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「一人息子」(1936) 感想

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ひたすら暗ーい「東京の宿」(1935)を撮った安っさん。


次の作品は「鏡獅子」(1935)

六代目尾上菊五郎の舞踊を撮ったドキュメンタリー

そして安っさん最初のトーキー作品。

なんですが、海外に向けて公開された作品らしく、

国内公開はなし。

当時の対談などみても、

「みたいなー」

「小津くん、あれはみせてくれないのかね」

とか、いわれていたりする。

BOX第四集にしっかりはいっていますが

批評する能力がないのでパス。


つぎの作品が「大学よいとこ」(1936)

これは現存せず。


で、ようやく…

実質的な初トーキー作品。「一人息子」の登場。


親友の茂原英雄の「茂原式トーキー」の完成を待っていたので

小津安っさんはなかなかトーキーに移行せず、

サイレントを撮り続けていた、というのは有名なはなし。


にしても…

「茂原くんのじゃなきゃイヤだ」

とゴネるわ、

いざ撮ってみた初トーキーがこんなに暗ーい話だわ、

(松竹はすでに土橋式トーキーというのを使っていたのだ)


小津安っさん、厄介なお人です。


ちなみに最初に聞こえてくる音は…

・柱時計のチクタクなる音

・柱時計のボーンボーンとなる音

・工場の機械の音↓↓


という具合。



終始「時間」というテーマにとりつかれていた安っさんであります。


①衣


あらすじ…


おつね(飯田蝶子)は製糸工場で働き、

一人息子の良助(日守新一)の教育費をどうにか捻出し育て上げる。

良助は東京の大学を出、市役所に勤め始める。


おつねは、息子に会いに信州から東京にやってくる。

良助はおつねを歓迎し、いろいろともてなすが、


市役所を辞めて、夜学の教師になっていること、

母に黙って結婚し、もう息子もいること、

等々、判明しておつねをがっかりさせる。


――という感じ。

苦労して育てた息子が、なんかうだつがあがらず…

しかも、将来に希望も持たず、なんとなく生きている、

そんな様子にどんどんおつねが幻滅していく、という流れです。



↑画面上で初登場の日守新一は、三つ揃いのスーツで

いかにも若き成功者、という感じ。

これがだんだんメッキがはがれてきます。


そうそう、飯田蝶子は、「茂原式」の茂原英雄の奥さんです。


↑夜学のシーン。

男の子の制服というのは、80年間、なーんにも変わっていないのだな。


あ。この子見覚えが……

とおもったら、「生まれてはみたけれど」の亀吉くんだ!

ずいぶん大きくなった。



「衣」という点で強烈なのは 笠智衆。

笠智衆は、日守新一の信州時代の恩師。


東京へ出て勉強する…というので

たいそう出世しているのか、とおもいきや、


場末のとんかつ屋さんをやってる。

それをかっぽう着姿で一瞬で呈示する安っさんです。


笠智衆のとんかつ屋は、例のガスタンクのそばにあるらしい。


しっかし…驚いたのは、

笠智衆の声質の良さ。


声がいいんだ。この人。


この「一人息子」…いろいろリマスター技術でいじっているんだろうけど。

音はガサガサしてて非常に聞き取りづらい。

その中でひとり、笠智衆の声だけ、スコーンと明瞭に響いてくる。


はっきりいって

飯田蝶子でも日守新一でもない。これは笠智衆主演作品です。


笠智衆が、

トーキーになって急に輝きはじめた理由…


それまで脇役ひとすじだった不器用な男が、小津映画の主役にまで

のぼりつめる理由。


それはいろいろあるんだろうけど。

声の良さ、ってのはデカい気がします。



山本夏彦先生が、笠智衆のことを

「なんで、あんな東京コトバをまともにはなせないような奴を…」

とくそみそにけなした文章を読んだことがあるけど、


それはそれで(わたくし夏彦先生ファンですので)おもしろいけど、

でも…

この声はいいよ…


笠智衆の声きいただけで、

我々は小津映画の世界に突き落とされる、わけで……


日守新一の奥さんは坪内美子。

この人も声がかわいい。


「~ですの」


――の「の」がなんか丸く曲線を描いている感じ。

わかります?

わからない??



ひたすら横顔を撮ります。

小津安二郎。


②食

みんなでラーメンを食べます。


おいしそうです。


みんな、丼、手で持ってるが…熱くないのだろうか…









③住


「喜八もの」を撮り始めて以来、

遠ざかっていたモダン東京がふたたび登場します。



日本人の住居のめちゃくちゃぶりが

まーよく描けてます。


火の用心のお札

夜泣きのお札


にまじって、唐紙に貼ってあるのは……



↓ジョーン・クロフォード?? かな??


雑誌の切り抜きでしょうかね?



④全体


ものごとのはじまりはなんでも偉大ですが、

小津安二郎の初トーキーというのもやっぱり偉大です。


「生れてはみたけれど」「浮草物語」

あるいは戦後の紀子ものをみて感じる…

「ああ、完璧」「パーフェクト」「うぷ。もう満腹です」

という感想はないですが、

ディテールはやっぱり小津安二郎です。


ひねくれきっていて、残酷で、冷酷で、キッチュな

小津安っさんです。


親子で映画館に行くシーン…


「おっかさん、これはトーキーっていうんですよ」



↓↓「未完成交響楽」という映画らしい…


これが…どんな映画だか知らんが…


たぶん立派な映画なんだろうけど、

とつぜん抜粋されると……


うるっさい。


「サイレント」への郷愁が無言のうちに語られます。




息子に幻滅したおつねでしたが…

物語の最後。


近所に住む富坊(突貫小僧)が馬に蹴られて大けがをする。

治療代としてなんのためらいもなく大金をさしだす日守新一をみて

息子を見直します。


しかし↓↓

わざわざこんなすさまじい絵を撮る必要はありません。




むろんトーキーですんで、

突貫小僧が、意外にかわいい声をしているとわかる…


突貫小僧の治療を見守る日守新一。


↓これも「オイオイ、いくらなんでも……」という画面です。


やばすぎです、小津安っさん。



最後の最後も「サイレント映画への郷愁」が語られます。


お母さんの飯田蝶子は信州に帰ります。

日守新一は、「おっかさんは僕に満足していないだろうな」

なんて憂鬱そうに坪内美子に語りますが…


部屋の隅に、おっかさんの手紙を見つけます。

手紙は紙幣と一緒に包まれています。


「これで まごに なにかかってやってください 母」



大事なメッセージはやっぱり「字幕」で語る小津安っさんでした。



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