牝雞(めんどり)です。
タイトルからして深刻ぶっていて
小津安っさんっぽくない。
めんどりで思い出すのは「父ありき」
主人公の寮生活のシーンで、英語の勉強をしていて
「henっていうのは牝雞け?」
なんて会話があった、とか思い出しますが。
あらすじ。
田中絹代と佐野周二の夫婦がいるんですが、
佐野周二は兵隊に行って、
で、どこで捕虜になっているかわかりませんが、
なかなかうちに帰ってこれません。
ただ生存の確認はとれている(?)ようです。
ダンナがいませんので田中絹代の生活はきびしい。
そんな中、息子の浩が病気になり、
入院することに。
お金が必要になった田中絹代は
一晩だけ体を売ってしまう。
そんなことがあってしばらく佐野周二が帰還します。
なごやかな夜を過ごしますが、
田中絹代は体を売ったことを佐野周二に告白してしまいます。
(よしゃいいのに、ウソをいやいいのに)
ま、あとは修羅場です。
有名な階段落ちシーンなどがありますな。
あらすじからして、つっこみどころ満載だというのが
おわかりいただけるかとおもいますが。
ようは「田中絹代ショー」です。これは。
「東京の女」が「岡田嘉子ショー」だったように。
そう考えると、「東京の女」(1933)に
江川宇礼雄のガールフレンド役で絹代たんが出てたことを思い出します。
となると……「ま、まさか。あの映画の絹代たんが、戦後陥った運命を描いた作品なのか!?」
とか妄想したくなります。
となると……
この映画のいろいろと不自然な点も……
・なぜ家財道具一式売り払って金をこしらえずに安易に体を売ったのか?
・なぜ、ああもすんなりとダンナに告白しちゃったのか?
も、「あの時の、江川宇礼雄の自殺のショックで精神を若干病んで……」
とか説明できる気がする。
ごめんなさい。以上妄想でした。
絹代たん、いいな。
アラフォーのはず。ですが。
ん。ただ……
この声聞くと……「え?ミゾグチ??」って感じなんだよな~
ミフネが出てくりゃ「クロサワ」なように、
田中絹代は「溝口健二」なんだよな。
今まで時系列で小津作品みてきまして、
田中絹代を少女時代からさんざんみてきたわけですが、
で、この作品で「あれ?ミゾグチ作品?」と違和感かんじちゃったのは
これがトーキーだからでしょう。
今まで田中絹代のあの「声」をきいてなかったから。
うん。
戦後、田中絹代があんまり使われなくなる理由に
「田中絹代の身体の動きが小津組のリズムになんか合わない」
とかキャメラマンの厚田さんいっているのを読んだことあるが、
それは、この作品みてもそんな感じがするが、
(いまいち、スピード感がない気がする)
それ以上に「ミゾグチ」しちゃってるからだろう。
「オレぁやだよ。溝さんのマネなんかやりたくねえからな」
――と巻き舌でいう安っさんを想像してみる。
「浮草物語」の坪内美子もそうだったが、
安っさん、足の裏、好きね。
ただ、俳優頼み、というのは明らかに「小津調」ではないわけで。
その点、河村黎吉、笠智衆のアクション頼みだった前作に似てる。
明らかに失敗作です。
ま、「田中絹代ショー」なんで、
お金を払って損はしません。
あとあと触れますが、いろいろエロ要素ありますし。
ヨーロッパあたり持っていけば、案外ウケるかもしれんですよ、これは。
↓↓こういうローキーの露出なんか小津作品には珍しい気が。
フランス野郎とかが喜びそうだわな。
毎度のことで。
衣食住みていきます。
①衣
というと、村田知英子が強烈。
(田中絹代の親友、といった役どころ)
田中絹代の小作りに対して、なんか大柄な存在感もおもしろいが、
ファッションもなんか……
ビンボーという役のはずなんだが、なんか派手。
小津らしく、品がある派手。
↓↓このくしゅくしゅっとした白ソックスとか
最近の流行りみたいだわな。
ま。なんにせよ、売春しなきゃ入院費払えないような…
そんな貧乏人にはみえない、と
そのあたりは「小津ごのみ」の中野翠先生のおっしゃるとおり。
ちなみに
中野先生の「風の中の牝雞」批評は女のひとらしい感想でおもしろいです。
②食
食は人と人とを結びつけます。
なので破たんした関係の、田中絹代、佐野周二カップルは
一緒に食事をしません。
そのかわり、といっちゃなんですが、
佐野周二、田中絹代が一晩体を売ったその店で会った女の子と
外で食事をします。
パン? なのかなんかよくわからん食べ物ですが。
③住
建築としては……
例のガスタンクがいよいよ間近で撮影されまして、
たまらんものがあります。
安っさん、もし長生きして
ノーマン・フォスターのハイテク建築(香港上海銀行とか)みたら
けっこう喜んだかも??
1948年、闇市の時代なのに……ハイテク。
SFっぽい安っさんです。
このあたり、やっぱりただならぬ不気味さがあります。
失敗作でも、やるな、とおもわせます。
いつ頃壊されちゃったのでしょう?
この建物は?
戦地から戻った佐野周二は、笠智衆のやっている出版社だか新聞社だかに行って、
復職するんですが、
(このあたりもシナリオがヘンなところで、ダンナもダンナで帰ってきちんと職がある、そういう地位の人なのだから、田中絹代はあんなことをする必要は一切ないはずなのだ……支払待ってもらうくらいできただろうに。あるいは笠智衆にカネ借りる、とか、さ)
なんか異様な建築です。
安っさん大好きな □ □ □
手前の「円すい」はこれまた大好きな通風口。
なんですが……
時系列でみたわたくしには……
どうしても「父ありき」の記憶があって、
ヘンな感じ。↓↓
同年代という設定には急にはついていけぬ。
佐野周二は笠智衆に奥さんの売春の事を告白しますから、
無二の親友といった間柄なんでしょう。
けれど。6年前の作品で
「お父さん、僕はお父さんと離れて暮らすのが…」とかいってたんだぜ。
④全体
修羅場シーンはエッ○です。
エロいです。
それがこの作品のすべて、でしょう。
佐野周二のキャラクターは
がつんと女を殴っちゃうようなタイプではないので、
悩み事を内側に貯めこむタイプですので
(そのあたりも「東京の女」自殺する江川宇礼雄そっくり)
その点も
修羅場シーンがねっとりしてエロい一因でしょう。
んー「非常線の女」(1933)の背中のあいたドレスを思い出します。↓↓
1933年と1948年
たった15年で繁栄のモダン東京が崩壊します。
おお。
お次は「晩春」じゃないですか。
原節子が出現してしまいます。