Quantcast
Channel: トトやんのすべて
Viewing all articles
Browse latest Browse all 593

島津保次郎「隣の八重ちゃん」(1934)感想 その1

$
0
0

最近、清水宏のBOXを買って以来、

30年代日本映画にハマってしまっていて……


「ハマった」と偉そうにいえるほど本数見ていないんですが。

あと、戦前日本映画、

DVDでみれる本数は限られてくるんですが。


んーとにかく、

小津作品の感想はあとまわしになりそうです。

しばらく30年代日本映画に浸ろうとおもいます。



で、「隣の八重ちやん」です。

監督は、もうひとりのヤスジロー


――島津保次郎。


原作・脚色・監督:島津保次郎、というのだから、

シナリオは自分で書いてしまったわけだ。


えージャケット。

↓右の女の子、逢初夢子。左、高杉早苗。



感想、ひとことでいうと

「八重ちゃん萌え~」


これは良いです。皆さん買いましょう。

買って買って、

松竹に30年代映画DVDをどんどんリリースさせましょう。

んーもっと島津作品がみたい。


以下、マニアックな感想。


感想①逢初夢子


八重ちゃん……服部八重子役が逢初夢子なんですが……


逢初夢子、って

ヴァンプ専門の脇役女優さんなのか。

と勝手に僕は思いこんでいて……


↓2枚、清水宏「港の日本娘」(1933)ですが、



及川道子と一緒に、

ダンサーみたいな売春婦みたいな生活をしてる悪い女を演じてました。


で、最後お巡りさんに捕まる、という役。




↓2枚 小津安二郎「非常線の女」(1933)


妙に現代的な容貌の……

これまた悪そうな女が出てくる、それが逢初夢子。


んーこうやって切りとってみても、

小津映画のショットというのは、なんか、こう……

妙な品格があるなーー


そんな悪い女ばかりの逢初夢子が、

純情可憐な八重ちゃんを演じる、という……


どうなることか、と勝手に不安がっていたのだが。

まったく心配はありませんでした。


はい。以下、画像は「隣の八重ちゃん」



んーというか、松竹ってところ。


新人女優をまず、ヴァンプ役で使ってみる、という

妙なシステムがあるのじゃなかろうか??


たとえば桑野通子。

デビュー作はどんなだか知らないのですが、

清水宏「有りがたうさん」(1936)などみると、

デビュー後すぐ、流れ者の酌婦なんかを演じていたことがわかる。


純情な役柄……たとえば「新女性問答」(1939)は、

そのあとになるわけです。


今の常識からすると逆のような気がするが……

でも……

「純情→ヴァンプ」というのは違和感があるし、どこかみじめですが、

「ヴァンプ→純情」というのは、


「ああ、あの子は不良不良だとおもっていたけど、案外純粋な子だった」

とか、いうのはよくあるパターンだし。

あんまし違和感はないのではなかろうか?????



んーとにかく逢初夢子がかわいゆすぎる。

この「八重ちゃん」で大スターになったというのは納得。


↑右は大日方伝。

八重ちゃんが憧れる隣りのお兄さん、恵太郎役。


前年、小津安っさんの「出来ごころ」(1933)に出てました。

そして同年「母を恋わずや」(1934)にも出演。


しかしこうしてオールトーキーの「隣の八重ちゃん」見ちゃうと……

同時期にサイレントを撮り続けた安っさんがホント古臭くみえます。


俳優さん達もそうおもったのではあるまいか??


ま、1934年のキネマ旬報ベストテン1位は

その古臭い「浮草物語」となるわけですが……


書物からの引用をば。

逢初夢子。かの水久保澄子と同期のようです。


逢初夢子

水久保澄子が裏町のなんでもない美少女なら、こちらの方はいくらか仔細ありげに見えた。当時の言葉でいえば、モダン・ガールのはしりであったといってもいい。事実、受け入れた蒲田撮影所の待遇でも、水久保よりこの人の方が上だった。(中略)
水久保とともに成瀬巳喜男の「蝕める春」で若鮎のように登場したが、ついで一本立ちとなったのは水久保の方が一歩早く、名匠島津保次郎の「嵐の中の処女」でキビキビとした貧乏会社員の小娘を好演、いっぺんに人気者となった。逢初夢子もつづいて同監督の「隣の八重ちゃん」に主演、サラリーマンの娘、八重ちゃんを演じ、これまた前作に劣らぬ名作となった。人によってかならずしも評価は一致しないが、前作のさりげない庶民の哀愁に対して、後者には、もすこし色濃い人生ドラマがこめられていた。

(猪俣勝人・田山力哉、現代教養文庫「日本映画俳優全史・女優編」268ページより)

 

