えー…… その1~その3で、
みごと(?)
・間宮実=小津安二郎
・間宮勇=観客
なる等式を証明しました――『「麦秋」のすべて』
わっはっは。
ざまーみろ、小津安っさん。暗号なんか隠してもムダだからね。
えー……
……その4からは、シナリオ順に「麦秋」を解剖していこうとおもいます。
と、ここで、わたくし、3年前にも
当ブログで「麦秋」の感想を書いていたことを思い出しました。
(2012年3月3日 テーマ「小津安二郎」でまとまってますので、興味ある方どうぞ)
その時の結論は――
・「麦秋」とは
「かくれんぼとは一体なにか?」
という映画である。
というもので……
なかなか鋭いことを書いていたなー とおもいます。
たしかに
・S61(襖が開いて笠智衆が姿をみせる)
・S81(実からショートケーキを隠す)
・S133(紀子が帰宅すると、家族が三宅邦子だけ残していなくなる)
等々かくれんぼは多い。
だが、これは「麦秋」の「円運動」……
勇ちゃんが道具……触媒になって巻き起こしてくれる「円運動」を、
見誤っていたのではないかとおもいます。
それに
・間宮実=小津安二郎
・間宮勇=観客
この等式を考えると、ちと浅い結論のような気がする。
今の結論はこうです。
・「麦秋」とは
「映画とは一体なにか?」
という映画である。
――です。
ヒッチコック「裏窓」がやはり
「映画とは一体なんであるのか?」
であったのと同様です。
巨匠、ってやつは一度はこういうことをやりたがるものらしいですな。
実&勇……
「小津安二郎」その人がいて、
「観客」もいる。
そして↑↑
S132 原節子と淡島千景が真鍋さんをのぞこうとするショット。
これはヒロインたちがレンズの向こう側に隠れている
「何者か」――を、
暴きだそうとしている。
そして
カメラはひたすら逃げようとしている。
そんな……あまりといえばあまりな違法行為なのです。
映画の世界に、これ以上の「暴力」というのは……ありません。
これ以上ないほど美しい笑顔を見せながら
原節子&淡島千景は
日本映画史上最悪の暴力行為を行っているわけです。
□□□□□□□□
ま、ともかく最初から解剖していきます。
繰り返しますが、「麦秋」は「○」の映画です。
円運動。
そして数字の「8」が支配する映画です。
以下、何度も何度も「○」と「8」を指摘していくとおもいます。
けっ、しつけーな……
とおもうほど繰り返すとおもいます。
覚悟してくださいませ。
S5
間宮家の茶の間。
例の勇ちゃんシーンです。
紀子=原節ちゃんの登場。
おもしろいのは……「晩春」の登場シーンと真逆なことです。
この冴えない登場シーンをみよ……↓↓
対する
「晩春」S4↓↓ ジャジャーン!
「日本の美」!!
円覚寺でのお茶会で、エレガントに登場した
東大教授のお嬢様、曾宮紀子でしたが、
間宮紀子は、ごはんを食べながらフガフガセリフをいいます。
もう最悪です。
「ありがとう」
「勇ちゃん」
ごはん食べながら、です。
ようするに
間宮紀子は、アンチ「曾宮紀子」として出現するわけです。
・職業婦人であり、
・両親が健在で、
・結婚相手は自分で決める。
あと、お着物は着ない、とかもアンチ「曾宮紀子」してます。
ファザコンじゃないし。
あと、足裏をみせない、というのもアンチ曾宮紀子です。
なぜか? スカートでワサッと隠したりして、間宮紀子は足裏を隠します。
(S113 杉村春子が「アンパン」と口走るあの名シーンとか、そうです)
なんなんでしょうね?
S6
原節ちゃんにいわれて
いやいや顔を洗いに行く勇ちゃんが
台所の前の廊下を通りかかる。
んー……
「○」……
ただ、
「晩春」の「△」とちがって、
「○」は意図的なのか? たまたまなのか?
