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「父ありき」(1942)感想 その1

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ご存知のように、小津安っさんの作品歴には

妙なジグザグ運動があります。


超絶傑作を撮ったかとおもうと、

なんかつまらない作品が続く。

そのあとまた超絶傑作。

それからつまらない。

のくりかえし。くりかえし。


具体的にいっちゃえば

◎「晩春」

×「宗方姉妹」

◎「麦秋」

×「お茶漬けの味」

◎「東京物語」

×「早春」

という具合。


人間だれだって調子の良し悪しはあるさ、ということなんでしょうけど。

小津信者の僕はそうはみたくない。

この◎→×のリズムさえも、安っさん意識的にやってた、とみたいところ。


「意識的に」

の例としては、

◎「非常線の女」―×「東京の女」

◎「浮草物語」―×「東京の宿」


このペアが非常に分かりやすい。

安っさんはひとつの様式を完成させると必ずそれを壊したがる。


暗黒街物の傑作「非常線の女」

その撮影中にいそぎもので頼まれて、

けっか「非常線」より先にできちゃった「東京の女」ですが、

これはようするに

田中絹代の悪い女と水久保澄子の良い女、この二人を合体させて

岡田嘉子を作る、という様式上の実験です。


あるいは「東京の宿」、

衣がない、食がない、住がない、というルンペンプロレタリアートの話ですが、

これは「浮草物語」で完成した「衣」「食」「住」の様式を

全部「0」にしたらどうなのか? というこれまた実験作です。


シナリオが悪いとか、役者が悪いとか、安っさん自身乗り気でなかった、とか、

ではなく、

「傑作」のあとはかならず「実験」をやりたがるのが

小津安二郎の作品歴からみてとれる「癖」なわけです。


となると、「△」「3」の傑作、高峰三枝子(3枝子)主演「戸田家の兄妹」を

小津安っさんはどう壊していくのか?

というのが「父ありき」のテーマと言ってよいでしょう。


えー……

これがすさまじい。


主役の名前は誰です?

佐野周二。


うん。佐野周「2」


先に結論をいっちゃえば「父ありき」は「2」をめぐる映画なのです……


□□□□□□□□


オープニングは「2」人。


……です。

笠智衆と津田晴彦の親子の朝の光景。


お母さんはいないんだな、と観客はおもいます。「2」です。




そして出発直前の会話……

お父さんは学校の先生っぽいな、と観客はおもうんですが、


父「円の面積は?」

子「半径の二乗に3.14をかける」

父「円すい形の体積は?」

子「半径の二乗に3.14をかけて高さをかける」

父「…(沈黙)…」

子「それを3で割る」

父「よろしい」


はい。

ポイントはここです。


父「…(沈黙)…」

子「それを3で割る」

父「よろしい」


シナリオ上。

わざわざ「円すい」である必要はどこにもない。

「円柱」でもいいでしょうし、

あるいは直角三角形やら台形の面積やらでもよかったはず。

でも「円すい形」でなくてはならなかった。

それは「3で割る」必要があったからです。


通勤・通学する「2」人。↓↓



おそろしい……


「3で割る」んです。

これが「父ありき」全編をつらぬくテーマであることがだんだんわかってきます。


「3」の映画はもう終わりですよ。

「3」の映画は壊しますよ。

という安っさん流の宣言です。


そして「父」「母」「子」ではない、ということでもあります。

「母」はいませんので。


あくまで「2」


続きまして、

学校の風景。やっぱり笠智衆は学校教師だということがわかる。


黒板にあるのは「戸田家」感想その2 で紹介しました、

○と△の問題。

円に内接する「3」角形の問題です。



ここらでわかってくるのは……


この映画は「3」になりたい「2」の物語なんじゃあるまいか?

ということ。

「3」に憧れる「2」


もちろん「父」「母」「子」に憧れる「父」「子」の物語、でもあります。


以下、箱根への修学旅行のシーンですが……


なぜ?

