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小津安二郎「麦秋」のすべて その2

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前回は

・実くん=小津安二郎

なる等式をみごとに証明(?)したわけですが……


今回と次回、とで、


・勇ちゃん=観客


なる等式を証明していきたいとおもいます。


――と、

おもうのですが、

はじめからいっておきますと、

これはなんというか……人様に説明するのが難しい。


・実=小津安二郎

だと「レール」&「パン」というわかりやすいコトバがあったので

説明しやすかったのですが、


・勇ちゃん=観客

は、なんというか、コトバではない、映画のリズムに関わってくる問題なので……


ま、いいや、

やっていきます。

とにかく、

間宮家の次男、間宮勇は、画面を見つめているわれわれ観客なのです。(断言)


□□□□□□□□


見ていきたいのは「麦秋」のオープニング。

S3「間宮家の二階」からS14まで

ここは勇ちゃんが中心になりますので、

(家族のほぼ全員がグズな勇ちゃんを気にかけている)

「勇ちゃんシーン」と名付けることにしましょう。


「晩春」は当ブログの

『「晩春」のすべて その2』

例の白ソックスシーンから

カット、カット、カット、のカットしまくり映像で

エンジン全開トップギアに叩きこんでいったのですが――


「麦秋」はオープニングの勇ちゃんシーンからエンジン全開です。

カットカットカットの「つながったお沢庵」が堪能できます。


「晩春」の白ソックスシーン(S32~S37)

が、5分47秒を、28ショットで構成していたのに対し、


「麦秋」の勇ちゃんシーンは

5分12秒を25ショットで構成します。

1ショット平均12.48秒。


「晩春」の白ソックスシーンが1ショット平均12.39秒でしたので

非常に似通った数値です。

ここらへん、意識的であったのか、小津安っさん。


ヴィム・ヴェンダース「東京画」より……↓↓


小津安二郎愛用の特注ストップウォッチ。

手はカメラマンの厚田雄春さん。

外周の赤い数字がコマ数をあらわす、とか。

なんかこういうのをみると意識的であった、としかおもえない。



えー例によって平面図に

カメラ位置を書きこみました。


あくまで推定、です。







白ソックスシーンのカメラ位置はA~Mの13箇所に対し、

今回みていく

勇ちゃんシーンのカメラ位置はA~Pの16箇所です。


「晩春」では中盤、月丘夢路のアヤちゃんが登場するまで

2階はあきらかにならなかったのですが、

「麦秋」ではオープニングから2階が登場します。


以下、ショット1からみていきましょう。


□□□□□□□□


・ショット1(カメラ位置A)

シナリオのS3

カナリアの鳥かごがたくさんあります。


鳥かごに関しては……

厚田雄春が小津安っさんの深川の実家を語っている証言――


小津さんの部屋は二階なんですが、長い廊下があって、庭の方にまわると、お父様が飼っておられた十姉妹やカナリアが幾つかの籠に入って並んでいて、鑑賞会に出すような見事なランチュウもいましたね。

(筑摩書房「小津安二郎物語」18ページより)


カナリアの鳥かごというのは

小津安二郎自身の懐かしい風景であったようです。

深川の小津家は、たぶん、

間宮家より数倍デカい豪邸だったでしょうが。


ちなみに左隅に見える部屋↓↓は、



作品中で一度も人物が立ち入らない謎の部屋です。

どうも東山千栄子がお化粧したりする鏡台かとおもわれますが……

(鏡、ですよね。ちなみに紀子の部屋は南側です。平面図のCのあたり)


謎です。

(淡島千景のアヤちゃんが遊びに来るシーンでも垣間見える)


・ショット2(カメラ位置B)


菅井一郎がカナリアのエサを作っています。


・ショット3(カメラ位置C)


前回ご紹介したショット。

実くんがおじいちゃんを呼びに来ます。


左手に階段があります。

実くんの背中側が紀ちゃんの部屋。


・ショット4(カメラ位置D)


