小津安っさん トーキー二作目。
あらすじは……
めんどくさいのでほんとに概略だけ書きますと…
栗島すみ子、斎藤達雄のセックスレス中年カップルが
大阪から遊びに来た姪の節子(桑野通子)に
いろいろ引っ掻き回されて
けっか、お互いのいいところをみつけて
また仲良くなる、というような感じ。
しっかし…33歳の監督が撮るような話かね??
つくづくヘンなヤツ、オヅヤスジロウ。
今と昔の三十代は違うんでしょうが。
以下、例によって衣食住で感想書いていきます。
①衣
「松竹」的にいうと、
つまり製作会社的にいうと、
「大スタア栗島すみ子先生の引退作品!!」
という感じなのでしょう。
今でいうと「吉永小百合主演」みたいな感じか。
にしても……
栗島すみ子ってなにがいいの?????
「日本の恋人」
「日本映画界最初のスーパースター」
らしいのだが。
わからない。
おまけに声がキンキンしていてかわいくない。
この人の主戦場はトーキーじゃなくてサイレントだった、というのは差し引いても……
ただ、おもうのは……
1920年代の「美人」の基準は、歌舞伎の「女形」だったんじゃないのか?
ってことです。
今みたいに、家にいたって、街を歩いたって
いたるところにかわいい女の子がニコニコ微笑んでいる広告媒体に囲まれる…そういう時代ではなかったろうから。
美女というと誰もが歌舞伎の女形を思い浮かべる、んじゃなかったろうか。
(推測)
……にしても、栗島すみ子のかわりに
八雲恵美子とかだったら、とか僕はおもいますよ。
エロくてエロくてしょうがない作品になったとおもいますよ。
さて、
衣、という点では
前作で信州のビンボーお母さんを演じた飯田蝶子が
趣味の悪いブルジョワ奥様を演じていておもしろい。
↓↓桑野通子はかわいい。
この人は声もかわいい。喋り方もかわいい。
「関西弁のかわいい女の子」
というキャラクターは戦後の「彼岸花」の山本富士子にうけつがれるわけです。
ついでにいうと、
「彼岸花」には桑野通子の娘、桑野みゆきが登場するのもおもしろい。
(病んでる、ともいうが)
にしても……
剣を持たせるか? 剣を!
八雲恵美子、田中絹代にピストルを持たせた小津安っさんは
桑野通子に剣を持たせます。
病んでます小津安二郎。
この頃(1937年)は日記が残っていて、
で、安っさん、桑野通子にメロメロだったことがよくわかる。
撮影中は
「大阪の姪の病みおる白き梅」
などと書き、
撮影がおわっても
「久々に桑野に会ふ」
「桑野より中元来る」
という具合。
私は、先生は、桑野通子さんと結婚なさるのかと思ってた。やっぱり芸術のために結婚なさらなかったんですか?
(蛮友社「小津安二郎 人と仕事」158ページより)
というのは高杉早苗。
なんかそういう噂でもあったのかもしれない。
男性ファッションは…
斎藤達雄、大根のくせにおめえはかっこいいな。
英国貴族が、日本の学生の下宿に闖入して来たようです。
佐野周二。
医学部の教授、斎藤達雄の助手、という役です。
この人もかっこよくて、声もいいし、うまい。
(斎藤達雄がいかに大根か、よくわかる……)
戦争がなければ、もっと小津作品に出てた人だろうな。
(小津安二郎と同時期、中国大陸に出征)
ヘンな髪してるが、小津安っさん自身、こんな髪型をしてた。
お父さんと一緒にちょうどこんな髪でうつってる写真があります。
②食
食、は、
斎藤達雄が佐野周二の下宿で、一緒に朝食をとるシーンがあるんですが、
「雨」という異常事態の発生にビビってしまうのは
僕が小津オタクだからでしょうねえ。
いつだって「いいお天気」の小津映画で
雨が降っている。
「淑女は何を忘れたか」
登場人物は同性と一緒の方が落ち着いていられるようです。
一方、
斎藤達雄―栗島すみ子
斎藤達雄―桑野通子
佐野周二―桑野通子
異性と一緒の時はどこかそわそわしています。
もちろん、意図的なんでしょう。
③住
「洋間」にくらべて……
いかに日本建築の空間というのが官能的であるか、よくわかります。
さいごのさいごのシーン。
セックスレスカップルの 斎藤達雄、栗島すみ子
彼等が、なんかいい感じになるんですが……
それを、まーーー
魔法としかいいようのない、
エローい方法で提示します。
このすさまじさ。
分かる人にしか分からんだろうが……
う~ん、このねっとりした「黒」のエロさ……
④全体
いろんな見方が可能な作品だと思います。
「小津が出征前に撮った最後の作品」
という見方もおもしろいです。
あの暗~い「人情紙風船」を撮って戦争に行った山中貞雄が
病死してしまい、
このおバカな「淑女」を撮って戦争に行った小津安っさんが
大ケガすることもなく、また日本に帰ってくる。
おすすめしたいのは(?)
ジョジョ風に…
荒木飛呂彦風にみるやりかたで(?)
斎藤達雄が、桑野通子に
「あんなの一発ひっぱたいてやればいい」
とそそのかされて、
栗島すみ子をひっぱたくシーン……
これの正解は
正しい解釈方法は…
◎桑野通子が スタンド「斎藤達雄」を使って
むかつく栗島すみ子をぶんなぐる
というストーリーなのです。
↓ ドッギャ―――ン! スタンド「斎藤達雄」登場。
↓松竹の大ボス。栗島すみ子
ゴゴゴゴゴゴゴ………
↓かわいい桑野通子と、おばさん栗島すみ子の対決。
ドドドドドドド…………
↓スタンド「斎藤達雄」の右腕が炸裂!
ズガッ!!!
↓敗北する栗島すみ子。
ガ、ガクッ……
小津安っさん。
1937年1月~2月 「淑女は何を忘れたか」を撮りまして
それから金がないカネがない、とボヤキながらゴルフ三昧の日々。
(カネあるじゃねえか…)
あれこれ飲んだり食べたり遊んでいるうちに
9月9日、召集令状がきます。