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今野緒雪「マリア様がみてる」の元ネタは、吉野裕子「蛇」である。

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久方ぶりの「マリみて」研究です。

旅行の記事は 写真の整理がまったく進まないので 後回しです。

(あまりに撮りすぎた)

 

 

□□□□□□□□

しかし、今回は(も?) 完全な妄想な気がします。

妄説。です。

 

一体、なにを主張するのかといいますと、

◎紅薔薇姉妹――

小笠原祥子・福沢祐巳・松平瞳子は、

ヘビ三姉妹である。

以上です。

 

……

……えー、

……と、うわ!

……痛っ!

……あの。紅薔薇ファンの皆さん、モノを投げないでください……

 

――

――以下、証明いたします。

 

①今野緒雪のニョロニョロフェチ。

「いばらの森」の感想のラストあたりに書いたのですが、

「マリみて」を読んでると、

異様なまでにニョロニョロしたものの描写がおおいことに気づかされます。

 

まあ、そもそも物語の出発点は

「祐巳ちゃんの歪んだタイ」という長いニョロニョロしたものの描写で

その様子を写真に撮っていたのは「蔦子」さん、という

これまた「蔦」というニョロニョロした名前の女の子でありました。

そして小笠原祥子さまは、しきりに祐巳ちゃんのリボンに触りたがります。

 

それから「いばらの森」の感想をくりかえすと……

 

・「いばらの森」→p106~麺食堂シーン。

p236~三つ編みシーン。

前回長々引用したので、麺食堂シーンはまあ、いいでしょう。

聖&栞のラブシーンだけちょっと引用しますか。

 

 私はなぜだか意地になって、二人の髪を三つ編みにした。栞の髪を二筋、私の髪を一筋とって。そして、やっと私たちの髪は一つになった

(集英社コバルト文庫「マリア様がみてる いばらの森」237ページより)

 

次巻の「ロサ・カニーナ」では……

・「ロサ・カニーナ」→p104 ミミズ。

p230 なかきよ。

 

 カサカサ。

 心が、荒んでいく。

 日照りのアスファルトに迷い出たミミズのように乾燥して干からびて、もともとは何だったのかわからなくなってしまいそうだ。

(集英社コバルト文庫「マリア様がみてる ロサ・カニーナ」104ページより)

 

 なかきよの

 とおのねふりの みなめさめ

 なみのりふねの

 おとのよきかな

 

「ははあ、回文ですね」

 白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)がつぶやいた。

「回文、って?」

(同書230ページより)

 

「ミミズ」は、祐巳ちゃんの心理描写です。

祐巳=ヘビという名を持つ少女が 自分を干からびたミミズだとおもう。

どう考えてもニョロニョロを意識してます。

今野先生レベルの作家が比喩を無意識でザザッと書き散らかすということはありえません。

「なかきよ」は、

まあ、いろいろな意味がこめられていますが、

(回文=ジャック・ラカンのいう〈対象a〉だとおもうし、民俗学的な意味もある)

ここではニョロニョロの一種とみてみたい。

無限に回転し続けるニョロニョロ、と。

 

以下、気づいたものを全部引用するとキリがないので――

めぼしい物だけ挙げますと……

 

「いとしき歳月(前編)」→p206~ 安来節

祐巳ちゃんのかくし芸、安来節、

といえば、どじょう。

どう考えても長くてニョロニョロです。

(コバルトでは「やすき」とふりがなが振ってあるが、

正確には「やすぎ」である。と、ごく最近山陰に旅行に行ったトマス・ピンコは注をいれる)

 

・「パラソルをさして」→p202 鍋焼きうどん

かの名高き「レイニーブルー」で破綻しかけた祐巳&祥子。

カップルの和解のシンボルのように登場するのが

このニョロニョロした食べ物です。

 

・「未来の白地図」→p12 エンドレスしりとり

→この巻は冒頭からニョロニョロしたものだらけですさまじいです。

 

 み、ミルフィーユ。

 ゆ、祐巳。

 み、ミルフィーユ。

 ゆ、祐巳。

 

 (ああ、だめだ)

 また、心の中でつぶやいている。

 小笠原邸からの帰り道、柏木さんの車の中で始めた、エンドレスの一人しりとり。

(集英社コバルト文庫「マリア様がみてる 未来の白地図」12ページより)

「なかきよ」にちょっと似てますね。無限に回転し続けるコトバ。

回文じゃないですが。

これまた祐巳ちゃんの心理描写なのですが、

これが「編み物」をしながらというのがすさまじい。今野緒雪、間違いなく天才です。

そして、

 