シナリオのS4

カメラが一階におりてきます。

廊下から台所をまっすぐ狙う 「これぞ小津映画」というショット。



・ショット5(カメラ位置E)


シナリオのS5

廊下から茶の間を狙います。

うしろでネクタイを締めているのは笠智衆。


例によってヒロイン……原節ちゃんの横顔を狙う小津安っさんです。


原節ちゃん、実くん、

二人で勇ちゃんを呼びます。


・ショット6(カメラ位置F)


廊下から子供部屋を狙います。

勇ちゃんの登場。


・ショット7(カメラ位置G)


「ショット5」のドンデンを返したわけです。


紀子「勇ちゃん、お顔洗った?」

勇「洗ったよ」(と茶碗を出す)

紀子「駄目々々! ゆうべの卵、まだお口のまわりについてる」

勇、恨めしそうに立ってゆく。


・ショット8(カメラ位置D)


ふたたび台所を狙うカメラ位置。

シナリオのS6



・ショット9(カメラ位置H)


「晩春」ではたった1回しか登場しなかった洗面所ですが、

「麦秋」は数回登場機会があります。

シナリオのS7


・ショット10(カメラ位置I)


構図は、カメラ位置Eに良く似ていますが、

ちょっと下がった場所から撮っているようです。


「晩春」ではこういう事をやらなかったような気がする。


シナリオのS8

勇、戻って来る。

紀子「もう洗って来たの?」


・ショット11(カメラ位置J)


勇ちゃんのアップ。

勇「洗ったよ、嘘だと思ったらタオル濡れてるよ」


・ショット12(カメラ位置K)


原節子のアップ。


「ホントかなあ」といいますが、どういうわけかシナリオには記載がない。


・ショット13(カメラ位置I)


周吉(菅井一郎)が一階におりてきます。

画面内の人物は5人。

「晩春」の白ソックスシーンがたった2人だったのに対し、

とにかく多人数がぞろぞろ動き回る「麦秋」です。

・ショット14(カメラ位置L)


周吉「早いんだね、今朝は」


・ショット15(カメラ位置M)

康一「ええ、ちょっと気になる患者があるもんですから」


ようやく笠智衆が喋る。

彼の職業が医師だとわかります。


ちなみに……

このシーンでもそうですが、

「麦秋」全体を通して笠智衆は子供に接触しようとしない。


S57で、勇ちゃんをシッシッと追い払い、

S88で、実くんを殴る。


たぶん、それくらいのものです。

これは小津安っさんの作品歴からみると異常事態で……


「青春の夢いまいづこ」「出来ごころ」「浮草物語」「父ありき」と……

ものすごくべたべたした

父―息子を見せられてきただけに、

アレッという感じもします。

とくに「父ありき」は恋人同士か???

というくらいのベタベタであっただけに。


というか、この「間宮康一」は

笠智衆の演じるキャラとしては例外的に

どこか利己的で自分中心な人物に描かれています。


といって彼には彼なりの思いやりもあるのですが……


ま、暴君実くんはいかにもこの男の血を受け継いでいる感じがしますなーー


・ショット16(カメラ位置I)

このショットは長い。


笠智衆が支度をおわって、で、行ってまいりますと父親にいって玄関へ。


紀子「お兄さん、いそがないとあと七分よ」

といいますので↓↓


原節ちゃんの目線の先には時計があるらしい。

けっきょく写ることはありませんが。


・ショット17(カメラ位置F)


シナリオのS9


笠智衆が出かけます。


「勇ちゃんシーン」家族全員が勇ちゃんにかまうのですが、

(声をかけたり、頭をなでたり)

笠智衆だけは勇ちゃん無視でいなくなります。


・ショット18(カメラ位置I)


5人。
康一(笠智衆)、実くん、がいなくなり、

かわりに三宅邦子、東山千栄子が加わります。


なんか5人以上にはしない、みたいな規則でもあるのか?

