さいきん
兵頭二十八・小松直之共著 「日本の高塔」
という本を読みまして――
(古本で購入。図書館の蔵書だったっぽい↓↓)
たいそう感銘を受けたわたくし。
1999年初版の本でして、内容は古くなっているとおもうが
(もちろんスカイツリーは入ってない)
日本各地の バカ高い構造物を網羅していてなかなかおもしろい。
東京タワーやら横浜マリンタワーだの まあわかりやすい「塔」だけではなく、
「煙突」「架空送電鉄塔」「吊橋主塔」などなど
とにかくバカ高い構造物を集めている本。
この本を読んで、
「そういや、小津安っさんの作品には煙突とか東京タワーとかでてくるな」
と、おもったわたくし。
――全作品を「塔」「高塔」という視点で、もう一回見直してみたらおもしろいのではあるまいか??
などと、おもいついたわけであります。
まあ、じっさいにやってみたのが以下の分析です。
※ただし、見切り発車ですので、全作品ちゃんと分析するかどうかはわかりません。
※シナリオは 新書館・井上和男編「小津安二郎全集」(ようやく手に入れた)を参照します。
□□□□□□□□
1、「若き日」(1929)
上記のように、見切り発車でとりあえずやってみたのですが、
想像以上に「塔」が多く、
まったく驚いてしまった 小津安っさん現存最古の作品。
はじめに結論を書いてしまいますと
小津作品においては
「塔」=「モダン」
「塔」=「希望」
そういった役割を担ったシンボルとして描かれるようです。
S1 早稲田附近の街をパノラミックする
しょっぱな 昭和初期のトーキョーを カメラをパンさせて撮っちゃってます。
パンですよ。小津がパンしてますよ。
これがみごとに「塔」だらけなんです。
それはまったく意識してなかった……
昭和初期のトーキョーは
煙突。電柱。通風筒。等々、「塔」だらけというのがよくわかる。
このシーンの主眼は
「塔」だらけのモダン東京―「塔」のない、ダサい東京
この対比でしょう。
主人公たちは、「塔」のない、ダサい東京に住み、
モダンな彼女
モダンなスポーツ(スキー)
にあこがれるという構図。
ふうむ、実によくできたシーンです。
S23 ペンキ、ぬりたて也
眼鏡くんは斎藤達雄ですね。
ぬりたてのペンキで手が汚れるという ベタなシーンですが、
これも当時は「モダン」だったのではあるまいか。
もちろん 電柱という「塔」が登場するわけです。
S25 或る喫茶店
カフェーで彼女とデート というモダンな風俗が描かれます。
さっきのシーンのペンキがカップについてしまって……という描写。
カフェーの窓の外は
「煙突」だらけ、というモダン風景。
今だと「煙突」=レトロですがね。
で……以下、「塔」の嵐です。
S48 山本の部屋
S49 二階から見た街の風景
カラカラと回転して居る通風器。
風に吹かれて横に流れて行く煙突の煙。
まあ、どなたもおわかりのように……
「塔」=「男根」なわけですね。
ちとしつこいくらいのフロイト的描写。
S50 渡辺、山本を見送り
山は雪だぜ
と呟く様に言う。
両人、ゾクゾクする笑い。
完全にセクシャルな欲望を表現するシンボルになってます。
つづきまして、
S67 吹く風に横に流れる煙突の煙
回転している通風器。
おカネがなくてスキーに行けない、という失意の二人。
ですが、
外を見ると
堂々と屹立する煙突――
なにがなんでも行こう。というシーン。
まあ、質屋に行って現金を調達するのですがね。
めでたく雪国に到着した後も
「塔」の描写の連続です。
S74 雪の妙高
こういう壮大なロケシーンは後年まったくやらなくなってきますね↓↓
旅館までの距離が 「電信柱」で数えられます。
あくまで「塔」で描写する 小津安っさんです。
このころは
ディゾルブなんてやってます↓↓
えー、で、いろいろあって フラれた二人。
ブスいヒロインには決まった相手がいるということがわかって失意です。
ヒュッテ・アールベルグ というのが登場しますが
「小津安二郎全集」のシナリオには このシーンは登場しません。
まあ、とにかく「煙突」です。「塔」です。
この煙突の先っぽが二つに分かれちゃっているのは↓↓
失意を表現するのか?
それとも深読みなのでしょうかね??