 祐巳は何度目かのため息をついた後、ラーメン化した毛糸を毛糸玉にクルクルと巻き戻して顔を上げた。

(同書14ページより)

こんな 毛糸=ラーメンというニョロニョロだらけの描写の後に

ご存知のように、未来の「妹」松平瞳子登場。というわけです。

 

あと、これははずせないですね。

「卒業前小景」→p186 黒いリボン

 

 二人は空いている手で、お互いの身体を引き寄せた。

 

 黒いリボンが、二人の手首に巻きついて離れない。

 

               触れあった場所から、お姉さまのぬくもりが伝わってくる。

 

    二人の涙が混ざり合って、制服を、床を濡らしていく。

 

 祐巳も、今わかった。

 こうして抱き合って泣くことこそが、二人にとって必要な儀式だったのだ。

(集英社コバルト文庫「マリア様がみてる 卒業前小景」187ページより)

 

祥子&祐巳のラブシーン。

聖&栞の三つ編みもそうなんですが、

ラブシーン、となると、ニョロニョロを描かないではいられないわけです。今野緒雪という人は。

 

さらに……祐巳=ヘビ、祥子=ヘビ だとしたら……

 

 

②小笠原祥子=ヘビ

はい。

祥子さまファンのあなた、申し訳ありませんね。

でも祥子さまはヘビなんです。

色々な意味で。

 

一番わかりやすいのはこれ。

「クリスクロス」のラスト近く……

 

「祐巳」

 名前が呼ばれた。

「は、はい」

 蛇に睨まれた蛙、ってこんな感じなのだろうか。どうにか返事をすることはできたが、身体が硬直して身動き一つできない。

 祥子さまがゆっくり、祐巳のもとに歩きだした。

(中略)

「祐巳さまっ!」

 そこに現われたのは、予想だにしていなかった人だった。

 ――松平瞳子。

「瞳子ちゃ……」

 瞳子ちゃんは、熊でも一頭倒してきたみたいな荒々しい息づかいで、祐巳を睨むように見据えていた。

 トレードマークの縦ロールが、見る影もなくグチャグチャに絡んでいる。

 目の錯覚だろうか、二月の平均的な寒さの中で、彼女の制服からは湯気が立ち上っているようにさえ見える。

 さっきの祥子さまが蛇なら、今の瞳子ちゃんには「なまはげ」の怖さがあった。

(集英社コバルト文庫「マリア様がみてる クリスクロス」149~151ページより)

 

 

ここね。読者の誰もが、瞳子ちゃんの

「私を、祐巳さまの妹にしていただけませんか」

に目が行ってしまうのですが……

 

小笠原祥子=ヘビ

の構図をこんなところに忍ばせてしまう、今野緒雪、おそるべしです。

 

まあ、でも……これだけだと弱いですよね。

お次、登場するのは、祥子&祐巳の初デート。

あの輝かしきジーンズ試着シーンなのですが……

 

「あっ!」

 大きく傾ぐ祥子さまの身体を、祐巳はあわてて支えた。

「お姉さま、私の肩に手を置いてください。それで、かかとを上げるのは片方ずつにしましょう」

「……そうね。わかったわ」

 やがて祐巳の両肩に、重みがかかった。こんな時なのに、こんなことが不思議に嬉しい。今、お姉さまの身体を支えているんだ、っていう実感と、それからお姉さまが信頼して体重を預けてくれていることと。

「じゃ、右足から」

 祐巳の言葉に従って、祥子さまの右かかとがそっと上がる。裾を大ざっぱに折り返してから、左も同じようにする。取りあえずかかとを出してあげないと、バランスを崩しても踏ん張れないから。

 

 いつもスカートの下から見慣れているはずなのに、ストッキングを穿いているだけで祥子さまの足は大人の女性の足に見えた。こういうきれいな足を見ると、「足フェチ」の人の気持ち、わからないでもない。

(集英社コバルト文庫「マリア様がみてる ウァレンティーヌスの贈り物(後編)」99~100ページより)

 

この異様なまでに詳細な描写にひっかかる読者はけっこう多いのではあるまいか?

