その6
まさか
「東京暮色」でこれだけの分量が書けるとはおもいませんでした。
もっとはやく終わるかとおもってたのに。
途中で「ブレードランナー」に寄り道したりもするし……
一体いつまで続くのか?
S62
国産の自動車が停車し、竹内重子がおり運転手に、
重子「一寸、これ」
と襟巻を渡し入ってゆく。
といいますから……
「クルマ」&「襟巻」
「淑女は何を忘れたか」の飯田蝶子を思い出します。
(↓↓以下、2枚「淑女」)
しかし、戦前のアメ車の方が立派だし、エレガント。
戦後の国産車の薄っぺらなことよ。
車種は……クラウン??
なんだかわかりません。
しかし飯田蝶子の「襟巻」はやりすぎ。
ぬいぐるみかよっ!!
もとい。
つくづく若いころの作品の引用が多い、「東京暮色」です。
S63
はい。杉村春子でもやっぱし
玄関を外から撮ります。
ヘンな作品、「東京暮色」
S65
重子おばさん(杉村春子)は、明ちゃん(有馬稲子)の
縁談の話をしに来たんですが――
すみっこの「壺」に注目してしまう、トマス・ピンコであった。
これって……
かの有名な「晩春」の壺の……
上の「△」がない形ですねーー……
はい。反「晩春」
というか、これほど強烈な反「晩春」のシンボル、というのも他にない。
そして、現実。杉村春子の持って来た縁談は成立しないわけです。
お見合いすらしないうちに、有馬稲子は死んでしまうわけです。
杉村春子、写真を「2」枚持ってきます。
あと、
「立教出て、お店の手伝いしてて時たまうちへも来るんだけど、いい男よ(と鼻の両側を手で示し)この辺錦之介に似てて」
といいますので……
有馬稲子と中村錦之介が結婚するのは1961年らしいので
「ん? なにかほのめかし?」
とか思いますが、
シナリオ段階では 明子役は岸恵子だったはずですから……
んーよくわかりません。深い意味はないのかな。
でも、ここのメインは、明子の縁談、ではなく、
重子おばさんが「喜久子さん」に会った、というエピソードです。
重子「おとついね、あたしね、大丸行ってね、エスカレーターで二階行ったのよ。ひょいと見たら、とても似てんのよ、後姿が。おかしいなと思ったらやっぱりそうだった」
周吉「誰だい」
重子「喜久子さんよ」
孝子(ハッとして)「お母さん」
「2」階。
さらにいうと……これは「偶然」のエピソードです。
「2」→「偶数」
考えすぎか??
笠智衆は以降、まったく喋りません。
原節子は両目キラキラ、です。
S67
例の「二」の高架です。
この「二」……
「東京暮色」の登場人物たち皆が「平行線」をたどる、
ということを示しているような気がします。
↑のS65ですが、
杉村春子は「縁談」に夢中で、笠智衆がいまだに傷ついていることに無頓着ですし、
笠智衆は黙りこくって、誰にも心中をさらけだしません。
原節子は原節子で、「麻雀屋のおばさん」=「お母さん」ということを考えているはず。
このシーンに限らず、皆が皆、「平行線」なのです。
で、このシーン。
大大大女優同士の激突シーンですが……
ここも「平行線」
孝子(落ち着いた声で)「お母さんですか」
喜久子、ハッと顔を上げる。
孝子「孝子です」
喜久子(息を呑んで)「まあ、孝ちゃん」
「お母さんですか」
――こんなすごいセリフ、よく書けたもんだ、とおもいます。
あと、原節子のかっこいいこと。
孝子役も、喜久子役も、完璧なキャスティング。
まー小津作品に向かってそういうこというのは野暮ですが……
山田五十鈴、片目キラッ。
あと、両手でゴニョゴニョやってますね。
娘に対してこみあげてくる「愛情」
だったら捨てるな、という話ですが。
喜久子「さあ、こっちい、いらっしゃいよ、ねえ」
孝子「いいんです」
このあたりの、あんまし罪悪感のなさそうな喜久子の様子……
「どうも悪人ではないのらしい」と観客はおもいます。
この難役を、なんなくやってしまっている(ようにみえる)
