めない文章がたくさんある。
とくに中井麻素子さんの「天国の先生」とか…あ、中井貴一のお母さんです)
あと、クロサワ、ミゾグチに比べ
わが小津先生はまだ世間的な評価が低すぎる!
という義憤の調子もあったりする。
1972年というとそんな時代だったのだ。
個人的な感想を申しますと、
今村昌平、若尾文子、田中絹代の文章がおもしろかった。
今村昌平は小津映画をけちょんけちょんにけなしていて笑える。
手許にシナリオもないので思い出し思い出しになるが「お茶漬」は脚本を一読してみると、有閑夫人や有閑令嬢の背筋の寒くなるようなセリフが多く、ただオッチョコチョイでバカみたいな青年が、豪放で反骨的な人物だという風に書かれていて、感心しなかった。
(蛮友社「小津安二郎 人と仕事」235ページより)
こういう人が小津組で働いていたのだから、
おもしろくならないはずはなく、
これ以外にも
もう抱腹絶倒の文章でした。
全部引用したいくらいです。
文子たんは文章までエロい。エロエロです。
「若尾クン、君のいちばんいいトコ教えようか」
志摩半島の先端、ようやく明るさをましてきた大王埼の灯台を眺めながら、その顔色もツヤをましてきた小津監督の言葉に、私は目を輝かしました。
「それはね、オ・シ・リ」
何というムザンな一言でしょう。
(同書277ページより)
たまらんです。文子たん。
こんど「浮草」みるときは文子様のおしりに注目しましょう。
田中絹代先生の文章はオープニングがすさまじい。
小津映画の俳優としては、私は落第生なのでございます。
(同書299ページより)
↑これはよく引用されるが…
よりによってここから文章書き始めるか??
すげーよ、絹代たん。
そこから紹介されるエピソードもすごい。
「東京の女」撮影中のおはなし。
当時の松竹の筆頭監督、野村芳亭と
若手の小津安っさんの台本読みのスケジュールが重なってしまった。
運悪く、絹代たんは野村先生の作品にも出演が決まっていた。
さてどうするのか??
その両方の本読みが同じ日で、私は芳亭組の方へつれて行かれて出て居りました。当時の芳亭先生の権威というものは大したもので、重役さんもずらり並んだ本読みでした。そこへ、突然小津先生が入って来られて「絹代ちゃん、行こう!」と仰有いました。一瞬シーンと一同息をのんで成行きをみつめました。併し私は立って、小津先生について部屋を出ました。皆さんは唖然と見送るだけでした。小津組の部屋に坐ると、先生はごきげんで「そろそろ始めようか」と台本を開きました。後に芳亭先生が、「あいつは今に大物になる」と小津先生を評されたそうですが、さすがに大物は大物を見抜く眼力をお持ちのものと感心いたしました。
(同書300ページより)
くぅぅーーー、かっこよすぎるだろ、小津安二郎。
大物監督の本読みに、新人監督がずかずか入っていって
「絹代ちゃん、行こう!」
それでくっついていった絹代たんも絹代たんだ。
まー芳亭先生とやらもすごい。(どんなやつだか名前しか知らない)
当時の蒲田の、ある意味自由な空気も感じられます。
写真で一番驚いたのはコレ↑↑
トーハクじゃないっすか!!
ユリノキの根元あたりじゃないっすか!!
草むしりしてるよ…「麦秋」だろうね。
腕時計が気になる。パテック・フィリップじゃないでしょうね?
スイス最強ブランドで草むしりじゃないでしょうね?
↑あと、これははじめて見た。
高杉早苗という女優さんは、小津作品の主演作が今全部存在しない。
それで数枚のスチル写真でしか僕は知らなくて……
そのどれもがブスに写っていたんで、
「なんでこんなブサイクに安っさんホレたんだろう?」
と疑問におもっていたんだが……
あらまーすごい美人。
ホレるわけだわ。
いままでブサイクだとおもっていた高杉早苗。
「小津安二郎 人と仕事」
オマケもたくさん付いてきます。
安っさんの描いた絵。
古本屋だったり通販サイトだったりでこの本をみると、
「画稿付き」
という意味不明のことが書いてあるのだが、
その画稿がこのオマケのことです。
↑中野翠先生の本の、あの絵もある。
保存状態がいいせいか、もともとの印刷に気合がはいっているのか?
色鮮やかです。
「小津安二郎と戦争」の表紙のあの絵もあります。
まー以上、そんな本です。
さすが小津安っさん関連本の筆頭にあげられるだけはあります。
内容・掲載画像・製本……
とにかく豪華な本です。
1972年、贅沢なことが出来る時代だったのでしょう。