絶対なにかを隠している?? そう見るのが妥当なところです。

答えを言っちゃうと、これは

ヘビの脱皮

なのです。

 

 蛇は身体をねじるように這いまわり、顔を床や枝にこすりつけるようにして、まず下アゴ、続いて上アゴ、というような順序で皮をはがし、あとは蠕動運動を行ないながら身体を前に進ませると、皮は裏返しに残ってゆく。女性がストッキングを裏返しにしながら、足を抜いてゆくのと同じである。

 しかし事はそれほど簡単ではない。長い身体を這わせながら、上手に抜け出るのには大へんな努力がいる。

(法政大学出版局、吉野裕子著「蛇 日本の蛇信仰」7ページより)

 

ヘビは脱皮によって生まれ変わります。

ヘビ娘・小笠原祥子はおなじくヘビ娘・福沢祐巳の援助によって 脱皮を成功させる。

そして、ジーンズ・スニーカーという今までしたことのない新しいファッション(皮)を身に着けるわけです。

生まれ変わるわけです。

もちろん「ストッキング」というのが重要なワードでしょう。

2月なんだから当然ストッキングを穿いているわけですが、そんなディテール描かないでも済んだはず。

でも、脱皮シーンなのでこのワードは必要だったわけです。

あえて「ストッキング」と書いたわけです。

 

えー、どうでしょう。祥子さま=ヘビ。

以上でほぼ確定かと思いますが……

 

最後はきわめつけ、祥子さまが

代々「S」という名前を持つ一族

……の出身であることを見ていきましょうか。

 

祥子さまのお母さまの名前が「清子」(さやこ)であることが判明するのは

もちろん「なかきよ」です。

「ロサ・カニーナ」の197ページが初出だと思う。

 

「おめでとうございます。お久しぶりです、清子小母さま」

「まあ、聖さん。お元気でした?」

(集英社コバルト文庫「マリア様がみてる ロサ・カニーナ」197ページより)

 

で、祥子さまのお祖母さまは「彩子」(さいこ)

 

「そこにいたのが、お祖母さまのお友達だったの。その方も私も、すぐにわかった。なぜって、私を見て『彩子さん』って呼んだのですもの」

 祥子さまは興奮して、早口になった。

(集英社コバルト文庫「マリア様がみてる パラソルさして」191ページより)

 

彩子(Saiko)→清子(Sayako)→祥子(Sachiko)

という具合。

さらに清子という名の初出に佐藤聖(S・S)が関わり、

彩子という名をはじめて口にするのは祥子さま、という「S」だらけの凝りようです。

 

で、この「S」――

もちろん「エス」なわけですけど、

sister(シスター・英語)  soeur(スール・フランス語) sorella(ソレッラ・イタリア語)

の「S」なんですけど……

 

もうおわかりでしょう。

Snake ヘビ…… 🐍 の「S」でもあるわけですよ、当然。

 

③松平瞳子=ヘビ

 

んーだが、瞳子ちゃんは「S」の名を持つ一族ではなく

祐巳ちゃんのようにヘビという名前を持っているわけでもない。

 

でも、松平瞳子はすみからすみまで「ヘビ」しているのです。

まず、彼女の登場シーンをば。

「チェリーブロッサム」……当然、登場するのは乃梨子―瞳子です。

 

「私、入学式の日から乃梨子さんとお近づきになりたいと思っていましたの」

 確か瞳子と名乗った、両耳の上で縦ロールをつくった少女が言った。

(中略)

「入学式の時、乃梨子さん、新入生を代表して挨拶なさったでしょう?」

 その声に顔を上げると、待っていたのは瞳子のキラキラした瞳。まだ、話は終わっていなかったようである。

「挨拶……、それが何か」

 言葉遣いにも慎重になる。この場所がどのようなところなのか完全に把握できるまでは、不用意に目立たないことが賢明だ。

「いえ、ただ。新入生の挨拶をされた方ってだけで、やはり注目してしまいますわ」

 言葉の真意を量りかねる不思議な表情で笑うと、瞳子は乃梨子のタイの形をそっと直した。

乱れたタイは、要注意ですから

「?」

「上級生に注意されたりしては大変」

 ――彼女は世話焼きなようである。

 銀杏並木は蛇行しながら先へ先へと延びていく。二股の分かれ道の真ん中で、少女たちは立ち止まる。

(集英社コバルト文庫「マリア様がみてる チェリーブロッサム」14~16ページより)

 

まず、「縦ロール」――あとあと聖さまが「電動ドリルちゃん」などと言い始めるのですが、

それよりも「ヘビのトグロ」とみるのが妥当でしょう。

 

 蛇のトグロの巻き具合から、性質や健康がわかる。身体の上に身体を積み上げるようにして、盛り上がりのあるトグロは筋肉がよく締まっていて元気なしるしである。全身を床にベッタリつけた盛り上がりのないトグロはスタミナを消耗している場合の特徴である。