山田五十鈴……
すげーー
孝子「明ちゃんにお母さんだって事、仰有って頂きたくないんです」
喜久子「どうして、なぜいけないの」
孝子「お父さんが可哀そうです。そうお思いになりません」
S70
原節子が去り、相島(中村伸郎)が帰ってきます。
相島「誰だい、今帰ってった人」
喜久子「お帰り」
相島「綺麗な人じゃないか、誰だい」
で、おなじみ都落ちテーマが出てきます。
中村伸郎は室蘭に会社勤めの口があるようなのですが、
山田五十鈴は乗り気ではありません。
相島「お前、行きたくないのか、おれ一人じゃいやだよ、この寒いのに室蘭くんだりで一人じゃ寝られないよ、ねえ、行っとくれよ、一緒によう」
これも「2」の一種とみたいところ。
S73
産婦人科「笠原医院」
どうも、みたかんじ、
女医一人、看護婦一人でまわしているようです。
三好栄子が強烈。
笠原「どういうことになったの?」
明子「あの……やっぱり……」
笠原「ア、そう。その方がいいわよ。あんた、身体、弱そうだから」
前々回の記事「その5」で、
ユダヤ-キリスト教っぽい、ということを書きましたが、
「堕胎」なるテーマもまた、
なんかユダヤ-キリスト教っぽいんだよな~
日本だと、こんなことテーマになりませんからね~
キリシタン時代の宣教師も驚いていましたが。
はい。ボタンは毎度毎度「2」
笠原「あなた、お店どこ? 新宿? 渋谷? うちへもね、あなた方みたいな人ちょいちょい見えるんですよ。たまには立派なお宅のお嬢さんもコッソリ見えたりするけど、ちゃんとした理由がなきゃ、一さいお断り……」
これまた「二」……「平行線」です。
観客は明子(有馬稲子)がそういう人物ではない、と知っているのですが、
まわりはそうは見てくれません。
三好栄子の場合、
歯がキラッ!!
S77
有馬稲子、帰宅します。
明子、廊下で遊んでいる道子を見つめる。
道子が明子の方へヨチヨチ歩いてくる。
明子(堪らなくなって)「嫌」
と顔を蔽う。
――というんですが、
個人的にはここ好きじゃないです。
小津安っさんらしくない。
もっとサラッとした描写で攻めてほしい気がします。
S78
で、毎度おなじみ、長回しのお着替えショット。
例によって無人になり↓↓
寝巻スタイルのネコちゃん登場。
もう、この格好だけで上流の香りがします。
このシーンの照明は「冬の午後ってこんな感じだなー」と、
いつみても妙に感動します。
明子「いいのよお姉さん……大したことないの。心配しないで……」
孝子「でも……」
明子「少しじっとしてりゃ癒るわよ」
と洋服を脱ぎ、ネグリージェを纏って床の上に来て坐り、ストッキングをとり寝る。
お得意の靴下関係の描写。
孝子「いつものようにセカセカして、そんなに早くなんの用かと思ったら、あんたの縁談なの、男の人の写真二枚持って」
「2」枚。
明子(遮るように)「あたし、お嫁になんかいきたくない」
孝子「どうして?」
明子(呟くように)「行けやしない」
つづいて――
孝子「あんたまだ若いんだし、これからだもの、まだまだどんな幸せがくるかわからないわ。あたしなんか見てそんな気ンなっちゃいけないわ」
といいますが、もちろん……
「東京物語」の東山千栄子のセリフの引用です。
S103
とみ「でも、あんたまだ若いんじゃし……」
紀子(笑って)「もう若かありませんわ……」
んーー……
というか、この不気味なキューピーちゃんは……
明子の堕ろした赤ちゃんの……
……んーーー
…………
そうそう、こういうことやってほしいんです、小津安っさんには。
明子「少し静かに寝かしといて――」
孝子「そう、眠い? じゃ少し寝た方がいいわ。寒くないわね? 用があったら呼んで――(と立って)じゃ、電気つけないどくわね」
と階下へおりてゆく。
明子、次第に涙が溢れ、嗚咽して――
んーー布団の柄が「うずまき」だ。
なんか久しぶりにみた。
その7につづく。