で、翌朝
起きてみると奥さんがいない。
振り子時計、ちゃぶ台、明治乳業の箱、一升瓶……
会社にちょっと遅刻。
すると、「おい、三浦死んだぞ」と知らされる。
朝起きて、会社へ行って、で、三浦の話題。
と、オープニングの繰り返しです。
ただし、すべて悪い方悪い方に転がっている。
「ゼンマイ」「うずまき」=「がっかり」です。
転勤、いやなら断れよ、と同僚にいわれる。
「組合」というものがある点、戦前の会社員物とは違います。
(「東京の合唱」とか即座にクビになってたりした)
で、お葬式がありまして
アパートの光景。
淡島千景は、中北千枝子のアパートにいることがわかる。
提灯がうずまき。
あと、「東京物語」、東山千栄子が泊った翌朝のシーンの引用。
ドキッ……
とつぜん、中北千枝子のセクシーショットなどがありまして……
(小津映画で女性の下着姿というのは?? あったっけ?)
「死」(葬式)と「生」の複雑なコンビネーション。
そういや、水久保澄子が戦前、「玄関番とお嬢さん」とかいう映画で
こんな格好でバタバタ暴れまわっていた、とか思い出す。
(YouTubeでチラッとみただけですが)
小津安っさんも水久保澄子のあれ、
思い出していたか??
ストッキングを脱ぐ、という行為。
大好きな(?)靴下関係のショット。
(三石に)行きっこないわよ、と淡島千景はいっている。
逆にいうと、三石へ行ったからこそ、
淡島千景は池部良を見直したのでしょう。
淡島千景は行きっこない、というのですが、
次のシーンが、お得意のパッキングシーン。
あー三石行くのね、と観客に一目で分からせる。
こういうことをサラッとやるのはけっこう難しいものですよ。
一瞬で事態を理解させる、というのは……
フツー、セリフで語らせちゃいますからね~
画像ではなく……
と、金魚(岸恵子)が来たので、ノンちゃん(高橋貞二)は退席。
「金魚」のことがあるので、転勤するのかな?
とうすうす気づいてはいるのですが、
それをいちいちいわないノンちゃん。いい奴。
「あんた転勤するんだって?」
このシーンの岸恵子は両目ともキラキラしています。
ネックレスもひかります。
光の当て方としては、「麦秋」のS91
原節ちゃんが「お兄さん、また子供叱ったの?」
あれに似ている気がする。
「だまって行っちゃうつもりだったの?」
と、「行く」というコトバ。
空間論。
「会って謝りたいとおもってたんだ」
「逃げてんじゃないの。こないだから逃げてんじゃないの」
で、ひっぱたきます。
このモーション。相当本気のビンタ……
で、出ていく岸恵子。
の横で、例の片目キラッ! の引き戸。
芸が細かすぎる……
気づきませんって……誰も気づきませんって……
で、五反田のおでん屋。
池部良、浦辺粂子に
「とにかく、あさっての晩発つことにしました」
と報告。
すると、入れ違いで淡島千景がやってくる。
「おまえ、そこで杉山さんに会わなかったかい?」
もちろん、「麦秋」の杉村春子のセリフ――
「お前、そこで紀子さんに会ったろう?」
の引用。
○の映画、「麦秋」では二人は会いますが、
うずまき映画、「早春」では二人は会いません。
で、例の雷魚の部屋で、スギのお別れの会。
「蛍の光」なんか合唱して……かわいすぎる……可憐だ。
田中春雄がうたってる……須賀不二夫がうたってる……
ん、というか…………
左はじの子……
この眼帯の子がずっと謎だったんですが、↓↓
(一切説明されない……)
ははぁ……もうおわかりですね。
瞳にスポットライト。
片目キラッ!!
あれを示しているわけですね。
(誰も気づかないって!!)
眼帯とは、まー……
「片目キラッ!」映画のしめくくりにふさわしい。
(まだ終わってないですが、岸恵子はこのシーンで最後)
で、岸恵子登場。
みんな驚いとる。驚いとる。
岸恵子も可憐。
「いよいよ行くのね、握手!」
もう、戦前のサイレントみたいな可憐さです。
「友情の鉄拳だ!」みたいな。
たぶん、当時の観客が「ついていけねーよ」とおもったのは
このあたりかしら??
