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島津保次郎「隣の八重ちゃん」(1934)感想 その2

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小津ヤスジローと島津ヤスジロー……

二人の関係がいまいちわかりません。


小津安っさんが蒲田撮影所に入った頃、

6歳年上の島津保次郎はすでに「巨匠」で――

……で、どうも

大げさな「物語」ではなく、

小市民の生活を淡々と描くという「蒲田調」を確立させたのが

島津保次郎であったらしい。

(といっても、八重ちゃん一本しか見てないので何ともいえない)


なので、小津自身「自分の師匠は大久保忠素だ」

とおもっていたにせよ、

(「一人息子」で笠智衆が演じたのは「大久保先生」だったことに注目)


蒲田調=島津保次郎なのですから、

影響を受けるのはあたりまえ。

と言いきっていいとおもいます。


あ、あと。ざざっと「小津安二郎戦後語録集成」をみまして、

島津保次郎に言及している所をみつけましたので引用します。

1952年の証言です。


 もう一つぼくのクセを白状しておくと、ぼくはロケーションが好きでない。セットでも行けると思う芝居はセットへ持ちこむ。ロケーションは天気にも左右されやすいし、スターに群衆の前で注文はつけにくいから、気をつかうし、思い切った事ができない。その結果、ロケーションもセット向きに撮ってしまう。反対なのはなくなった島津(保次郎)さんだった。この人は、セットもロケーションみたいに撮った。中を行くのは清水(宏)で、彼は彼らしくロケーションはロケーションらしく、セットはセット向きに軽く監督してのけている。

(フィルムアート社、田中眞澄編「小津安二郎戦後語録集成」163~164ページより)


セットとロケの差に関して、

・小津パターン

・島津パターン

・清水パターン

この3パターンがある。といっています。


こういう証言をみると、それなりに尊敬し、注目していたのではないか?

とおもえます。


えー「隣の八重ちゃん」にもどります……


前回紹介したショットのセリフ――


悦子ちゃん「ちょっとフレデリック・マーチに似てるわね」

八重ちゃん「今度よく見比べてやろう」


と、フレデリック・マーチ=恵太郎なる

「2」が。


悦子ちゃん「あんた好きなんでしょう、あの人」

八重ちゃん「失礼しちゃうわ、悦子さん」

で、じゃれあう二人。



で、その夜。

新井家にて。

八重ちゃんが靴下の穴を直す機械をみせびらかして(?)いる。


ほんとうは恵太郎(大日方伝)のところへ行きたいのだが、

遠慮している、というところです。


葛城文子が「なるほどねえ」なんていいますが。


わたくしには仕組みがわかりません。

これはどういうシロモノなんでしょう?


あ。小津映画にはこういう種類のクロースアップ↓

ありそうで、ない。

モノのアップ……ちょっと記憶にない。


一方の恵太郎。勉強中。

東大の「独法」だそうです。


ので、ドイツ語で歌をうたっている。


一方の服部家(八重ちゃんち)では

オジサン二人が呑んで騒いでいる。

会社への愚痴愚痴愚痴。


八重ちゃんのお父さん役は岩田祐吉という人。↓↓

よく知らんが、

どうやらサイレント初期の大スターであったらしい。

かの栗島すみ子先生との共演が多かったらしい二枚目。

ま。今となっては完全に忘れられているのだから、

「スター」というのははかないね~


オッサン二人が大声でがなりたてる、

このシークエンスなんですけど……


僕の個人的な感想ですが。


恵太郎のドイツ語の歌→大声のがなり声。


これってアドルフ・ヒトラーの演説のパロディのような気がしてならない。

なんか似てるんだよな~

オッサン達のがなり声とヒトラーの演説。


1934年。ナチスが政権とった翌年。

どうでしょう?

こればっかりは見て頂いて判断してもらうより他ない。


ただ、1934年当時、一般日本人にとってヒトラーというのは、

たぶん「偉大な人物」だったろうから……

風刺する理由はあんまりないような気もする……


パロディというのは深読みなんだろうか??