富士山??↓↓


絵葉書みたいなショットを絶対にやらないはずの男が

あまりといえばあまりの「マウント・フジ」を撮ってしまっている、


戦時下の故か??


とかおもうのですが、これも「△」「3」のイメージだと分かれば納得。



はい。また「3」です。↓↓



この修学旅行で、生徒の一人がボートで転覆し、溺死。

笠智衆は責任を取って教師を辞めることになります。



②上田へ


そして笠智衆は息子を連れて故郷の上田へ帰ります。

(いままでは金沢にいたようです)


にしても息子役の津田晴彦君。

子ども時代の小津安っさんに妙に似ている。


↓「食」テーマです。

おいしそうです。


「2」です。食事中の会話ではじめて

「お母さんのお墓」というコトバが出て来て、


お母さんが亡くなっていることを観客は知ります。

それだけにいっそう「3」でなく「2」が切ないです。




↓凄まじい構図。


城跡にのぼって笠智衆は

「お父さんはこの町に住んでみようとおもうんだ」といいますが、


安っさんは

あくまで「2」を強調したいようです。




笠智衆は知り合いの坊さんのお寺にしばらく厄介になります。


坊さんは西村青児。

「生れてはみたけれど」の先生、とか戦前小津作品の常連です。


んー□がたくさんでてくるなー↓↓

□□□………


□……「4」……

一体なんでしょうね?


二人の会話は……

・笠智衆は役場に勤めている。今日は出生届をたくさん受け取った。ずいぶん子供が生まれる。

・息子が「殺生が好きで困る」(釣りのこと)

・和尚さんがいうには「いやあ、子供は殺生が好きなくらいの方がええ」


「4」は生・死に関係があるのかもしれません。


そうそう「殺生」ということでいえば

「戸田家の兄妹」の佐分利信。

親父の臨終に駆けつけられなかった理由は関西に釣りをしに出かけたからで、

お葬式の席で姉の吉川満子に

「いやあね、こんなときに殺生なんて」といわれます。

ま、わき道にそれました。


あ、ついでにいっておくと□はスクリーンの形でもあります。




釣りシーン。


「父ありき」といえば、これ。というシーン。↓↓


「2」……なんですが、

川、水流=「母」とみると、

「3」


これほどの美しさはやはり、

「3」になりつつある「2」が描かれているからか?


深読みではない理由としては、

川、水流イメージが何度も繰り返されること、

としかいいようがないですが。




↑だが、残酷なことに、

笠智衆は息子に、中学では寄宿舎に入らないといけない、といいます。


「2」が「1」に……

「3」で割る、です。


③父子の別れ。

寄宿舎に慣れた息子ですが、

あるとき父が尋ねて来て……

お父さんは東京へ出て勤めようとおもう、といいます。


例によって、大事な場面では衣食住全てを放り込む安っさんです。

「衣」……息子の替えの服を持ってきた。

「食」……画面上おわかりのとおり食事してます。

「住」……父は東京に暮らすことになる。


息子は常に「2」を指向しているのですが、

父は「たまに2になればいいじゃないか」とおもっているようです。


④東京


小津作品おなじみの円運動がありまして、


白髪交じりで年をとった笠智衆が

東京のビル内のオフィスで働いている様が描かれます。


戦後作品の佐分利信、中村伸郎、など重役連は個室を持っていましたが、

「父ありき」の笠智衆は個室を持っていませんので、

それほど出世したわけじゃなさそうです。


あるとき、金沢の教師時代の同僚、平田先生(坂本武)に会いまして、

で、お宅訪問。


坂本武の娘は、水戸光子。

男臭い映画にようやく若い女性が登場。


「3」人、にガキが1人(坂本武の長男)加わりまして、「4」人という場面。


ガキは「ニュースを見にいく」と言ってすぐ出かけますので

また「3」人。


やっぱりこの家庭も「母」がいないようです。


んー……で、ようやく佐野周二。

佐野周「2」の登場ということで、


その2へ。


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