ドイツ趣味の小屋の中には
現存小津作品・皆勤賞の笠智衆!!――(初期作品では脇役です)
S101 都は今日も朝から 西風が吹いていた
S101 部屋
煙のなびく煙管。通風器。
これを寝乍ら見ている二人。
はい。
というように「塔」ではじまり「塔」でおわる。
ひたすら「塔」ばかりの「若き日」でありました。
おつぎ。
2、「朗らかに歩め」(1930)
「若き日」のあと、
小津安二郎は
「和製喧嘩友達」「大学は出たけれど」「会社員生活」「突貫小僧」「結婚学入門」
という作品を撮りますが、現存しません。
(「和製~」「大学~」は一部は残っている)
S1 ビルディング街の裏通り
S2 ビルディングとビルディングの細い道
というのですが、
実際に撮られたのは港町・ヨコハマ
「煙突」という「塔」がたくさん描かれます。
あとマストとかもありますね。
つづいて
大仏のシーン
「全集」のシナリオにはこのシーンのかわりに レストランのシーンというのがある。
左から 川崎弘子 松園延子 高田稔
大仏。
兵頭二十八先生の「日本の高塔」の分類だと 「モニュメント」ということになるでしょう。
まあ、巨大構造物ということで
「塔」の一種ということにさせていただきます。
「朗らかに歩め」では
「塔」のバリエーションが増えています。
あと……
◎主人公たち、上を見上げる……
→視線の先には巨大構造物(塔)……
という黄金パターン。
を、律儀に繰り返していることがわかります。
以下もそのパターンです。
ヤクザから足を洗ってカタギになった仙公(吉谷久雄)
勤め先の社長と 上方をみつめると――
これまた更生した兄貴(高田稔)が ビルディングの窓を拭いている。
全集のシナリオだと ホテルのポーターになっている。
だが「塔」という観点からみると、この窓ふきが正解‼ でしょう。
ビルディングの屋上のシーン。
お気に入りの通風器がカタカタ廻っております。
「塔」だらけのショット。
これはシナリオのS110 ホテルのガレージのシーンに相当するのでしょう。
これまたガレージよりも屋上の方が正解ですね。
3作品目。
3、「落第はしたけれど」(1930)
これはあんまり「塔」がでてこないのですが……
斎藤達雄が、角砂糖で「塔」をつくるというシーンが強烈です。
S37 下宿の二階
「塔」をつくるが崩れ落ちます。
わかりやすい失望の表現。
しかし「塔」というテーマが首尾一貫していることに
後世のわれわれは感銘してしまうわけであります。
すさまじすぎる、小津安二郎。
ラスト……
まあ、斎藤達雄は大学の卒業試験を落第しまして卒業できなかったのですが……
卒業した同級生たちは、就職難で、こっちもがっかりしてます。「大学は出たけれど」というわけです。
学生時代は良かったな。というシーン
S52 高橋たちの下宿
S53 大隈講堂の時計台が見える
左端は笠智衆ですね。
◎主人公たち、上を見上げる……
→視線の先には巨大構造物(塔)……
という黄金パターン。
ですが、これは絶望の表現として使われています。
4、その夜の妻(1930)
ここから、
岡田時彦時代がはじまります。
やっぱりいい役者ですね~
岡田茉莉子のお父さんです。
S1 深夜のビルディング街
巨大な円柱(塔)
このすさまじい圧迫感……
西洋風の街灯もありますね。
下の方にいるのはお巡りさん。
後年の小津安っさんは
画面内に意味不明なモノリス状の物体を挿入して
われわれ観客の感情をモヤモヤさせることに成功するのですが……
若い頃からこういうショットを撮っていたわけですな。
ラカンの「現実界」みたいな不気味なショット。
巨大資本の権威、権力……そこから疎外された主人公の葛藤、
そういったメインテーマがこのワンショットで表現されます。
作品の質、というか感触というか……
後年の「東京暮色」に似てますね。
このひたすら暗い雰囲気。
S42 自動電話のある街角
S43 自動電話の中
電話ボックスの中から高架線を見上げます。
(自動電話、というのか!)
例の黄金パターンですね。
「塔」+「鉄道」というお気に入りのモチーフを撮ってやりたい放題の安っさんです。
これは「省線」でしょうねえ。
で、ラストもやはり……
◎主人公たち、上を見上げる……
→視線の先には巨大構造物(塔)……
という黄金パターン。
S97 病児の部屋
まゆみ、みち子を抱いて這入って来て窓際に駆け寄り、窓をあけて露地を見おろす。
おもうのは、
聖母子像のイメージそのまんまだな。ということと、
八雲恵美子 キレイだな……
ということです。
S100 露路
周二と香川、立止まって振返り、見上げる。
左から 山本冬郷 岡田時彦
山本さんというのは ハリウッド映画の経験もある
当時有名な俳優さんだったらしい。
ふーむ。疲れたので今日はこれまで。
しかし 初期4作品で これだけの「塔」がでてくるとは――
はたして全作品制覇できるのか⁉
いつのまにかあやふやになって終わってしまうのか??