と、そこへ。

八重ちゃんのお姉さん、京子(岡田嘉子)が帰ってくる。



「2」です。↓↓


というより、

今までサイレントでしか「岡田嘉子」みたことなかったので、


喋っている岡田嘉子がみれて感動している自分がいる。


うむ。やっぱし美人な岡田嘉子。


「お父さん、あたしもう金田へは帰りません」


嫁ぎ先から出てきてしまったらしい。



一方その頃。新井家。


と、「八重ちゃん」は全編、服部家と新井家を行ったり来たりする。

「2」……「振り子運動」……


八重ちゃんが直した靴下をもって恵太郎の部屋へ。


「八重子、履かせてくれ!」

「……」

「――と、こういうのさ」

「バカにしてるわ! 知らないわよ!」


などとイチャイチャ。


こういう若い男女の軽妙な会話、島津オヤジうまいな~


と、そこへ例によって精二くんが邪魔に。


「八重ちゃん、あやしいぞ」「だって兄さんの部屋ばっかり入りたがってるんだもの」

と、この子は精神年齢10歳くらいに描かれています。


スポーツと食べ物にしか興味がない。


逆にいうと、「恋愛」という感情がないので、

恵太郎―八重ちゃん、と三角関係を作る危険性がない、ということです。


逢初夢子のアップ。


小津のアップ、バストショットは正直、不気味なところがありますが。

(観客を真正面から見据えたりする)

島津オヤジはそんなことはしない。


俯瞰ぎみ、あと斜めから、ということで無害な視線をつくり出します。


八重ちゃんは

フレデリック・マーチ=恵太郎(大日方伝)

という「2」を確認します。


「なるほどよく似てるわ」


葛城文子が

お姉さんが帰ってきた、と八重ちゃんに伝えます。


傘、という小道具が気になっている自分がいる。

小津も傘好きだよな~



で、どんより沈んでいる八重ちゃんち。


たたずむ岡田嘉子。

頭を抱える飯田蝶子。

ムスッとしている岩田祐吉。


で、引手が「3」


うん。ここまで繰り返されるということは、意図的だな。

小津安っさんは「引手の暗号」に関しては

島津オヤジから学んだのだ。たぶん。



僕は、この「3」……

岡田嘉子が登場してから出現した「3」……

深いとおもいます。


結論をいっちゃうと、

・八重ちゃん(逢初夢子)

・京子(岡田嘉子)

・恵太郎(大日方伝)

この三角関係を示している「3」です。

(さきほどいったように精二君は三角関係をつくらない)


ここで、

オープニングのトラッキングショットを思い出しましょう。
ガタゴトガタゴト、とひどく揺れる……


溝口健二なら卒倒しそうな移動撮影、ですが、


この門↓↓


だまし絵なんじゃないでしょうか??


人の横顔が隠れてませんか??


見つめ合うカップルが「2」組いる、という図……


そうみえませんか?