ひじょうにわかりにくい。
極端なことを言うと、人間の瞳は「○」だし
ワイシャツ、ブラウスのボタンも「○」なのです。
実&勇の坊主頭は「○」だし
そうおもいはじめると……
三宅邦子も東山千栄子もなんだか丸まっこい体型の人たちだし……
S7
↑ただこれは意図的だとおもう。
安っさん大好きな「時計」もあるし。
勇ちゃんの「0」(ゼロ)行動もあるし。
(顔は洗わず、タオルを濡らすだけ)
S10
そして東山千栄子が鍋の蓋をみせつける、というのも前回触れました。「○」
あとテーブルのまわりを家族が囲む……「○」
S17
北鎌倉駅にて。
原節ちゃん&二本柳寛
ご覧になった方ならわかるでしょうが、
将来結びつく、という設定の二人とは
とてもおもえぬ淡々とした描写。
注意していただきたいのは……
謙吉「アア、そうなんです。僕アゆうべ帰ったら11時だった。」
このセリフ。
「麦秋」前半は「時間」に関するセリフ。行動がメチャクチャ多いということ。
・S8
紀子「お兄さん、いそがないとあと7分よ」
・S12
紀子「じゃお姉さん、5時半――」
そして実&勇は。家族に「はやくしろ」とせっつかれる。
以降も時間時間時間、です。
S21
原節ちゃんの勤務先。
丸の内のオフィス……
○の内……
アヤちゃん、淡島千景登場。
「晩春」の月丘夢路もそうだったけど、
アヤ役は宝塚出身女優が勤めます。
そしてオフィスの壁には――
2012年の記事でも触れましたが……
IT'S HERE STRATOCRUISER
ボーイング377ストラトクルーザーのポスター……
これね、B29爆撃機の翼を使って作った旅客機なんです。
つい数年前、日本全土を焼き払った爆撃機が、
あこがれの旅客機になっている、という。
これも一種の「○」ですかね??
奇妙な円環運動、ということで。
次作「お茶漬けの味」、佐分利信がウルグアイ出張に使うのは
たぶん、このストラトクルーザーです。
原節ちゃんの上司役は佐野周二……
佐竹宗太郎、というのだが、
「晩春」で曾宮紀子が結婚するのは、クーちゃん、こと
佐竹熊太郎、でした。
会話に……ルナ→月→○、が登場するというのは触れました。
あと時間に関する話題もあります……
というか、ここはすごい……シナリオ書きの熟練の技……
紀子「どちらへ?」
佐竹「ホテル――。ロバートさんから電話があったら、2時までに伺うって……」
紀子「はい」
アヤ「専務さん、あたしもそこまで乗せてって」
佐竹「違うよ、方向が」
アヤ「いいの、ホテルから廻ってもらう」
「2時」「廻ってもらう」
時間と回転運動の合わせ技です。
モノ作りってのはここまで突き詰めないとダメなのです。
S23
多喜川……
小料理屋の名前は「多喜川」に決まっています。
ただ、「晩春」の多喜川より大きな店のようです。
まさか、改装したのか?
S25
多喜川の店内。
おなじみの視線がかみあわない会話。
これに関しては、いろいろ批判されていて、
それに対して、小津安二郎自身、色々反論しているわけですけど……
前回見たように、
小津安っさんの「戸田家の兄妹」以降の作品というのは、
・神話、おとぎ話
・社会問題
といった観客にわかりやすい要素を捨てたところにあるわけです。
映画本来のリズムとかテンポとか運動とかで勝負しよう、という作品。
はっきりいっちゃえば観客にサービスしない作品、なわけです。
じつはサービス満点なんだけど、
それが「△」とか「○」とか非常にわかりにくい作品。
この視線のかみあわなさは……
この孤高の作品スタイルに、ぴったりあってる、気がする。
しかし、
「あのなー、社会問題扱ってたサイレント時代から視線かみあってねぇじゃねーか!!」
といわれると身もふたもないのですが……
このシーンの主役は、三宅邦子ですかね~
いい女優さんだな~
家庭の主婦がひさしぶりの外食ではしゃいでいる感がすごい。
笠智衆にしろ、原節子にしろ、勤めに出てますから
外食はふつーのことなわけですけど。
三宅邦子はそうじゃない。
あと……
三宅邦子、小津作品三作品目ですけど。
「戸田家」では高峰三枝子たちをいじめる兄嫁
「晩春」は原節ちゃんに睨まれる三輪さん
と、憎まれる役ばっかでしたので、いい人役ははじめて。
えーあいかわらず、時間時間時間です。
原節ちゃんが時計をみて、笠智衆も時計をみます。
この食事のあと、東京駅へ、大和のおじいさまを迎えにいくのです。
紀子(時計をみて)「お兄さん、銀座歩くんだったら、、もうそろそろご飯にしないと……」
康一「そうか(と自分も時計を見て)……9時45分だったね。まだ大丈夫だね」
あ。そうそう原節ちゃん、また足裏なし、です。
S30
左から
菅井一郎、高堂国典、原節子。
大和のおじいさま……
茂吉(聞こえたのかどうか)「ウーム……嫁にゆこじゃなし婿取ろじゃなし、鯛の浜焼き食おじゃなし……ハハハハハ」
などといいます。
やっぱり小津作品の中では
「結婚」と「食う」行為が結びついている……
あと「鯛」というと……
「東京物語」S96 笠智衆と服部さん(十朱久雄)との会話で……
服部「アア、花時がすむと、うまい鯛が安うなって……東京へ来てからは鯛もサッパリ食えましぇんわ」
というのがあり、どこか楽園(尾道)のイメージと結びついています。
あと「服部さん」という名前も気になるが……(もちろん「晩春」)
きりがないのでやめておこう。
S35
長谷の大仏。
「朗らかに歩め」「父ありき」……
あとなんかありましたっけ??