ここも長いショット。カメラ位置Iは長いショットばかり。


……とかいって他の監督からすればバカに短いですが。


個人的なことを書きますと、

タルコフスキー「鏡」を最近みまして、


あまりに長いショット……1分2分は当たり前に続く……

に「これは人間業かっ!」と驚愕したりしました……

あと、カメラが動く動く!!しかも滑らか……


あれに比べちゃうと、小津安っさんのトラッキングショットは

どシロート……


ついでのついでに書きますと、

タルコフスキー「鏡」

坊主頭のガキが二人出て来て画面中をちょろちょろ動き回る、

という点では「麦秋」にちょいと似ているような。


タルコフスキー、もしや「麦秋」ファンか??

小津の存在は100パー確実に知っていただろうが。


以下4枚。タルコフスキー「鏡」↓↓


子どもがドアを開けようとするが開かない。

あきらめて行ってしまうと……


どうした拍子か、ドアが開いて

(犬が押したのか)


お母さんがあらわれる。(マルガリータ・テレホワ……綺麗)

意外なところから意外な人が出現……


ワンショットでやってますが、

なんかロシア家屋で「小津」やってみました、

という印象を受けるのだが……

(そういやカメラ位置もローポジ……)


じゃがいもの皮むき=リンゴの皮むき……

まさか??……



たぶん僕が小津中毒なせいでしょうねーー??……



もとい、

・ショット19(カメラ位置D)


例の「不在の階段」を原節ちゃんがのぼっていきます。


・ショット20(カメラ位置N)


一番奥、南向きの部屋が原節ちゃんの部屋らしいです。

(作品中、けっきょく明らかにされない)


ただ、こうしてみると、二部屋を独占している気がする。

読書はこの部屋でするっぽい。


シナリオS11では

「紀子、来ると、化粧を直し、出勤の支度をして、書類鞄に岩波文庫などを入れて出てゆく」


このショット、原節ちゃんの背中側はたぶん物干し。


・ショット21(カメラ位置D)


そうそうカメラ位置Dからはラジオが見えますな。(右上)

曾宮家のラジオより新しいタイプのようにみえます。

(次作「お茶漬けの味」の佐竹家になると、女中さんのいる金持ちのせいか、やけにモダンで高そうなラジオなんである)


・ショット22(カメラ位置O)


ショット7の「カメラ位置G」より

やや後ろにさがった位置、だとおもわれます。


紀子「行ってまいります」

史子「行ってらっしゃい」


50年代のOLさんは白手袋をするのである。かっこいい……


・ショット23(カメラ位置F)


三宅邦子がお父さまの原稿を原節ちゃんに渡します。


このショット23で……


「主役」の勇ちゃん、子供部屋に戻って行きます。


原節ちゃんが実くんにはやくしなさい、といい、

三宅邦子が原稿を原節ちゃんにわたし、

三宅邦子が実くんにはやくしなさい、といい、

勇ちゃんが子供部屋に戻ってくる。


と、ひじょうに忙しいショットです。


・ショット24(カメラ位置O)


実くんが「行ってまいりまアす」と叫びます。


・ショット25(カメラ位置P)


「行ってまいりまアす!」

とまた実くんが叫び、戸が閉まります。


こういう位置から引き戸を狙う、というのは

「晩春」ではまったくなかったので、新鮮。

で、
閉まったかとおもうと

轟音が鳴り響き……

S15「驀進する電車の側面」

「戸塚、保土ヶ谷の間あたり」――。


というように、ですね、

オープニングからがんがん飛ばしているわけです、はい。


大人数のキャストを動かしまくり、

カメラ位置も動かしまくり、

カットしまくり、

小津節全開、なわけです。


はい。

ただ……


・勇ちゃん=観客


は、全く証明できていない気が。


はい、今回は証明の準備、ということで。

次回、がんばりたいとおもいます。



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