感想②小津安二郎と島津保次郎 


直接、「隣の八重ちゃん」の感想じゃないんですが……

やはりヤスジローといや、小津安二郎との関係が気になる訳でして……


しかし、結論からいってしまうと、


――同じ松竹・蒲田撮影所にいたわけですが、

あんましこの二人のヤスジローは接触がなかった、ようです。


・島津保次郎:明治30年(1897)生まれ

・小津安二郎:明治36年(1903)生まれ


なので島津オヤジのほうが

小津安っさんの6年年長。

ついでにいや、島津ヤスジローはチビで、小津ヤスジローは大男。


小津安二郎のお師匠は大久保忠素というひと。

助監督時代は大久保組にいた。


「全日記 小津安二郎」をみても、「大久保忠素先生」「大久保さん」の名はちょこちょこ出てくるが、(仲の良い師匠と弟子である)

「島津」の名は皆無に近い。


1933年6月1日(水)

「島津組と野球をやる 引分」

という記述がある。見つかったのはそれだけ。

一緒に飲んだり、ということはなかったようだ。


別に……

書物・インターネットからの情報によれば、

先輩・島津保次郎はイジワルではなかったような感じがするので、

(「競馬気狂い」だった、という情報はあるけど……)

嫌っていた、とかいうわけじゃなく、

単に縁がなかった、というだけのことだろう。


おもしろいのは

1934年6月30日(土)

「邦楽座にて めをと大学 八重ちやんを見る」


――DVDのジャケットによると、1934年6月28日公開らしいので、

公開直後の「隣の八重ちゃん」を見ているわけです。

ただ、感想はない。


小津安二郎の日記。つまらない映画の場合は「凡作」「まことに面白からず」と断言。

おもしろい時は……

「帝劇で フランク・キャプラのIt happened one nightをみる 面白し」

などと一言で感想を書くので……


小津安っさんにとっては「八重ちやん」は

良くもなく悪くもない、

フツーの出来だったのだろうか??


ああ、そうそう。

逢初夢子に関する記述も少しだけあります。


1933年2月18日(土)

「絹代 逢初と大木に非常線の女のドレス注文に行く」


1933年6月6日(火)

「高山 加賀と銀座に出て水久保 逢初と竹葉でめしを喰ふ」


まー

田中絹代&逢初夢子……

水久保澄子&逢初夢子……


ははははは……笑っちゃうより他ない豪華な顔ぶれ。


感想③暗号「2」


えー、で、以下、「隣の八重ちゃん」を

あらすじ順にみていこうとおもいます。


「八重ちゃん」の暗号は「2」です。

「2」をテーマにシナリオは構成されているようです。


上記のように、小津安っさんのお師匠は大久保忠素なのですが、

師匠筋ではない島津保次郎が

なんと「暗号」でシナリオを書いている、ということです。


んーこれはどういうことなのか??

小津は実は島津作品から「暗号」を学んだのか??


んー……

ま、いいや。

まずは移動撮影からはじまります。


カメラは右に向かって「ゴトゴト」と動きます。(小津安っさんなら怒り狂いそうです)


はじめに紹介されるのは服部家↓↓

八重ちゃんのうちです。


覚えておいていただきたいのは、この特徴的な門です。


背景の鉄塔も興味深い。1930年代からあったのね。


お次。

新井家の兄弟が登場。

兄・恵太郎(大日方伝)

弟・精二(磯野秋雄)


空き地でキャッチボールをしております。

むろん「2」


で、恵太郎の新井家が紹介される。

△屋根が特徴的です。


つまり、キャッチボールの「2」

服部家―新井家の「2」

を移動撮影で示しているわけです。


はい。で「2」軒の家を、ロングで捉えます。

気になるセリフをひろってみますと……


精二「兄さん、グロッキーだよ、もう」


恵太郎「もう三つ四つ 正確に放ってみろよ」


「2」ときて、三つ四つというのですから、やります。島津ヤスジロー。


「移動撮影」とか「建物の全景」(広角レンズ)とか

小津安っさんには我慢ならないでしょうが、

「暗号」を使うのは上手い……


……というか、小津は島津に「暗号」を学んだのか?

とかおもえてくる……


えーで、よくあるように、

服部家の窓ガラスを割ります。


で、八重ちゃん、登場。

「あぶないわねえ」とかいって。


しかし、この月並みパターン。

元祖は「隣の八重ちゃん」なのだろうか?

そんな気がする。


ということは、この当時は「月並み」ではなく「斬新」だったのだ。(??)