(法政大学出版局、吉野裕子著「蛇 日本の蛇信仰」9ページより)

 

↑↑にみました、「私を、祐巳さまの妹にしてくださいませんか」シーンで

縦ロール……トグロがグチャグチャになっているところに注目。

 

それと……「瞳子のキラキラした瞳」――

いやがうえにも「目」の強調。ヘビです。ヘビなんですよ。

 

 蛇の目は光らないが、蛇の目にはマブタがなく、透明な角質で蔽われ、いつも開き放しで、マバタキをしない。いつもじっとにらまれているかんじがする。その畏敬、おそれから、蛇は目が光るとされてきたのである。

(同書6ページより)

 

瞳子の登場シーン。

こうして彼女の「ヘビ」要素を描きつつ、

「タイ」というお決まりの長くてニョロニョロした物の登場。

そしてさいご、きわめつけのワード。

「銀杏並木は蛇行しながら……」

で、締めくくる今野緒雪、すさまじいです。

 

 

で、きわめつけのヘビ要素は、同じく「チェリーブロッサム」ですが……

 

「と、瞳子ちゃん!」

 四人は一斉に、驚きの声をあげた。

 階段の音はしなかった。それなのに、ビスケット扉の前、いやそれよりずっと踏み込んだ場所に、縦ロールの少女が一人立っていた。

「どどど」

 今回は、祥子さまと令さまが道路工事の擬音を発した。

「どうしてここにいるの」

「どうして、って? 玄関の扉を開けて、階段を上って」

「全然、音しなかったわよ」

「えー、そうですかぁ? お話に夢中になっていたからじゃないですかぁ? あ、でも瞳子、舞台女優だから、音立てずに歩くこともできるんですよー

(集英社コバルト文庫「マリア様がみてる チェリーブロッサム」177~178ページより)

 

はい。もう確定でしょう。

音を立てずに歩けるのは、瞳子=ヘビだから、です。

 

ああ、そうだ、ついでに「松平」の「松」ね。

 

 蒲葵(びろう)のほかに日本本土では藤・竹・梛(なぎ)・黄心樹(おがたま)・松・杉なども神木とされた。それらは蒲葵ほどではないが、種々の観点から蛇に見立てられ、そのために神木となり、神域に植えられたのである。

(法政大学出版局、吉野裕子著「蛇 日本の蛇信仰」29ページより)

 

と、松=ヘビの構図もありそうな気がします。

 

□□□□□□□□

以上、いかがでしょうか?

小笠原祥子=ヘビ

福沢祐巳=ヘビ

松平瞳子=ヘビ

 

◎紅薔薇三姉妹はヘビ三姉妹である。

そう結論づけてよいのではあるまいか??

 

あとですねー、今はやりませんが

「キツネにつままれた」

今野先生好きですよねー

で、「狐」というと やはり吉野裕子先生なわけで……

 

どうみても今野緒雪は吉野裕子の愛読者のような気がしてならんのですよ、はい。

 

あと……これでさいごにしますが……

 

「薔薇のミルフィーユ」

由乃―奈々ですが、

 

「失礼しました、島津さま」

「できたら、由乃っていう下の名前で呼んで」

「ヨシノさま……ですね。あの、染井吉野の吉野ですか?」

 本当にまったくと言っていいほど私のことを知らないんだ、この子。――と、由乃はちょっぴり感動した。

 自意識過剰と言われようと、由乃が高等部の中で結構有名人の部類に入ることは間違いない。

 でも、この子は知らない。脳天がしびれた。

「自由の由に、若乃花の乃」

(中略)

「ああ、乃木大将の乃……」

 若乃花ではピンとこなかった奈々は、あまり相撲には詳しくないらしい。しかし、乃木大将ときたか。渋い中学生だ。

(集英社コバルト文庫「マリア様がみてる 薔薇のミルフィーユ」21~22ページより)

 

由乃=吉野

これがなぜくり返されるのか??

 

「島津由乃。シマは日本列島の島、ヅは甘栗で有名な天津の津、ヨシは自由の由、ノは乃木大将の乃。染井吉野のヨシノではありません」

(集英社コバルト文庫「マリア様がみてる 未来の白地図」122ページより)

 

リリアン女学園のトリックスター、

「マリア様がみてる」のもう一人のヒロイン、島津由乃ちゃんの「ヨシノ」は……

 

ひょっとして吉野裕子の「ヨシノ」なのではあるまいか???

 


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