感想 その2
ノンちゃん(高橋貞二)の職場はガソリンスタンドであるらしい。
なんかオサレなショット。
小津安っさん、ブリヂストンが相当お気に入りらしい。
「東京物語」の原節ちゃんの職場にも
ブリヂストンのポスターとタイヤがあった。
まー ○ が撮りたいんでしょうねえ。
池部良、重病の「三浦」をお見舞いに行く予定でしたが、
岸恵子たんから電話がきて、急遽とりやめ。
男同士の友情より女の子をとったわけです。
初期作品から一貫して「男の友情」を描いてきた小津安っさんにとって、
これは許しがたい行為でしょう。
池部良の「杉山正二」というキャラ、
ひょっとして、小津安二郎の考える「一番イヤなヤツ」なのかもしれない??
ただ――「ショウジ」という
「戸田家」以来の男性主人公の
由緒正しい名前を引き継いでいるわけですが。
で。その夜。
岸恵子と池部良のキスシーン。
これが「ゼンマイ」「ぐるぐる」だということは
『「東京物語」のすべて その1』で触れました。
しっかし、
岸恵子のスピード感とキビキビした動き……
いい役者ですなーー
が、いいところで邪魔が入る。
チューするはずみでブザーを押しちゃったというオチ。
初期サイレントの「朗らかに歩め」で、セクハラされた川崎弘子が
ブザーを押して難をのがれる、というのがあったっけ。
あと、ブザーというと、
「戸田家の兄妹」で三宅邦子の若奥様がブーブーやるのがおもしろかった。
で、なるようになっちゃって――
翌朝。
なんですが、なんつーか「淫靡」な雰囲気はなくて、
あくまで「小津調」なのね↓↓
「早春」がいまいちウケなかったのはこういうところもあるのかもしれない……
などと考えたりします……
ようは、
「小津には戦後の風俗は描けない」というような批判ですけど……
60年近く経ってしまった今から見ると
すごーく新鮮な気がする。
まーこれは人それぞれでしょうが。
ようはテレビドラマだのなんだので、
ポルノまがいの猥雑な画面にもう飽きてしまっているわけです、
わたくしなんぞは。
はい。時計の「ゼンマイ」を巻きます。
もちろん自動巻きじゃないわけです。
セリフは
「支度しようか。そろそろ時間だ」
「時間」という小津作品最大のキーワード。
いいですねーー
はずみでヤッちゃった二人が、翌朝なんかよそよそしい雰囲気、
というのがよくでてる……
スチル写真で、
二人が肩を並べているショットとかありますけど、
(DVDのカバーに使われてたりする)
実際の映画は一切イチャイチャしてません。
でも逆にそれがエロくもある。わくわく。
「早春」がつまらん、というヤツはガキだな、ガキ。
また、瞳にキャッチライト↓↓
このテクニック。「早春」以前にあったかな??
今まであんまり注目してませんでした。
そもそもいつ頃からあるんだろ??