そうおもいたい。


「2」が「3」に……


シナリオはこのパターンが多いです。

よくあるのは、

八重ちゃんが恵太郎とお話をしていると、

間に精二(無邪気・なにも考えていない)が割りこんでくる、というもの。



八重ちゃん「この夏はどうしても甲子園行けると豪儀なんだけども」


と精二が甲子園を目指していることがわかります。


「野球」「甲子園」というのも

最新の話題でしょう。


弟・精二がガラス屋さんを呼びに行きます。


八重ちゃんのお母さん(飯田蝶子)は

おとなりの兄弟にガラスを割られるのに慣れっこになっています。


「勘定はあんたんとこ取りにやる?」

「モチのロン」


で、二人は仲良く銭湯へ。


「じゃ、一緒に行きましょうよ」

うーん……


いいなーー


はい。で、さっきいったよくあるパターン。

何も考えていない精二が割りこんできます。


「鉄塔」「電柱」

道路が舗装されていないことを除けば、

現代とそう変わりません。


新井家の夫婦の会話。

お母さんは「戸田家の兄妹」にも出てた葛城文子。


新井家も服部家もサラリーマン家庭です。


会話は「専務のご出産」に関して。

「ご妾宅とご本宅で競争じゃ……」という具合。


「2」です。


鳥かごの中の小鳥が「2」


ガラスの修理が終わって飯田蝶子。


「明日もいいお天気だ」「富士山がよくみえること」


――……んーーー


「富士山」うんぬんは、小津作品にはなさそうが……


「いいお天気」というのは……


なんだなんだ? 小津安二郎はひそかに島津ヤスジローファンであったのか??



えー、で、あくる日。

恵太郎(大日方伝)、大学生なんですが、

午後の講義がつまらない、とかいって早く帰ってくる。


が、お母さんが外出中で家が閉まっている。


ので、服部家(八重ちゃんち)にのこのこやってきて、

「小母さん、おなかすいちゃった」とかいっている。


飯田蝶子も、この子がかわいくて仕方ない様で、

ごはんの支度をしてくれる。


↓人の目線あたりからの俯瞰ショット、(ローポジではない)


ですが、んーなんとなく小津っぽくもある……

(襖の開き具合、とか)


大日方伝が「お茶漬け」を食べている所に

八重ちゃんがお友達を連れて帰宅。

「2」人の女の子。


お友達役は高杉早苗……


か、かわゆい……


「宗方姉妹」の、あのおばさんが……

こんなに可憐であったとは……


で、お茶をひっくり返したり、漬物をひっくり返したり、

というコメディ。


八重ちゃん(逢初夢子)のおてんばっぽさと、

悦子ちゃん(高杉早苗)の大人しい雰囲気との組み合わせも

コメディを盛り上げます。


自室にて。

どんどん服を脱いでいく八重ちゃん。


会話は

「たんなるお友達?(恵太郎のこと)」

「キャハハハハハ!」

という具合。


八重ちゃんの笑いは特徴的で、

文章ではとても表現できません。


トーキー初期の……なにか、こう、

表現の幅が広がったことへの歓びが感じられます。


ガラスの割れる音。食器が触れ合ってたてる音。

八重ちゃんはしきりに歌うし……


そしてキャハハハハと笑う。


えーどんどん脱ぎますよ。


で会話も

「あら あんたの胸素敵ね。おっぱいの形とてもいいわ」

とかいいますので……

(「かげ台詞」という、これまたトーキーならではの技法。小津安二郎は絶対にやらない……)


恵太郎(大日方伝)は気になってしかたない。


お着替え終わった八重ちゃんが、

お片付け。


そうそう、さっきいった食器の触れ合う音というのはここ。

ガチャガチャ……


八重ちゃんが、モジモジしている悦子ちゃんを

恵太郎さんに紹介します。


美少女高杉早苗を目の前に、

大日方伝はデレデレしていますが、


八重ちゃんに靴下の穴を発見されてしまいます。


んーーー

靴下→「2」


以降、靴下はこの映画の中で繰り返しでてくる小道具なんですけど。


んーーー

小津安っさんの「靴下」へのこだわりも考えたくなる。

あと、靴下の穴、というと、

「淑女と髯」だよね~


なんだか八重ちゃんは靴下の穴を直す機械をもっている、とのこと。

「あたしんち直す機械があんのよ」

「あたしこれやんの大好きさ」


(靴下を持って)「きたないわ」「おーーーくさい!!」


ということでけっきょく洗濯してから穴をふさいでくれることに。


というのですが、

「引手」に注目してしまうトマス・ピンコであった。


↑恵太郎、八重ちゃん、悦子ちゃん、の3人の時。

引手は「3」であったのだが……


↓八重ちゃん、悦子ちゃんの2人になった途端、

「2」に……


なんだ?なんだ?……


で、じゃれ合う「2」人。


かわゆすぎる、30年代美少女たち。



えー、とまあ、「隣の八重ちゃん」

前半はこんな感じ。


んー……


島津ヤスジローと小津ヤスジロー……


二人は実は師弟であったのか??

それとも??


その2につづきます。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 593

Trending Articles