で、「2」を示し……


△……「3」を示す。という。


つまりオープニングのショットは

「隣の八重ちゃん」の全体の構造の縮図となっているわけ、です。


はい。

で、岡田嘉子登場の翌日。


オープニング同様。恵太郎―精二のキャッチボールからはじめる、という……


はい、で、キャッチボールの横では、

岡田嘉子、飯田蝶子がグジグジとケンカをしています。


岡田嘉子のダンナは、

女中さんに手をつけるわ、

結婚詐欺まがいのことをして警察の御厄介になるわ、

とんでもない野郎のようです。


今だと、それは慰謝料もらって当然の話ですが、

この頃の女は泣き寝入りをしないとならないようです。


はい。「2」


飯田蝶子、精二君に、

「またガラスこわしちゃ困るよ!」

とガミガミ。


オープニングと対照的。機嫌が悪い。


飯田蝶子の行き先はおとなりです。



「あらあら、下駄も片ちんばだ」


「2」……


ですが、これから示される

岡田嘉子―大日方伝、

このペアが結ばれないことを暗示しているようでもあります。


「まったく世の中真っ暗よ」

「そんなに悲観することないと思うな、僕は」


今、ちょうど読んでいる、

佐藤忠男の「増補版 日本映画史Ⅰ」では、

「八重ちゃん」の岡田嘉子の演技が否定的に描かれていて……

それは全くその通りだとおもうんですけど……


この作品では、既成の大スターであった舞台出身の岡田嘉子がひとりだけ、ややお芝居くさい演技で浮いて見える以外、大日方伝、逢初夢子、高杉早苗など、なかにはまだ殆んど素人に近い新人を含む、しかし今日的なモダーンなフィーリングを持つ若い俳優たちが、日頃スタジオでたわむれている感じをそのまま撮ったのではないかと思われるようなのびのびしたふるまいを見せる。

(佐藤忠男著、岩波書店「増補版 日本映画史Ⅰ」373ページより)


佐藤先生、よほど岡田嘉子の演技が気に食わないらしく、

この後のところでも「ちょっと過剰な媚態で」とか書いてる。


んー、でも、岡田嘉子のオーバーな表現、

どうもコメディ要素のような気がするんですよね~


テレビのバラエティ番組のコントに

名の知られた女優さんが登場して、

で、妙にシリアスな演技をして、笑いをとる、という、アレ。


あと、映画全体の構造からすると、

岡田嘉子は

「2」に映画にむりやり入り込んでくる「3」なわけです。

異物なのです。


異物として出現して、異物として去っていく人物なわけです。


ここで、岡田嘉子のかわりに

田中絹代なり、川崎弘子なりが、

しっとりした演技で

「まったく世の中真っ暗よ」

といったとする。

そうすると、ほんとうに真っ暗な映画になってしまい、

コメディとして成立しなくなるわけです。


んー佐藤忠男先生がそんなこと、わからないわけはないとおもうけど。


んー「東京の女」を思い出すな……


で、やけにエロい顔の岡田嘉子をみて

「うわ、やべっ」とおもったか、


目をそらした大日方伝の視線の先は、


靴下。

「2」

で、昨夜の八重ちゃんとの会話を回想する恵太郎でした。


ここで観客は、

・けっきょく恵太郎は八重ちゃんが好き。
・そして恵太郎は下心ではなく、ただ親切だから京子を慰めているだけだ。

というのがわかるのですが、


しんみり話しこむ二人を目撃した八重ちゃんには、

そんなことわかりませんで、


嫉妬のかたまりになります。


ん。誰かに似てる似てるとおもったのだが↓↓


中江有里さんだ。

似てません??


一瞬ぶんむくれた八重ちゃんですが、

恵太郎がそばにくればニコニコ。


「恵太郎さん、映画でも見にいかないこと?」


ですが、

「よお、みんなで行こうよ」


京子、精二もさそって行こうということになる。


「姉さんをなぐさめる意味でもいいことだよ」



はい。で映画館へ。


そういや、「東京の女」

絹代ちゃんと江川宇礼雄の映画おデートあったな。


岡田嘉子の泣き顔のアップといい、映画館といい、

島津オヤジは「東京の女」意識してたのかもしれないなー


「隣の八重ちゃん」=アンチ「東京の女」

なのかもしれぬ。


はい。なんかイチャイチャしてますので、


八重ちゃん、心穏やかでない。



映画館からタクシーで移動。


夜の街、いまだと簡単に撮れるけど。


絶望的に暗いレンズと、感度の低いフィルムで、

まーよくやったものです。

なんか特別な工夫とかあったのか?


当然鮮明には写りませんけど。

雰囲気はいい。


すごくいい。


で、「八重」なんてまぎれこませます。


で、料亭へ。


「いくら食べても大丈夫」


「姉さんのおごりだから、安心して食べましょうよ」


フフフフフ……


いいないいな。こういうの大好き。


↓↓フレームの中に、八重ちゃんと恵太郎のカップルをおさめて……


で、京子(岡田嘉子)は

精二君の左にちょこっとしかみえない。


この1ショットで「隣の八重ちゃん」のすべてをみせてしまっているわけで……


すげーな、島津保次郎。


もっといろいろ見たいんだよな~

見れないんだよな~


その3につづく。


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