邦画でいうと、クロサワの「赤ひげ」
二木てるみちゃんの瞳にライトをあてるというのが印象深いんですが……
まー「ブレードランナー」のオレンジ色の瞳、
なんてやつもありますが……
かっこいい構図↓↓
池部良は靴下をはいています。
お気に入りの「靴下はき」という行為。
あと、「鏡」という文学的な小道具。
なにもかも完璧なショット。
――なのだが、「一泊いくらなのか?」
「宿泊費はやっぱり池部良が払うのか? カネなさそうだが」
等々、余計な心配をしてしまう……
また瞳にライト。↓↓
静止画にすると若干不気味ですが。
表情がくるくる変わる。
あーあ、もう何作か、小津作品に出てほしかった。岸恵子。
一方その頃。蒲田。
「振り子時計」のショット。
浦辺粂子がタバコを吸う姿が妙に粋です。
淡島千景との会話は、競馬だか競輪だかのはなし。
ちなみにウィキペディアで「浦辺粂子」を調べると、
小津安二郎に教わって競輪をはじめて、以来ハマったとかいうことが
書いてあります。
「全日記小津安二郎」には競輪の話がちょこちょこ出てきます。
あーあとそうだ。
「麦秋」のアヤちゃん(もちろん淡島千景)のセリフ。
S60
「――幸福なんて何さ! 単なる楽しい予想じゃないの! 競馬に行く前の晩みたいなもんよ。明日はこれとこれ買って、大穴が出たら何買おうなんてひとりでワクワクしてるようなもんよ」
これも思い出したいところです。
池部良が、帰ってきて、奥さんの淡島千景に言い訳。
病気の三浦のとこに寄って……とか、いってる。
「国からおっかさんきててさ、泣かれちゃってさ」
「泣かれちゃって」が、ううう……
いいなー、うらやましいなー、というところ。
で、
田中春雄がミルクスタンドへ。
会話は、最近、スギ(池部良)と金魚(岸恵子)がアヤシイ……
というもの。
しっかし、日本酒か焼酎しか飲まなそうな
田中春雄がミルクスタンドというのが、いい。
あと……「ミルクスタンド」という響きがいい。
たまに都内とかで見かけますが。
「早春」の杉村春子はチョイ役です。
あんまし目立たない。浦辺粂子の方が目立ってるな。
自分の亭主(宮口精二)が昔、女を囲っていたといって
淡島千景の不安をあおる、という、役。
はい。また瞳が光ります。
光らせるのは片目だけですね。
淡島千景にしろ、岸恵子にしろ。
しかし。
宮口精二、そんな…女囲うほどの甲斐性があるのかしら??
どうも借家住まいっぽいしね?
と観客は思います。
かつお節をガリガリやっているところ。
こういう単純な動き、好きねー、小津安っさん。
で、兵隊の会のシーン。
ここは加東大介も池部良も、
もちろん、監督の小津安っさんも戦場に行って帰ってきた人なので、
妙な凄みがある。
「戦争未亡人」という「東京物語」以来のモチーフが登場。
ですが、この会で語られるのは、
彼らの戦死した仲間の奥さんが、
御徒町の煮豆屋の後妻にいって、元気そうだった、というもの。
「あいつも浮かばれねえな」と一同がっかりします。
「戦争未亡人は再婚するな」といわんばかりの男性中心主義。
男連中の気持ちはわかりますが……
彼女には彼女の生活というものがあるでしょう。
もちろん、
小津安っさんは、この兵隊たちのだらしなさを容赦なく描いて、
彼らの「男性中心主義」を相対化することを忘れません。
フェミニズム的に見ても、当時としては大したものなんじゃなかろうか。
で、
池部良、そのあと、
酔っぱらった加東大介と三井弘次を家に連れてきます。
「勝手についてきた」とかいいますが、アヤシイもんです。
このシーンは、
淡島千景がおそろしいほどキレイです。
酔っ払い二人と淡島千景。
ここもいいな。
なんとなく険悪な雰囲気の夫婦の家庭に、
酔っ払い二人がまぎれこんで……という……
で、重要なやりとりがあります。
「ねえ、明日どうするの?」
「なんだい」
「坊やの命日よ」
「ああ、そうか」
池部良が、息子の命日を忘れていて
淡島千景はそんな彼に完全に愛想をつかす、という……
翌朝、
「どこで会う?」
「だって時間わかんないでしょ」
時間、時間、時間、できっちりなにもかも進んでいた「麦秋」に対し、
「早春」では、もう「時間わかんない」という状態になってしまっている。
高橋貞二も「がっかり」=「ゼンマイ」を経験しています。
奥さんの妊娠です。
「だってないんだもん。もうあってもいいのに」
「そんなはずねえのにな」
一方、浦辺粂子のおでん屋さんでは
菅原通済が小津作品初登場。
淡島千景が
「あんなのが兵隊だから日本敗けたのよ」
と痛烈なことをいって、
男性中心主義をやっつけます。
で、例のミルクスタンドでは男どもが
査問会を開こう、と悪い相談をしています。
アヤシイ仲の スギと金魚をいじめてやろうという算段です。
その3につづく。