「なに青春してんだよ??」みたいな。
でも、60年後の我々は――
「眼帯の女の子」を強引に、いっさい何の説明もなしに突っ込む、という……
小津安っさんの強引さ、過激さ、意味の分からなさ、に感動するのであった。
んんーー……
どう考えても、小津安二郎、
後年のビデオ装置の登場、
それから「オタク」の登場を予期していたとしかおもえない。
「巻き戻し」「早送り」「一時停止」ボタンがないと
あんたの「暗号」の答えなんか絶対わからんぞ。
んんーー……
眼帯の意味、理解できた人がわたくし以前に誰かいるのか??
ここは「麦秋」のパンとレールに匹敵する
ものすごい暗号の突っ込み方だとおもう。
「早春」はスゴイ。
すごすぎる……
超絶傑作だ……
にしても、このシーンの
岸恵子たん、最高にかわいい……
で、大津。瀬田大橋。
池部良が笠智衆に夫婦喧嘩の原因を語ります。
笠智衆という人は「風の中の牝雞」でも、
佐野周二から夫婦の間の秘密を告白されていました。
で、やってますやってます。
今度は笠智衆がタバコの箱をグルグル。
銘柄もおなじ Peace
二人のかたわらをボートが通り過ぎていきます。
汽車とおなじ、力強い直線運動。
笠智衆いわく
「いろんなことがあって段々本当の夫婦になるんだよ」
「晩春」の曾宮周吉と同じことをいいます。
で、三石で働いてる池部良。
小津作品の空間移動というのはけっこう暴力的です。
「東京物語」冒頭なんかは分かりやすい例で、
尾道のシーン→カット→東京(おばけ煙突)
関西から関東へとつぜんワープします。
かなりぶっきらぼうです。
で、退勤後。どこも寄らずに下宿に帰る池部良。
靴下(また!!)を脱いで、部屋を見回すと……
淡島千景の服が……
二人の再会のセリフがいい。
「こんちは」
「おう」
このシーンの淡島千景。
両目がキラキラです。
前回の記事で、淡島千景の証言……
三石の下宿から汽車をみつめるところで
カーボンライトを使ったというのですが、
両目キラキラのためにカーボンライトを使った、ということなんでしょうな。
カーボンライトって何なのかよくわからんのですが。
グーグルで検索したところ、
エジソンの作った電球(カーボン電球)とかいうもので、
そんなに明るくないものらしいのですが……
とても良いモノらしいな、というのは
このショットをみただけでわかる↓↓
「すまなかった」
「もう、なんにもいわなくっていいの」
「もういわないで!」
両目キラキラの淡島千景がこのセリフ……
もうたまらないっす……
ゼンマイ巻いてる池部良。
「あ、いくわ。汽車」
今度は片目キラッ!!
興味深いのは、ですね。
小津作品には「都落ち」テーマがけっこう多いのですが、
(「東京の合唱」「麦秋」、「父ありき」も、まあ、そんな感じか)
「都落ち」したあとの姿はフツー描かれないわけです。
「麦秋」……秋田へ行った後の間宮紀子の様子は
観客が想像するより他ない。
ところが、「早春」だけに関しては、
「都落ち」したあとに重要なシーンが待っている。
あと、汽車を見送るシーンも小津作品に多いのですが、
池部良、淡島千景が見送るこの汽車には
とくに誰が乗っているわけでもない。
彼らの知合いは乗っていないわけです。
そこんとこもおもしろい。
で、ははぁ……
二人とも手をゴニョゴニョやってる……
「手をゴニョゴニョ」
これは、「恋」のしるしだということは
小津のサイレント時代からの伝統……
淡島千景が夫をチラッと振り返る姿が、もう……
んんー等々考えると、
誰が乗っているわけではない「汽車」は
何の象徴かというのは一目瞭然なわけで……
(あ、あとギンギンに突っ立った煙突ね……)
ラストは一見しんみりしているんですけど、
よくみると、相当にエロい……
はい。うらやましくなったところで、
「早春」の感想、おしまいでございます。