「○」です。
白ソックスにサンダル、というスタイルの原節ちゃん。
それから
大和のおじいさまの歌舞伎見物のシーンがあって、
S40
その中継をラジオできいている美女二人。
こういう歌舞伎の中継とかってふつうにあったことなのだろうか??
あったんでしょうねぇ。
「東京物語」では中村伸郎がきいてたりする。
アヤちゃんの実家は
築地の料亭「田むら」という設定。
同級生の高子というのが、旦那とケンカして逃げて来ている。
このあたりもシナリオの妙技にうっとりしてしまいます。
アヤ「円満すぎたのよ、ねえ」
高子「何が?」
アヤ「あんたンとこ」
高子「円満なもんか!」
高子「しゃくにさわったから毎日ニンジンばっかり食べさせてやった……」
紀子「犬、ニンジンきらい?」
高子「犬じゃないわよ、うちによ」
円満→円→○
あと、「結婚」と「食べる」……
あと、ですねー……
このセットはなんか……
くさい。とおもっていたのですが……
なにか隠してる……
「○」が8個。
深読みしすぎなのだろうか……
ただこの直後、専務からの縁談が登場することを考えると……
アヤ「なアに?」
紀子「――(時計を見て)まだ大丈夫ね」
と、またまた時計、時間が出て来て……
専務のいる二階へ。
S42
「ナベ」こと「真鍋さん」との縁談がもちだされます。
というか、この「S」マークが気になるんですが……
えー、またまた時計、時間。
紀子(笑いながら時計を見て)「あたし……」
佐竹「なんだい?」
紀子「ちょいと人を迎えに行かなきゃなりませんから……」
と、ここで真鍋さんの写真がチラッと……
個人的にはこの写真……
小津安二郎その人の写真であって欲しいとおもっているのですが。
ゴルフ好きだしね。
それくらいのイタズラはやりかねないよ。
小津安二郎、原節子と結婚か??
なんて騒がれていたのはこの頃でしょう。
まったくなぁーーんにもなかったのが真相のようですが。
S46
台所。なんとも美しいショット
紀子「ねえお姉さん、今日専務からお嫁にいかないかって言われちゃったの」
史子「そう。大和のおじいさまにもあンのよ、そんなお話」
紀子「あ、そう。急に売れっ子だな、凄いな」
という名台詞がありますが、
注目したいのはボーンボーンと時計の鐘がなること。
夜の11時です。
時間、時計。
で、その翌日。
S48
康一、笠智衆の勤める病院ですが……
ちょうど二本柳寛(顕微鏡をのぞいている)の真上に時計。
じつにおそろしいのは……
あんなに時計、時間ばっかりだった「麦秋」前半。
このショットをさいごに時計、時間に言及されなくなること。
映像にもあらわれません。
その最後の最後のショット、
奇しくも、紀子の将来のお婿さんが写っているという……
「奇しくも」じゃなく、計算されつくしています……
S55
で、アヤちゃんのお母さん(高橋とよ)から専務の縁談をきかされた笠智衆。
三宅邦子にきかせるのですが……
ここで勇ちゃんが円運動をしながら登場するというのは、
(○です)
「勇ちゃん=観客」説を裏付けているような気がします。
観客が、「お、やっぱし紀子の縁談か」
と身を乗り出すところだからです。
ようするに「麦秋」の全体の構造は……
・前半、勇ちゃんの引き起こした円運動(○)でひっぱり
(時計、時間の話題が異様に多いのもそのためです)
・後半、おなじみ紀子の縁談でひっぱる。
というもの。
ですので、勇ちゃんがシッシッと追い払われてしまうのは……
「もう、お前の円運動はおわりだよ。あっち行け」
といっているのかもしれません。
そしてかわりにあらわれるのが兄、実くんの「レール」だったりするのは
興味深いです。
S58
ただし○は登場しつづけまして……
康一「紀子に縁談があるんですがね」
周吉「ああ、そうかい」
康一「なかなかよさそうなんですよ」
周吉「そう。そりゃいいね。――もうやらないといけないよ」
と見事に空虚な会話。
なにが「そりゃいいね」だかさっぱりわからない。
いえ……批判しているんじゃなく、
幸せな家庭の会話、ってこんなもんです。
「○」です。
S60
銀座の喫茶店。
同級生チャア子の結婚式の帰り。
天井に○……
あと壁画のおっぱいが○……
おもしろい、というか、皮肉なのは……
既婚者二人はおっぱいの真下にいて、
独身の二人はレンガに囲まれている。という点……
えー……
ちょいと長くなりそうなので、ここらへんで終わります。
その5につづく。