だいぶ前に わたくしが、曲亭馬琴先生の「南総里見八犬伝」を易・五行で読み解く、とかいうヘンテコな記事を
連投していたのを御記憶の方は 誰もおられないとおもうのですが――
易の勉強は引き続きやっているわけです。
といって……
主に本田濟(わたる)先生の
「易」(朝日選書)
「易経講座」(斯文会)
これをゴリゴリと読んでいる、というだけのことなんですけど……
で、Amazon で易関係の本をたまに探ったりするもので
Amazon様がどういうわけか、
イーチン・タロットというあやしげなものをしきりにお勧めしてきやがりまして……
(イーチン、I Ching →易経のことです)
絵柄がキレイだったのでついつい買ってしまいました。
キレイなお尻……
じゃなかったキレイなおねえさんの絵がたくさんあって大変よろしいものです。
しかも、これが結構よくできてる。
「ム。できる……」
「こいつは易のことをよくわかってるな」というのがわかるわけです。
で、一体 紅毛碧眼の連中はどのように「易経」を理解していやがるのか?
そもそも 野蛮な紅毛碧眼にこんな高級な書物が理解できるのであろうか?
とおもいまして――
今回読んでみたのがこれ↓↓
The I Ching or Book of Changes
リヒャルト・ヴィルヘルムのドイツ語訳からの重訳であるらしい。です。
結論から先に書いてしまいますと……
さすがに英語圏の「易経」のスタンダードらしく、
まったくもって良くできてました。
正直バカにしてた「イーチン・タロット」がとても良くできていて、
これまた若干バカにしていた「I Ching」がこれまた良くできている、という……
あ。正直申し上げると……
まだザザッと読んだだけなんですけど……
以下、とりとめもない感想をば。
・易のシステムは英語の方がわかりやすい。
易って仕組みがちょっとややこしいので
そこを理解するのに時間がかかるのですが――
英語で考えた方がすんなり頭に入ってくるような気がします。
八卦
☰☷☳☴☵☲☶☱
これを The eight trigrams といい、
trigram を上下に重ねたものが
hexagram (→卦・か)という具合。
☰
☰
乾のhexagram はこのように6本の「爻」(こう)で構成されるわけですが、
爻は英訳だと line ですわ。
乾のヘキサグラムの第1ライン 第2ラインという具合。
乾の卦の第一爻、第二爻というよりわかりやすい。
そもそも……
「卦」だの「爻」だの 易でしか使わないような漢字が登場するのがよろしくない。
「trigram」「hexagram」「line」 こっちのほうがすんなり頭に入ってくるような気がします。
そのほか、
Unbroken line →陽爻・剛爻
Broken line →陰爻・柔爻
The great man →大人
The inferior man →小人
The superior man →君子
という具合なのだが、易を御存じない方にはまったく意味不明なのでこれくらいにしておく。
・英語にするとダサくなる場合もある。
トリグラム、ヘクサグラム、ライン、がかっこええ、といったのですが……
「革」の卦の上六。
君子豹変す。(君子は豹のごとく変ず)
↓↓
Six at the top means:
The superior man changes like panther.
君子豹変す。だとかっこいいのですが、
「パンサー」とかいわれると、思い浮かぶのはヒョウ柄のけばい服を着たおばちゃんだったりする……
まあ、ネイティブの人がどうおもうのか きいてみたいような気がしますが。
あとは「中孚」(ちゅうふ)の卦辞。
中孚は、豚魚にして吉なり。
↓↓
THE JUDGMENT
INNER TRUTH. Pigs and fishes.
Good fortune.
豚魚にして吉、なんていうと禅問答みたいな風格があるのですが、
Pigs and fishes だとなんでしょうね。
東南アジアの屋台で売ってる料理みたいです。
ただ、「中孚」→インナー・トゥルース というのはかっこいいですね。
「孚」なんて漢字わけわからんもんね。
・気にいっている部分を書きぬいてみる。
わたくしの気に入ったところを書きぬいてみます。
個人的に……「易」で一番かっこいいのは
「睽」(けい)の上九だとおもうのですが……
Nine at the top means:
Isolated through opposition,
One sees one's companion as a pig covered with dirt,
As a wagon full of devils.
First one draws a bow against him,
Then one lays the bow aside.
He is not a robber; He will woo at the right time.
As one goes, rain falls; then good fortune comes.
仲間外れで独りである。
見れば豚が背中に泥を背負っている。
車一杯に幽霊が載っているのを見る。
そこで幽霊を見た者は慌てて、最初弓に弦を張る。
後にはその弦を外す。
相手は仇や敵ではなかった。実は自分と婚姻すべき相手であった。
さらに前進して雨になれば吉であろう。
(斯文会・本田濟著「易経講座 下一」264ページより)
これ、キーツの詩の一節です、とか シェリーの詩の一節です、
という雰囲気。(かってにうっとりしてるだけだが)
まあ、もともと易経がかっこいいのだな。
あと、……
「易経」の最後の二つの卦というのは、
「既済」「未済」なんですが、
ようするに
「完成」「未完成」ってことなんですよ。
つまり「易経」って 「未完成」をさいごに終わる というものすごい書物なんですけど……
そのあたりのことを……
NOTE. The hexagram AFTER COMPLETION represents a gradual transition from a time of ascent past a peak of culture to a time of standstill. The hexagram BEFORE COMPLETION represents a transition from chaos to order. This hexagram comes at the end of the Book of Changes. It points to the fact that every end contains a new beginnig, Thus it gives hope to men. The Book of Changes is a book of the future.
(トマス訳) 注:既済(完成のあと)という卦が示しているのは、文明のピークを過ぎた、上昇の時から停滞の時へのゆるやかな変化である。未済(完成の前)という卦が示しているのは、混沌から秩序への変化である。この卦は「易経」の最後を飾っている。つまり、すべての「おわり」はあたらしい「はじまり」を含むことを意味している。このことはわれわれに希望を与えてくれる。「易経」は「変化の書」であるとともに「未来の書」でもあるのだ。
とかっこよく説明してます。
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ああ、そうそう、
易経だらけのSF……
「高い城の男」のフィリップ・K・ディックが参考にしたのはこの本だそうです。
この小説では、作者の謝辞にもあるとおり、ヴィルヘルムのドイツ訳をさらにべインズが英訳したテキストが使用されている。小説のなかのある人物のバイネスという偽名が、この英訳者の名とおなじ綴りのBaynesなのはなにか意味がありそうだ。
(ハヤカワ文庫、フィリップ・K・ディック著、朝倉久志訳「高い城の男」398~399ページより)